第27話 閑話 クズには何をしても許される
こんなの絶対におかしい!
……僕はずっと必死に生きてきたんだ。
生きるためなら何でもやった。
借金取りに追われてどこかへ消えた両親のせいで、僕と弟の生活は最悪だったから。
盗み、詐欺、横領……見た目が小さくて気の弱そうな僕は人に信頼されやすかった。
真面目に人を騙して、真面目にお金をかき集めて生きてきた。
だけど、15歳の成人の儀で、僕が授かったスキルは【触れた物の容量を3倍にする】というハズレだった。
……触れた物、例えばリュックを広げたところで中身の重さは変わらないし、非力なままでは使えない。
僕の後ろに並んでた奴は【触れた物を一時的に別の空間に入れる】だった。
正直そっちが良かった、そっちなら町中でスリがやりたい放題だったのに……神様は不公平だ。
せめて【力持ち】みたいなスキルも一緒だったら良かったけど、今さら筋トレなんてやりたくないよ。今のままがいい。
だけど僕も食べないと生きていけないから。
仕方なく、仕方なくだけど、ギルドでダンジョンに連れて行ってくれるパーティを探して、働いたんだ。だけどあいつらは僕を少し雇ったあとはすぐにクビにした。
――僕が貴重な素材をポケットに入れていたから。
――僕が邪魔だと思った重たい素材を捨て……落としたから。
色んな理由で僕の報酬をケチってさ。分け前をくれないなら勝手にもらうしかないじゃないか。
なのに、あいつらは僕がお金を盗んだとギルドに言いつけて、周囲にも言いふらして。
おかげで僕を雇ってくれるパーティは新人しかいなくなっていた。冒険者は自己責任なのに、ギルドの奴らが新人たちに注意喚起をしていたことを知ったときはすごく理不尽だと思った! だけど誰も僕の味方をしてくれない、そんなときだ〝炎の誓い〟に出会ったのは。
地方から王都に出てきたばかりの田舎者たち、僕の悪評が届く前になんとかパーティに入ることができた。うまくやったと思ったのに。
一緒に同行してみれば、実力を過信する馬鹿ばかりで、僕の扱いは最悪だった。貴重な物は預けてくれないし、常に疑いの目で見られていた。
食料と1階層で集めたショボい魔獣の素材、重たい野営道具……はぁ、こんなの大した金にならないよ。
僕は途中から帰ろうとずっと提案していたけど、彼らは無視して2階層にまで足を踏み入れた。
少しはましな素材でも取れれば儲けものと思って我慢したけど無駄だった。
――そして僕は大きなミスをした。
遠目でもわかる大きな魔影、少しは良い物を持っているかもしれないと思って、脳筋エンヤに教えてあげたんだ。魔影とはいえ結構大きな感じだし、僕が勝てるかもわからない。エンヤなら怪我しても僕には関係ないし。
新種だった、僕が報告しても信じてもらえないから逃げようと言ったけど無視された。
そりゃあ、あんなに大きな魔影だ。
中身はお宝でいっぱいかもしれない、簡単に倒せればお宝も少しは分け前をもらえたかもしれない。
だけど、新種は強かった、あまりに怖くて少しだけズボンが濡れてしまった。
ああ、どうして僕ばかりがこんな目に……! あいつはスキルにも恵まれてたのに、あいつばかりがひいきされてズルい。
「ゴッフ、ゴッフ……」
激しい息遣いが近づいてくる。
体力がもたない、視界が揺れていくのに僕の思考だけは鮮明に過去を思い出していく。
『今後、――の名を利用することを禁じる』
クソ教会で禁制魔法をかけられた、あれがなければもっと楽に生活できたのに。
ああ……もう限界だ。
どれくらいの時間が経ったかすらわからない、喉が渇く、体中がチクチクして痛い。
足の力が抜ける、砂地でも石畳でもない地面に倒れると、
「ゴッフ……餌、殺して食う」
化け物がすぐそこに来ていた。
「ヒッ! たっ……たすけてェエエエ!!」
誰でもいい、死にたくない……! 最後の力を振り絞って叫ぶ。
だけど目の前の魔物が僕の言葉を聞いてくれるわけもなくて。
「ゴッフゥ!」
魔物が大きな斧を大きく振り上げて、僕の頭に向けて振り下ろす。
「ひいぃ……ヅづあぁア゛あッぁ!」
避けたッ! 反射的に避けて
熱い、左腕が痛い、いたいいタイ、痛イ、アツい……!! 僕は馬鹿だ、あのままじっとしていれば即死だったのに。
どうしても死にたくないと、体が勝手に横に傾いてしまった……!
「はずした……? だめ、殺す、食う。今度は逃がさない」
「ガァあ゛ぁ……!」
魔物が僕の足を踏みつけて逃げられないようにする。
体重がかかり、僕の足の骨がギシリと悲鳴を上げる。
頭の中は痛みと熱、恐怖でいっぱいだ。
それでも僕はまだ生きたいと願っている。
こんなに苦しいのに、この理不尽さから逃れたいと思っているのに。
「僕は……悪くない、どうしてこんな――イヤダイヤダイヤダァアアア!!」
死に際にこの世のすべてを呪っていたら、
「へえ……結構粘ったな。思考を読んだけどなかなかのクズだった。クズには色々な使い道があるからいくらあってもいいんだよ。――だから命だけは助けてやる」
ずいぶん傲慢な神様の声が聞こえた。
本当にふざけるなと思いながら、僕は意識を手放した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます