第23話 クズ、ダメージをくらう
さて2階層だが緑の大草原というよりは、背の短い草がまばらに生えた広い空き地だ。
見晴らし良すぎて隠れるところがない。
いつもより小さく丸まっていこう。
『ルーキー魔物って2階層も逃げの一手だよな』
『2階層には拠点が作れないので、1階層よりは安全かもしれないです。あっヨルちゃん、本を返してー!』
〝魔影の記憶〟でダンジョンを調べるアンジェの邪魔をする子狼。すっかりアンジェに懐いたようだ。尻尾をふりふりしながら、アンジェがぎりぎり追いつける速度で距離を取る。
なぜ2階層に拠点を作れないのか、たしかにコッチ側のポータルには、テントが置いてある程度、人は少なかった。この時間帯は狩りに出ているのかもしれないけど。
どちらにしても、俺にとっては人も魔物も魔獣も危険であることには変わりない。
誰かを盾にして生きたいが、自由でありたい。ついでに盾になる誰かより偉くありたい。
そんな我がままを聞いてくれる神様いないかな。
『あーあ、長いものに巻かれたーい……【ダンジョン魔素吸収】――』
このスキルはその名のとおり、ダンジョンに漂う魔素を積極的に吸収できる超優秀スキルさんだ。
といっても、1日1回しか使えず、階層ごとに吸収できる魔素の制限があるらしく、思っていたほど魔素吸収はできなかった。
階層を進めば吸収できる魔素も増えるはず。デイリーボーナスみたいなもんか。
『で! 魔影が無意識にやっていた【ダンジョン魔素吸収】に加えて、俺のオリジナルスキルだ。……おいでませ我が眷属たちよ――【魔影生成】』
魔素溜まりから魔影は生まれるのなら、俺が超濃縮した魔素を作れば魔影を産めるんじゃね? という暴論の元やってみた。
地面に湧く黒ピンポンたち。
『シェイドの子……?』
『眷属な? 認知請求されても認めないぞ。よし、結構な数の眷属ができたな。――散れッ!』
イーッ! と返事をするわけもないく、大量の黒ピンポン玉がポータルを中心に1階層、2階層に散っていく。
『アンジェ君、眷属の良いところを述べよ』
『えと……シェイドと情報共有ができる、魔空に入れた物はシェイドの物、それぞれが集めた魔素もシェイドの物、です』
さすがアンジェ、すらすらと答えてくれた。
よくできましたと
眷属はリモートで操作もできるけど、普段は強い魔素に本能のままに吸い寄せられる無意思の魔獣だな。
『並列思考とか生えるとさらにヤバそうな気がするけど、今のところは野放しだな』
眷属の視界まで意識すると、魔空に大量のモニタ重なって浮かんで収拾がつかない。頭がおかしくなりそうだ。
ドサドサと〝魔影の記憶〟が編纂されて、アンジェの周りに積みあがる。よろしく頼んだ!
眷属たちが情報を集める、アンジェが知識を習得する、俺がアンジェにわからないことを訊く。完璧なシステムである。
眷属の良いところは他にもあって、人間たちの装備品に紛れ込むと地上にまで行けるのだ。……地上まで無事に辿り着ける可能性は低そうだけど。
ちなみにあの勇者が守っていたポータルは、五大陸の1つ〝サルド大陸〟の〝マシュール王国〟王都につながっているらしい。
『さるど大陸、ましゅーる王国……?』
アンジェがピンときてないから、故郷じゃないのか。5階層に行けば移動できる場所も増える、そのうち実家にご
『お、早速俺の眷属が仕事してくれたぞ』
1階層に派遣した魔影からの情報を新聞風にしてみた。
『ポータル警備隊で今一番ホットな話題は、階層に立った謎の黒い塔か……つまり俺!』
新人たちが何人か行方不明になったこともネタにはなっているが、有識者による謎の塔の正体考察と、一瞬で粉々にした勇者を称える話題が多いようだ。
謎の塔の正体が魔影だったことは、誰にも気づかれずに終わりそう。
『いつか魔影を見るだけで逃げ出すほど、王魔影が最強有能、超危険生物であると認識してもらいたい』
じゃないと――
「うっひょー、でっけえ宝箱発見だぜえ」
「え、キモ! これキモ! 大きい魔影キモ!」
「おい、エンヤ! 迂闊に近寄るなよ」
赤い髪の長剣使い、紫髪の失礼ギャル、緑髪の冷静メガネが順に声を出す。
「し、し、新種です! 逃げましょうよ!」
剣士と魔法使い、僧侶か? で、その奥で震えている一人。2階層だし新人に少し毛が生えたパーティかもしれない。
こういう魔影を舐めきった連中に絡まれてしまう。
「やめましょうよ! それに、新種の魔物が出たときはギルドに報告しないと」
腰の引けた茶髪の少年よ、俺から逃げられるとでも思っているのか?
「うっせー! マリオのくせに命令すんなよ! こんなデカい宝箱、見逃せるかよ!」
俺を割ったらオークとゴブリンの上位種、あとイノシシが出るぞ。いやでも、冒険者たちもいるから敵と援軍が同時に出るのか。お宝としては、美少女と聖遺物は高く売れそう。
『ワフッ』
あ、ヨルを忘れていた。子狼の飼い主にもなれるな。
「ぼ、僕は戦えないから離れてます……」
「けっ! わかってるから黙って下がれよ! へへっ、さあやろうか」
茶髪のマリオは俺から距離を取るが、赤髪のエンヤは戦う気満々だ。
えーと、とっても隙だらけだけど攻撃していいかな?
影糸を鞭の形にして……そおい!
「っ! 【土よ高く積み上がれ、ソイルウォール】――バカ、油断しすぎ! もう魔影の攻撃キモ! 無理ぃ」
「うわ、っぶねー! 助かったぜ、プリン」
失礼ギャルのプリンの土魔法か、ウォールというほどの大きさじゃないが俺が足元に放った影鞭はちゃんと弾いている。
ただもう少し勢いをつければ壊れそうだな。
『この人たちどうするんですか?』
『そうだな、思いついたことがある』
1階層みたいに人間たちと敵対する路線は俺にはまだ早い。
このさき安全かつ楽ちんで進むためには、人間たちとの付き合い方も考えようかと。
「エンヤは牽制、プリンはライトボールを撃て! 【聖霊よ、この地を浄化し我らに癒やしを与え給え、スモールリジェン】」
「よっしゃ! 俺たち〝炎の誓い〟の最強布陣の完成だ。さあ、覚悟しろ!」
3人の足元に薄い緑色の光を放つ魔法陣が現れた。
小さな傷や体力をちんみり時間をかけて回復するものらしい。
エンヤが土壁を盾にしながら長剣を振り回す。
影鞭を一本ずつ増やしてどれくらい対応できるか見てみよう。
プリンという女は魔法使いか、俺に両手を向けて、
「うぅ……キモい、早く消えてぇ――【光よ我が手に集まりてキモ敵を滅せよ、ライトボール】ウエェッ!!」
小さな光の球を撃ってくる。
イメージさえ伝われば、どんな詠唱でも魔素が消費されて魔法になるんだろうな。
……ライトボールって、思ったよりも精神を抉るんだな、泣こう。
『誰がキモ敵だ……くそ』
魔法使いといえばダメージディーラーだ、流石と言っておこう。
プリンのライトボール、少し色が翳っていて嫌悪感が混ざっているような……。でもさぁ、詠唱に『キモ敵』を入れることはないんじゃないかなぁ。
「なんで!? ライトボールが効かない! もう! ライトボール! ライトボール!」
ふん、詠唱を省略したライトボールなど、何十発もらっても痛くもかゆくもない。
俺の魔力体には魔空を常時展開しているから、ライトボールの行き先は、
『あでッ!?』
『ゴフッ!?』
ホーム以外のどこかだ。
ナイスだプリン。
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