第26話 クズ、首輪をつくる

「――ふざけんなよっ! なぁ……俺たち炎の誓いは誰にも縛られないパーティだ。そうだろ? そうだと言えよグリガネンッ!!」


 事情を聞いたエンヤが、グリガネンに食ってかかる。


「やめなよ、グリガネンだってあたしたちが生き残るための選択をしただけなんだし」


「エンヤ……冒険者になったとき、ギルドで最初に教わった言葉はなんだ?」


 命を大事に、とか?


「どんなことをしても死ぬな、とかだろ」


「そうだ、言葉は違うが死んだら終わりだ。それに生きていればいつか……」


 裏切るチャンスもある、的なニュアンス。

 一応、釘を刺しておくかと、プリンの影からにょっきり顔を出す。


「話の途中だけど、不穏なセリフを聞いたので条件その3を追加する。お前ら、コレをつけとけ」


 分体を首輪状に変えたものを三つ、グリガネンの足元に置いた。

 元々渡すつもりだったけど、グリガネンの失言が招いた感じにしてみた。


「……これは?」


「魔影の首輪だな、多少のデザイン変更は受け付けるぞ。配下の印だからつけてくれ」


「わかった、みんな……シェイド様に従おう」


 グリガネンが率先して一つを手に取り、首輪を首に近づける。

 素直だったから黒十字のチョーカーにしてやろう。


 ……圧倒的にメガネと似合っていないけど、本人がまんざらでもないからよし。

 初めて着ける装飾品って大人になったみたいでドキドキするよな、わかる。


「お、俺は入れ墨みたいにしてほしい」


 謎のこだわりを見せるエンヤの首回りに、リクエストに応えて適当に黒い炎を形取かたちどってやる。


「そんなのキィォ……ごほごほっ! あたしは綺麗な石のネックレスがいい、黒いのとかないし。ねえ、それとあたしのローブ返してくれないかな。高かったんだよね」


 今キモいって言いかけたけどごまかしたよな? ローブはもうアンジェの物だ。アンジェ、返そうとしなくていいぞ。

 いまだ立場をわかっていないプリンには、ラァヴ屋敷地下でゲットしたボロいローブで十分だろ。


 どさっと目の前に出してやる。


「え……これ。あの、あたしのローブは……あのぅ。――……もういいです」


 プリンの声を無視していると勝手に納得してくれたらしい。

 渋々といった感じでボロローブに袖を通すプリン。その尖らせた口、輪ゴムで縛ってやろうか?


 このままだとプリンだけうっかりころりんしちゃいそう。そうなるとエンヤとグリガネンも反抗するだろうし、結果的にみなころりんになってしまう。

 しかし、俺の鬱憤を晴らすためにも、プリンのコーディネートは可哀想にしてやらねば。


 灰色のボロローブに似合うトゲトゲ付の首輪 (ややほつれあり)をプリンの首につける。


「……うそでしょ」


 どこからか出した手鏡で、自分の姿を映し愕然とするプリン。

 素敵な奴隷コーデ、さまになってるよ。


「よし、全員つけたな。それじゃ注目ちゅーもーく――いでよ見せしめ豚!」


 3人から少し離れたところに、魔空をひた走る豚男のグドンを外に解き放つ。

 汗だくで、上向きの鼻から口にかけて流れる液が垂れて見た目がとても汚い。


「まぶっ! ……あで? 明るい場所に出たど、ここはどこだ?」


 グドンが首をかしげながら周囲を見回している。

 明るさに慣れていないのか、炎の誓いのメンバーには気づいていない。


「なッ!? オーク! ……しかもあの紋様は危険度Cだぞ」

「嘘だろ、5階層の魔物じゃねえかよ」

「やだキモーい! 死んで! キモイキモイキモイキモイ!! すぅぅうう――キモォォオオオオオ!! ――はあ、すっきりした」


 人間たちから見てもオークなんだ、5階層にいるんだ、危険度Cってなんぞ? と出てきた情報の整理はアンジェにさせよう。

 ところで、プリンがここぞとばかりにキモいを連発していたけど……それ全部グドンに向けての言葉だよな?


「あのぅ……シェイド様、これはいったい?」


「あ、戦わせようとか、お前らを殺そうってわけじゃない。単なるデモンストレーションだ。お前らの魔影の首輪と同じ物をあの豚顔につけて……」


 説明をしながら分体を、グドンの足元からするすると登らせて首回りを一周する。


「んだこれ? ……取れねえど!」


 グドンが魔影の首輪を引っ張ろうとしても、ぴたりと首の影にも食い込んでいるから、爪がかからない。

 両手で首を掻いているようにも見えるが、その顔は真っ赤に染まっている。


「んがー! いらいらするど、ふんぬぅ! ふすぅふすぅ! ふすっ? ……なんだぁ女の匂いがするど。あー! 人間がいるぅ、ぶへへへ」


 いかれる豚がもう笑う。

 首の違和感から湧き上がる怒りよりも、プリンたちを見つけた喜びが勝ったらしい。


 炎の誓いに向かって歩き出したところで、


「よおグドン、久しぶりだな?」


 見た目もわかりやすいように、黒の大玉バージョンの俺参上。


「ん、なんだ? ああっ! おめえ……あんときの魔影かぁ!?」


「おう、見違えただろ? 褒めていいぞ」


「褒める……? あー、ちょっと見ねぇうちに立派になったなあ……って一族の集まりじゃねえどッ!! おでのこと馬鹿にして、変なところに閉じ込めたのおめえだろぉ!」


「ぜんぜん馬鹿にしてねえど?」


「っ! そ、それが馬鹿にしてるって言ってんだどぉおおお!!」


 ドドドドドと地面から振動が伝わるほどの力強く俺に突撃をかましてくるグドン。

 思ったよりもスピードがある。


「吹き飛べぇえええ――……あで? すり抜けたど?」


 そりゃ分体の影だし、魔核コアもないから当たり判定ないし。俺本体がプリンの股下から出てくるわけないだろ。


「……それじゃお前らしっかり見て覚えろ。もしも俺を裏切ったり、俺のことを馬鹿にしたら――」


 グドンの首輪が赤く明滅を始める。

 ただの演出。


「んだ、なんか変だど。ぐ、ぐるじぃ……グげぇググぐあ゛ッあ」


「チョンッ! だど」


 さらばグドン、首と体が泣き別れ。

 巨体がゆっくりと倒れ、ずんっと地面が揺れる。


「「「……」」」


 3人とも絶句か、特にプリンは口の聞き方に気を付けてもらいたい。


「そのオークはお前らが倒したことにしていいぞ。えとオークの肉って食えるのか?」


 ファンタジーだとオークの肉は美味しいらしいが。


「い、いや、あの……ダンジョン内で倒した魔物は――」


 グリガネンが何かを言いかけたところで、グドンの体から黒い煙がのぼり俺の中に入ってくる。


「倒したものの力になると言われています。あとは、たぶん魔貨が落ちるはずです」


 言ってるそばからチャリリンっと数枚の闇色の硬貨が地面に落ちた。


「魔獣は解体できますが、魔物は先ほどの黒い煙がステータスカードに記録されるだけです」


 人間たちはステータスカードとやらで勝手に討伐数や実績が記録されるとな? 不思議文化、不思議技術ヤバない!?


「それから魔貨は冒険者ギルドに出せば聖貨に換金できますよ」


 三つ目の狐が教えてくれたような。あの狐、名前なんだっけ……?

 まあ、魔貨とか聖貨とか狐の名前はどうでもいいのだ。


「とにかく裏切ったらこうなると理解できたか? あまり俺を不快にさせるなよ、特にプリン」


「はっはい! ……よろしくお願いいたします」

「「……」」


 グリガネンが声を震わせつつ返事をし、エンヤとプリンは黙って何度も小さく頷いている。

 やっと力の差を理解したようだな。

 これだけ脅しておけば大丈夫だろ。


「それじゃ、3階層に――」


 話もついたし、さくっと次のポータルへレッツラゴー!


『――イヤダイヤダイヤダァアアア!!』


 の前に、魔空のゲストルームからマリオの断末魔寸前の声が。


 足がもつれて転んだマリオの最期の叫び……にはしない。

 一瞬だけホームに入れて、そこからゲストルームの別の場所を作ってポイ。

 ゲストルーム個室版だな。

 ちょっとやってみたいことがあるからレスキューしておく。


「えと、どうされました?」


「いや、行くぞーおー!」


「「「……おー」」」


 なんともゆるっとぐだぐだな出発になった。


――――――――――――――――――――――

あとがき


拙作をお読みいただき、ありがとうございます!


「続きが気になるー」と思ったら、作品のフォロー、レビュー (★評価)、応援やコメントをよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る