第5話 策士策に溺れる


 寝起きざまに、「シュ~」という音が私の家に襲来してくる。

 私は飛び起きて、鉄の剣を握った。

 なんとベッドの横に、そいつはいた。

 爆弾スライムが、今にも爆発しそうな顔で、シュ~と迫ってくる。

 爆弾スライムは普段真っ黒だが、だんだん真っ赤になって、膨らんで、いまにも爆発しそう。


「きゃあああああああああ!!!!」


 メープルも飛び起きて、「メェ~!?」と目を見開いて驚いている。

 私は咄嗟に、鉄の剣で爆弾スライムを攻撃した。

 すると――。


 ――キン!


 私の攻撃がヒットすると、どういうわけか、いったん「シュ~」という音が止まった。

 そして今にも爆発寸前だった真っ赤な爆弾スライムの身体が、元の色と大きさに戻る。


「どういうこと……?」


 だがその直後、再び爆弾スライムは「シュ~」と音を立てて膨らみ始めた。


「ぎゃあああああ! ダメええええええ!」


 私は思わず、もう一度鉄の剣で攻撃を加える。


 ――キン。


 すると、また爆弾スライムの状態は元に戻った。


「これ……もしかして……」


 私の仮説が正しいとすれば、どうやら爆弾スライムに攻撃を加えることで、爆発をキャンセルできるようだ。

 よかった……問答無用で爆発するのかと思っていたけど、ちゃんと対処法があるみたいだね。

 でも、そりゃあそっか、ゲームだもんね。

 対処法がないようなクソモンスターがいたら、SNSが大炎上するよ……。


「対処法がわかれば恐れるに足らず……! くらえ……! えい!」


 また「シュ~」とか言い出す前に、今度は先手必勝。

 私は爆弾スライムに思い切り剣を振り下ろした。

 すると――。


 ――キン!

 ――シュン……!


 三発目にして、爆弾スライムを倒すことに成功した。

 爆弾スライムは、爆発することなく、倒れると、静かに地面に消えていった。


「ふぅ……なんとかなったぁ……爆弾処理完了だね……」

「メェ~」


 メープルも安心して、ほっと溜息をつく。

 爆弾スライムが消えたあとに、ドロップアイテムが残される。


「これはなんだろう……?」


 拾ってインベントリに入れると、それは「火薬」×1だった。

 なにかのクラフトに使えそうだ……そう、爆弾とか……。

 まあ、そんな物騒なものは使わないに越したことないけど……。

 しばらくは必要なさそうなので、収納ボックスにしまっておく。


「さて……起きるか……朝から驚かされたけど……今日も働くぞ!」


 ……っと、その前に……。

 ちょっと待て、なにかがおかしい……。

 私の中に、なにかひっかかるものがあった。


「そうだ……。爆弾スライムはどこからきたんだ……?」


 ふと扉を見ると、扉は壊されてもおらず、閉じたままだ。

 誰かが開けて入ってきたような形跡もない。

 じゃあ、爆弾スライムはどうやって中に入ってきたんだ……?

 気がついたら、私のベッドの横で「シュ~」ってきこえたんだよね。


 これは密室ミステリー?

 なんか怖い……。

 どういうことなんだろう……。


「もしかして、この部屋の中に急に現れたのか……? 部屋の中で湧いた?」


 それなら怖すぎる。

 でも、もしそうなら、その条件は?

 なにが悪かったんだろう。

 前の家ではこんなことなかったのに。

 なにか対処法は?


 と、そのときだった。


 ――ボン!


 急に、部屋の角にゾンビが現れた。

 なにもないところから、突然だ。


「わあああああああああ!!!?」


 私は驚いて、でも怖くて、とりあえず殺さなきゃって思って、鉄の剣を抜いた。

 ゾンビに斬りかかる。


「こないでえええええええ!!!!」


 スライムとかならまだいいけど、ゾンビは見た目もあって怖いし、無理。嫌すぎる。キモイ。

 5回ほどゾンビを斬りつけると、ゾンビは倒れて、そのまま地面に消えた。


「ふぅ……まったく、今日はなんなんだ……」


 でも、これで謎が解けた。

 どうやらさっきの爆弾スライムも、今のゾンビみたいに、この部屋の中で湧いたんだ。

 だとしたら、ヤバすぎる……。

 部屋の中にモンスターが湧くなんて、おちおち眠っていられないよ。


 私はさっきゾンビが湧いた地点を眺めていた。

 そして気づいた……なにがいけなかったのか。


「もしかして……灯り……?」


 そう、今ゾンビが出現した場所は、部屋の中でもひときわ暗い場所だった。

 部屋の中が明るすぎるより、少し薄明るいほうがいいかなと思って、松明はベッドの横にしか置いていなかったのだ。

 もしかしたら、それがいけなかったのかもしれない。


 基本的にモンスターは、夜、暗い森の中からやってきていた。

 じゃあつまり、暗かったら、外じゃなくても、家の中でも湧くってことなのかもしれない。


「もしそうだったら、念のため、松明を多めに置いておこう……っと」


 私は急いで、部屋じゅうに松明を置きまくった。

 これで部屋の中はこれでもかというほどに明るくなった。

 だけど、これじゃ不十分かも。


 念のため、採掘場にも降りて、採掘場も光源を確保しておく。

 採掘場にモンスターが湧かれても面倒だしね。

 あとは、家の入口の外。

 柵の中や柵の周りにも、松明をいくつか置いておいた。

 これで、家の周りは一通り明るくなったぞ。


「うん、これでよし」


 こうしておけば、森の中からも灯りが見えるし、帰ってきたときにわかりやすい。

 それに、人が住んでいるって証拠にもなるから、もし来客がきたときにも、便利だ。

 これでモンスターが湧かないようになってくれればいいんだけど……。

 私の仮説が間違っていないか、心配だ。

 もしこれでも部屋の中に湧いてくるようなら、いよいよ死だ。


 うーん、これでもまだちょっと心配だな……。

 いかん、さっきのがトラウマになっている。

 ほんと、モンスター怖い。

 

 よし、こうなれば、徹底的に防御を固めるぞ。

 私はクラフトメニューから、罠をクラフトすることにした。



 ◆トラバサミトラップ

 必要素材

  ・鉄インゴット×1


 ◆トラップドア

 必要素材

  ・木材ブロック×3



 トラバサミトラップと、トラップドアの2種類のトラップを作ってみた。

 コストも少ないから、いくつか作っておいた。

 まず、トラバサミトラップを柵の周囲に張り巡らせる。


 あとは、落とし穴を掘る。

 落とし穴はスコップを使って掘る。

 そういえばスコップ作ってなかったな、と思って、スコップも作る。

 鉄がもったいないから、スコップは鉄製じゃなくてもいいよね。

 

 

 ◆石のスコップ

 必要素材

  ・石ブロック×3

  ・木の棒×1


 

 スコップで地面を掘ると、地面はプリンのように簡単に抉れた。

 うん、さすがスコップ、これなら非力な私でもたくさん穴を掘れる。

 えっさ、ほいさ。

 家の周りに、いくつか落とし穴を掘った。


 そして落とし穴の上に、トラップドアを設置。

 トラップドアというのは、感圧式で反応する自動ドアのことだ。

 獲物がトラップドアの上にやってきたら、自動で開いて、そのまま落とし穴に落下する仕組みだ。


「これで良し……っと」


 あとは、落とし穴やトラバサミを自分で踏まないようにしないとな。

 一応場所は覚えてるし、見ればわかるから、よっぽどドジじゃないと、自分で踏んだりはしないだろうけどね~。


「まあ、さすがの私もそこまで馬鹿じゃないよ~」


 いったん家に戻ろうとしたそのときだった。


 ――ズドーン。


「きゃ……! いて……!?」


 なんと、私は落とし穴に落下してしまった。


「そんな馬鹿な……この私が……自分の罠にはまっただと……」


 策士策に溺れるとはこのことである。

 いや、違うか?

 

 でも、落とし穴でまだよかった。

 多少腰を打ったくらいで、幸い怪我はない。

 これがトラバサミとかだったら、出血してたかもしれないと思うとぞっとする。

 森の中で傷を負ったりしたら、いろいろ怖い。


 とりあえず、落とし穴から出よう。

 私はその場で、はしごをクラフトすることにした。



 ◆木のはしご

 必要素材

  ・木の棒×6



 はしごを落とし穴の壁に設置して、なんとか上に上がる。

 ふぅ……散々な目にあった。

 そのあと、農業やら釣りやら日課をこなしていたら、あっという間に夜になった。


「いっぱい罠をしかけたからね。明日の朝が楽しみだ」


 幸い、松明を置いてからは家の中でモンスターが湧くことはなかった。

 やはり、どうやらモンスターが湧く条件は、暗闇ということらしい。

 松明で明るくさえしておけば、モンスターが湧くことはないみたいだ。

 そのうちもっと家の周り広範囲を湧き潰ししたいな。

 

「でもこれで、今日はぐっすり眠れるよ……。もうモンスターの早朝寝起きドッキリに悩まされることもないんだね……」


 私は安心して、布団に入った。

 その日は安心からか、よく眠れた。

 そして朝起きて、家の外へ出ると――。


「ぎょえええええええええ!!!!」


 ゾンビが何体か、トラバサミに引っ掛かって燃えていた。


「あはははははは!」


 なんかおもろい。

 あとでゾンビのドロップアイテムを回収しておこう。

 ゾンビのドロップアイテムは、「腐肉」だった。

 これなにに使えるんだ……?

 まあとりあえず収納ボックスに入れておくか……。


 んで、落とし穴のほうには、何体か爆弾スライムがひっかかっていた。

 どうやら爆弾スライムは人間がある一定の距離にいないと爆発しないようで――だから落とし穴の上から剣で攻撃して、安全に処理した。

 うん、なかなかトラップいい感じじゃん。


 そして、なんと3つ目の落とし穴を見に行くと――。

 そこには野生のイノシシが引っ掛かっていた。

 イノシシっていうか、イノシシモンスター?

 鑑定すると、名前は「イノシブタ」というようだ。

 とにかく、肉が向こうからやってきた。


「イノシシ……! 肉うううううううう!!!!」


 私は小躍りした。

 

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