第25話 クズ、命を握って有利に事を運ぶ
「さあ、次はあなたたちの番ですよ?」
冷蔵庫のような名前の宇宙の帝王の声。シャープかつ甲高い声でグリガネンたちを脅す。
「あの……僕たちを見逃してもらえませんか?」
マリオを捕まえたことを教えたら、グリガネンが言葉遣いを変えてきた。
きちんと立場を理解したらしい。
「見逃さない! でもお前らを
声真似しすぎて元の声がわからない……とにかく、同行というかこいつらの影に潜むのだ。
『ヨルを外に出して移動する案も考えたけど、ポータルに人間以外が近づけば狙われるのは同じだしな』
このままポータルに向かっても〝歩くお楽しみ箱〟の自殺行為になるだけ。だけどこいつらと一緒なら俺は姿を見せずにポータルを通過できる、超楽ちん。
『そっか、うん、影の中にいれば安心です』
アンジェがうんうんと頷く。成長著しい部位も同意するように揺れている。
『すごいだろ。さすがシェイド、さすシェイ……さすイド? 語呂悪いな、えと、さす――』
『ガウッ』
『……そう、さすガウ。いやそれだとヨルが
ちょっとモフ
『クウ?』
どうしたの? みたいな首の傾げ方、好き。
『アンジェの気持ちには応えられない。俺、犬が好きなんだ』
『恋人を振るときの言い方ッ!? わ、私もヨルちゃん好きですよ。わんちゃんじゃなくて狼ですけど……』
アンジェが不動のツッコミ枠になり、ヨルがペット枠として確定した。
魔影のメスっているのかな、求むヒロイン枠。
「その……僕たち、今日が初めての2階層で。5階層に行く実力もないし、準備もできてないので……」
放置していたグリガネンがやっと重い口を開いた。
断るというよりは、5階層到着の実力がないと申告するのを躊躇した感じか。
ただでさえ魔影に負けた自分たちが行けるわけがない。
「お前たちの実力はわかっている。基本的に魔獣も魔物も俺が倒すし、マリオが持っていた荷物なら返してやってもいいぞ。食料も足りなければくれてやろう」
「魔影ですよね……? いや、この強さならあり得る、のか? しかし準備のほうはしなくてもいいのか」
「むぐむぐぅ!」
地面に転がしたプリンがグリガネンに『大丈夫なの?』的な眼差しを向ける。
口は俺のメンタル保護のために封じたままだから多分そう言ってるんじゃないかなと。
「ああ、それとこの先で取れる素材を分けてやってもいいぞ」
このあとの鞭のために飴ちゃんを提供するのだ。
人間は旨味があれば何でもできる。
「え、いいんですかっ?」
俺の飴ちゃん効果で、グリガネンの喜びに反応するようにメガネがキラキラ光る。
実は本体がメガネの魔物じゃないよね?
「……僕たちはついている。このまま5階層に行くことができれば一人前のパーティとして皆に認められる。それに魔物の素材をギルドに納めればお金にもなるし、等級も上げられる。――これはチャンスだ」
小声のままグリガネンがうんうんと頷く。
「皮算用は終わったか? 有名な冒険者パーティにでもなってくれればボスの俺としても鼻が高い」
鼻はないけど。
「ボス……?」
「条件その2。お前ら、今日から俺の子分な」
条件その3は思いついたら伝えよう。
「すぅぅうう……――ッんぎぃもォ!」
プリン、いま全力でキモいって言ったよな、口塞がれてるのにどんだけ叫びたいんだよ。
その気概を受けて俺のメンタルが死んだ。ヨルをモフって回復しよう。
「こ、子分? ぼ、僕たちが……魔影の……」
「最弱無能の魔影の子分は嫌か? なら今すぐ……」
「シェイド……様、シェイド様は魔影の王。つまり魔影とは違う魔物ですよね?」
「まあ意思がないのが魔獣で、魔影はその枠に入っていない謎生物だ。俺は意思があるし、魔物の枠でいんじゃね……」
ねえ、魔影の下につくのそんなに鞭なの? 死を選んだほうがましなの? それなら飴ちゃん回収して君たち
魔影ってどれだけ底辺ポジ、モブ扱いなんだよ。
「よし……この方は魔影じゃない。いやむしろ魔影の進化した魔物、王魔影という偉大な新種だ。そう、魔影じゃない、僕たちは、王魔影、シェイド様、に従う。うん、強い魔物と契約して有名になったパーティもいるし大丈夫だ。魔影の下じゃなくて、王魔影のシェイド様の下、王魔影の――」
目の前で独り言を話すとグリガネンの考えがまるっと聞こえるのだけど。
グリガネンの額に浮かぶ汗が、メガネのブリッジに溜まって勢いよく鼻水まじりに顎下へ。
……さてはこのメガネ、冷静なふりして冷静ではないな。
「おい、進化前の魔影の悪口は俺以外禁止。その無限にわき出る魔影に対する
魔力付きの超低音ドス声。
なんか実家をバカにされた感じ。
「はひぃっ」
グリガネンが慌てて口を両手で塞いだ。
『シェイドはいいんですね……。私は魔影さんたちも可愛い、と思ってます』
『自虐みたいなもんだから俺はいいの』
あいつを悪く言っていいのは俺だけだ! 的な。
アンジェが魔影を推すの勝手よ、俺はそんなんじゃほだされないけどな。
ただまあ、なんとなく、マリオの捨てたリュックに入っていた花の髪飾りをアンジェの頭にデコっておこう、いや他意はないよ全然。
「それじゃシンキングタイムは終了で。そこのバカ
エンヤの頭を影糸ハンマーで小突き、プリンの拘束を解いてそのまま足元の影にイン。
俺の姿が見えないほうが話しやすいだろ、素敵な配慮ができる魔影で良かったな。
「ッアィテェ!? ……あれ、さっきの魔影の化け物はどうしたっ? いやそれよりお前ら無事かっ!?」
「むぐぼぁッ、ゲホッゲホ……はあぁ。グリガネン、あたしはあんたに任せるから……ホントむりだけど、あたしだってこのまま終わりたくないし」
気絶していたエンヤは状況をわかっていないが、プリンは話を聞いていたからな。
チュニックの裾をひっぱったり、内股にしているのは俺が下から覗くと思っているのだろう。
――そのとおりだ! 野郎の影よりギャルの影。
『シェイド……この服、裾が長いですけど。あの、こういうのはどうですか……?』
顔を真っ赤にしたアンジェが、プリンから剥いだローブの裾を少しずつ捲っていく。白くて小さい膝小僧さんこんにちは。
『アンジェはもう少し食べないと見応えがない』
『恥じらい乙女を全否定ッ!?』
アンジェはどうやら〝魔影の記憶・R18〟を実践したらしい。
いや俺がプリンを現在進行形で辱めているからといって、アンジェに同じものは求めてないから。
恥じらう顔は良かったけど、俺に色仕掛けは100年早いが――
『俺を喜ばそうとした気持ちだけ受け取る』
『えと……はいっ!』
俺に気に入られないと死ぬという感情からの色仕掛けかと思ったが、どうもこの子は俺に感謝している節がある。
前世から今までで、こういう素直なお馬鹿はいなかったな。さすが〝まぬけ〟のアンジェだ。
――――――――――――――――――――――
あとがき
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