第21話 クズ、勇者とニアミスする


『うーん。高いのいいけど、風が強くて安定しないなこの技……』


 現在地は2階層行きポータルの近くだ。ちょうど大きな木があったから、根っこの隙間にイン。

 本体から離れた場所を適当に選んで、影糸タワーを建設した。

 遠くに武装集団が厳重に警備をしている拠点がある。その拠点からポータルまでは歩きやすそうな道がのびている。


 影糸タワーの作り方は簡単。

 影糸を一塊にして中心から上にひたすら伸ばすだけ。

 物理の法則に全力で喧嘩売る作り方だけど成功したので良しとする。


『風が邪魔……』


 ちょっと揺れる。


『はあっ、はあっ……すっっっごく、いい、け、しきでっ……はあっはあっ』


 アンジェは両手を膝に押し付けるように置き、前かがみになっている。肩を上下させながらも、すぐに座らない根性がついてきた。


『だいぶ体力ついてきたな。えらいぞ』

『……はぁ、はいぃ――』


 影人形シャドーで、アンジェの頭をなでてやると、そのまま訓練場の床にべちゃっとつぶれた。ゆっくりお眠り。


『地上行きポータルの警備エグい。もしあっち側にポップしてたら終わってた』


 アンジェが気絶していることを忘れて話しかけてしまった。


 現地の魔影の記憶から地図を生成、影糸タワーのてっぺんから眺めるとポータルからポータルを結ぶ道がしっかりと整備されているのがわかる。水場や休憩場所、狩場っぽい場所まで道中に用意してあるな。


 人間、優遇されすぎだろ。2階層行きポータルのほうを向けば、丸太でできた砦の門が見える。そしてその門が開いて数人の冒険者たちがこっちに向かって走ってくる。


 真っ黒なタワーが、大草原にそそり立てば目立つよな。作戦通りだよ。


 早くも辿り着いた斥候職の奴らが、ゆっくりとタワーに歩を進める。


「ッ!? こんなに凝縮された魔素の塊はじめて見た……!」


 そう、あやとりのイメージに引っ張られて影糸で塔をつくったけど、魔素を固めて塔の形にするだけでも良かったりする。応用力が仕事していなくて悪かったな!


「これを作り出した奴が近くにいるはず――」


「異常事態だ。1番ポータルはルウギー様が守っているから安心だが……これは一体なんだ」


 あー、あまり不用意に近づかないほうがいいぞ。

 だってそのタワー、影糸ノコギリが高速回転して、魔空超えてあの世まで送っちゃうから、ねッ!


『こんな風に――スパパパパパーンっとね!』


 ――魔空斬・かげノコノコーッ!! 殺意ましまし。


「ぎゃァ――」

「うおっと! ……っぶねえ!」


 勘の良い奴らは咄嗟にバックステップで躱したけど、避けきれないほど近い奴らの体には、線が真横に入り、しばらくして地面にずれ落ちた。そのまま魔空に回収する。

 ご遺体は美味しくいただくからしっかり成仏してくれ。


 ――グゥッ!? きたキタ来た北ーっ! 魔影の血肉になる感覚……もちろん血も肉もないけどなっ。


『ふむ【看破】【料理】【1日に3回だけ美味しい水を口から出せる】【解体】【忍び足】【早食い】【耳掃除】……ときどき変なスキルが出るの何?』


【1日に3回だけ美味しい水を口から出せる】、唾液が美味しい? 人命救助で使える……喉からからで死にそうなとき、目の前の奴が口からだばだば水を出す。そして美味しい……嫌すぎる。


 で、最後に取れた【耳掃除】……なんだこれ。

 スキル保有者の袋から耳かき棒が何本も出てきた。中古は人間たちの拠点にポイだ。


 なるほど、重複したスキルは強化されるものと、そのまま重なるだけのものがあるのか。

 なるほど、わからん。

 アンジェ、早く起きてくれ。


 スキルについての考えを放棄していたら、生き残った斥候役、合流した後発組が少し離れた場所で協議中。そこ、安全地帯じゃないぞ。


 魔空斬・かげノコノコをお代わ……――ッ!?


 突然目の前に眩い緑色の光が何本も映り、そのあとは崩れる影糸タワーと一緒に視界が地面までフリーフォールぅ!?

 浮遊感と重力がぁ、腹がぞこぞこするぅ。


 ――このあと、俺は視界を本体に戻せば良かったと後悔することになる……未来予知。


『うひぃ、めっちゃ怖い。視界の感覚も人間よりのせいで、切り替え忘れるんだよな。というか、誰だよ、俺を攻撃したやつは? タワーの近くじゃない、どこだ? 再度影糸タワー構築してと……え、待って、あいつか? あいつ……あんな遠くから攻撃してきたのか……?』


 影糸タワー (細)を再構築して、ぐるりと周囲を見回す。

 遠くの武装集団のなかに一際ひときわ目立つ翡翠色の鎧と兜をつけた男がいる。

 俺のタワーを指さして、剣をゆっくりと構え、素早く剣を振る。


 ――振るっ!?


 ――ザンッ。少しの余韻のあと、また視界がれた。 武装集団から喝采が起きる。


『なにあれっ!? 飛ぶ斬撃? 伸びる剣? ずるくね!?』


 超々長距離斬とかヤバない? せめて近くまで来いよ物ぐさ人間め!


『……あの距離から届くとかどっかの剣豪かよ』


『今の攻撃、聖力が込められていました。おそらく……勇者だと思います』


 前言撤回、こっちに来ないで勇者様!

 俺が大騒ぎしていたからかアンジェが目覚めた。起き抜けの解説どうも。


 聖力の使い手は勇者、僧侶や神官、そして魔抜けの卒業生。

 勇者と魔抜け卒業生は破格の聖力を持つが、勇者は魔抜けと違って、魔力量も豊富で聖力とのバランスがしっかりしているチートジョブだとか。


『いくら俺が聖力の耐性をつけても、あんなん無理じゃね? あの斬撃を魔空に収納したら、袋口をすっぱりやられて中から色んな物がまろびでちゃうだろ。聖力の暴力とか勇者こわい。どっかの影に引きこもりたい』


 そこら辺に穴掘ってできた影のなかで一生を過ごそう。そうしよう。

 俺は心が折れた。


『だけどあそこまで聖力を使いこなせる勇者は少ない……と思います』


『そうだよなっ! あんなのいっぱいいるわけないよな!』


 あんな勇者は滅多にいない、はず。そうに違いない。

 俺は立ち直った。


 そもそもヤバい勇者とエンカウントする1階層に長居するのは下策。

 当初の思惑どおり、影糸タワーに引き寄せられた人間たちを後目しりめに、手薄になった砦に潜入だ。


『ふっ簡単な仕事だったぜ……こんなにハリボテとは思わなかったけど』


 砦は丸太の柵で開閉できる門があり、その内側は詰所のような建物以外はポータルへの侵入を防ぐための簡単な柵だけ。 敷地は広大で、随所に住居や店舗の跡が残っている。


 開拓時代はここを拠点にして、ダンジョン攻略を進めていた。だけど、冒険者たちが5階層に到着し、地上と5階層がポータルでつながったら、ここは用なしになる。

 商人たちや外交を担う役人たちが、5階層まで冒険者たちに護送してもらい、他国に簡単に渡れるようになったからだ。

 ポータルの登録者が増加していくほどに、この拠点は寂れていく。

 やがて、ポータルを守るだけの人員だけが残って警備するようになった……と、仕入れたばかりの魔影の記憶で知った。


 がらんとしすぎたポータルの警備のせいで、なんの緊張感もなく2階層へ移動。視界が暗転し、次に瞬間に明るい場所に出た。

 魔影を招集してこの階層の情報を集め、アンジェに分析してもらわねば。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る