第24話 クズ、同類を理解する


「ぐあ! くそ、こいつの触手何本あるんだ!」


 失礼な! 触手じゃなくて鞭だぞ! あと今のところ8本だ!!


「……」


 ほらぁ、エンヤが触手とか言うから、背後にいるプリンがすんごい形相になってるぅ。


「ふっ、はあぁぁ――くらえ、火剣炎舞だ」


 エンヤの剣先に申し訳程度の火が宿って、それを先ほどと同じく無計画に振り回す――火剣炎舞という技。


「熱くなりすぎだぞエンヤッ! 【聖霊よ、エンヤに力を貸し与え給え――パワーアップ】!!」


「よっしゃ、力が上がるぜーッ! これでっ――どうだぁー!!」


 グリガネンの支援魔法で、エンヤの体がうっすら光を帯び、ほんの少しだけ剣速が上がり、影鞭を弾くときの当たりの強さを微量に感じた。


「……だ、だめだ。全然効いてないじゃないか。いやだ……僕はまだ死にたくない」


 一人だけ蚊帳の外のマリオからは、俺が遊んでいるのが伝わったようだ。

 ただ、目の前で必死に戦っているこいつらにそんなこと言えば、


「うるさいぞ腰抜け野郎!」

「わかっていることを言うな無能が……」


 エンヤ、グリガネンの順に罵倒され、


「ええもうホントキモい、あんた最悪の魔影レベルで無理なんだけどぉ!」


 と、俺を巻き込んで罵られるに決まっている。巻き添えヤバない!?


「……さっきからキモいキモいと、やかましいわっ! お前は黙って恥ずか死ね」


「えっ喋ったキモ……ッキャアアァァむぐぅ!?」


 その口に影糸を丸めて突っ込む。

 さらにプリンの四肢に螺旋らせん状に巻き付けて、大の字になるようにそれぞれの方向に引っ張れば――重力を無視した触手巻かれ女の出来上がりだ! あ、触手って認めちゃった。


「このままひん剥いてもいいし、引き千切ってスプラッタバケラッタしてもいいなぁ……」


 ニチャァ……魔力体にも口は作れるぞ。


『すぷらった? ばけらった……?』


『グルゥ……?』


 アンジェとヨルが同時に首を傾げる。

 俺が余裕で相手しているせいで、緊張感皆無な一人と一匹。


「むぐぅむぐむぐ……!」


 プリンは目をかっぴらきながら両手両足に力を込めて逃れようとする。

 の部分を少しだけ作ってるからちょっとだけなら動けるのだ。


「プリンを離せえ! くそ、斬れねえ! なんでだよ、このぉ!!」


 エンヤが何度もしょく……げふん、影鞭に長剣を叩きつけても無駄だ。お前のへなちょこ剣で斬れるような魔素量じゃねえよ。ちなみにエンヤがその場で上を向くと、プリンの太もものつけ根が拝めるいい位置にいる。


「むぅぅ……!」


 絶対見上げないでよ! と言いたそう。

 プリンの内股に力が入っているのが影鞭を通して伝わってくる。


「ふはは、お前のへなちょこ剣技はの魔影すら斬れないシン・最弱剣技だな」


「なんだとぉ……くっそがぁ! このぉ! このっこのっ!」


 エンヤが影鞭の断絶に夢中になっている間に、


「ッ!? んぐぅんぐぅ……!」


 プリンの着ている高そうなローブを魔空する。


『アンジェ、それ着てみろ』


『ええっと……はい。あ、温かいなぁ……ありがとうシェイド』


 アンジェの頭にぽさっと落ちたので、そのままプレゼントだ。

 脱ぎたてホカホカ、他の人が着てた服をすぐに着るのは嫌そう。

 いいとこのお嬢様顔が浮かんでいる。でも体格的には近いし、今着ている服よりはいいだろ。


「次は……チュニックか、それともその下の――」


 絵面的には触手でいやんされちゃうプリンといったとこか。


『あのっ! 服はこれで充分です!』

「た、頼むッ! これ以上はやめてくれ!」


 脱ぎたてはもういらないとアンジェが叫び、ほぼ同時に顔を赤くしたグリガネンの懇願の声が周囲に響いた。


「ふはは、お前らは命乞いする俺たちを助けてくれたことはあるのか? 同胞をお楽しみ箱扱いで喜々として割りころりんしておいて、中身をアタリだハズレだと騒ぎ立てる残酷なお前たち。俺たちがどんな思いなのか考えたことはあるのか?」


「ぐぅ……しかし」


 と、魔影は何も考えてなかっただろうけど、代弁してみた。

 俺を舐めた奴らをいじめるの楽しい、超ヤバない!?


「いいからプリンを離せぇええええ!! うぉおおおお!!」

「まだ話の途中でしょうがパンチィッ!」

「ブベラぁ!」


 エンヤが俺に向かってきたので、魔力体から拳を突き出して顔面にグー!


 カウンターを喰らったエンヤは、グリガネンの足元まで転がっていった。


「さて、お前らどうしようか……」


「……あのっ! ぼ、僕はずっと荷物持ちで……まっ魔物の皆様と戦ったことはありませんっ!」


 さっきよりもだいぶ後ろに下がったマリオが突然大声を出した。

 俺の話をちゃんと聞いていて偉い。


「マリオ、ここはリーダーの僕が話すところだ。静かにしていろ」


「んぐむぐぐ……!!」


 グリガネンが交渉の邪魔をするなとマリオに言い放ち、プリンは鬼みたいな形相でマリオを睨みつけている。


「う、うるさいっ。何がリーダーだよ……――もう嫌だ! 僕は抜ける! 魔物様! 僕は、僕だけは見逃してください! こいつら、ひどい奴らなんです! 僕は何も悪くない、無理やり連れて来られたんだっ!!」


 こんな奴らと一緒にいられないはフラグだぞ。


「何を勝手なことを……! 契約違反だぞマリオ! このことは戻ったらギルドに報告させてもらうからな」


「ふんっ生きて帰れたら好きにしたらいいさ。……だけど、この荷物は2階層までの運び賃ってことでもらっておくからね。じゃあね!」


 すちゃっと右手を上げて背を向けて走り出すマリオ。

 何気に仲間の荷物を堂々と丸パクリ宣言は……ヤバない!?


「おい、待てっ! くそ! あいつ最初から荷物盗む気だったんじゃないか。弟に苦労をかけたくない、少しでも金を稼ぎたいからどうしてもって……評判が悪いのは知っていたがまさかここまでとは……!」


「荷物持ちってわりにリュックは大きくないな。いやでもかなり入っているのか重そう……あれで逃げてるつもりなのか?」


 せいぜい早歩き、足跡がしっかりついているからリュックのなかに4人分の荷物はありそう。


「あいつは【触れた物の容量を3倍にする】って能力があって、いまあいつのリュックは3倍の収納力がある。あのリュックには僕らの食料と倒した魔獣の討伐証明、薬草ばかりだ。大した額にはならないのに、なんてせこい奴なんだ……ってなぜ僕は魔物と話しているんだ」


 いや戦闘中だけど俺の圧勝中だし、もうトークタイムでいいだろ。

 とりあえず野良パーティの地雷というか、マリオがクズということがわかった。


 容量は3倍、ただし重さは変わらない。うん、残念なスキルだな。そして少しでも金を稼ぐために、荷物を捨てて完全な逃げに徹することもできない。


 なんてわかりやすい小物なんだろう。


「へへっ、いつもはバレないように少しくすねて返すのに苦労していたけど、今日は新種のおかげ様々だよ。あーあ、もう少し信頼がおけるようになればあいつらの財布とか預かれたのになー。ま、でも新種の報告報酬と1階層の戦利品だけでも大儲けだ」


 影糸をマリオの背中につけていたから、俺たちに丸聞こえだ。


『うわ、この人最低です』

 

 アンジェが顔をめて眉をめた……あれ、逆だっけ?


 しかめる――顔や額の皮を縮めて、しわを寄せる。

 ひそめる――眉辺りに、しわを寄せる。


 魔影の記憶が自動発動、逆だった……誤差だろ。


「ふぅ、ふぅ……もうすぐポータルだ。くくっあいつらの顔と来たら――ヒャホゥ! っとと、いけないまだ油断しちゃダメだ」


 ゴール近くってテンション上がるよね、わかる。

 〝炎の誓い〟と会敵したのは、ポータルから少し進んだ場所だ。あのスピードでもポータルを視界に捉えるまで時間はかからない。

 マリオが一歩、二歩と重たいリュックの荷物を噛みしめながら、


「よし到着っと……。あいつらどうなったかな、笑っちゃうよホント。それじゃあ〝馬鹿の誓い〟も新種の最弱無能もさ、よ、お、な、らあァァアアアアエエェェ――」


 最後……この場合は最期の一歩をポータルに向けて踏み出した。


『魔空に落としたらざまぁみろってなるよな』


 〝新種の最弱無能〟が作る魔空へようこそ。


『ゴッフ? にんげん……ごっごろずぅぅう!!』


『いーーーーやーーーーーー!!』


 運悪く嫌われゴッフの近くに落ちたマリオはBダッシュで逃げる。

 生存本能が高いのか、俺から離れるときには背負っていたリュックをすかさず放り出したのはさすが。残機1だから頑張って逃げろー。


「捕まったのは、マリオだァ。はたしてハンターから逃げ切れるかァ〜」


『シェイドの声じゃない……?』


 逃走中の奴にふさわしいナレーションと言ってもアンジェにはわかるめえ。


『魔素の振動数を調整すると物まねができるんですっ!』


『わ、私の声ですよね……すごい』


 アンジェの口が半開き。もっと褒めて。

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