第18話 クズ、無自覚にやらかす
「――ということで、仲間を募るか、護衛を雇うか、上位等級の魔物の傘下に入るか、ポータルに行くまでにやっておくことをギルドでは推奨しておりやす。シェイドさんの魔力量はすでにビショップ級とお見受けしやすから、子分を作るというのも手でやすねぇ」
狐の長い長い説明が終わった。
魔物の子分か……忠実な人間ならいるけど。
『……?』
アンジェの小首をかしげる動作が天然あざとい。
その他大勢は、誰も言うこと聞かないから肉壁子分だけど。
「なるほど参考になった。ところで
「印を見せることでやすか? 例えば――」
「これでアガリぃ!」
「はい? 聞いてやす?」
「ああー……うん、途中まで聞いてた。例えば、なんだっけ?」
いかん集中力戻っきて……。
「それ、ほぼ最初からでやすね。例えば……不定種の場合、念じてもらえば表面に出やすよ。見せる機会は、国に入るときに提示を求めらることがありやす。あとは魔物同士での格付けするときでやすかね」
格付けか、グドンが豚足を見せてきたあれか。あとは、ゴズ先輩がやっていた魔力を体に纏わせて、相手に魔力圧をかけるやーつ。俺はポーン級だから、魔力圧がいいのか? いや、表面に印を出せばいいなら――あれ!?
「
さっきから王冠マークを出してやろうと頑張ってるけど、雪だるまにしかならない。
「ははは、それも特殊な魔素の効果の一つでやすよ。他の効果は消えたようでやすが……」
狐が乾いた笑いを見せながら、少しだけ非難めいた視線をよこした。
あれもっと欲しいからギルド内に影糸をどんどん伸ばすぜ。どこだー?
「まあまあ、それじゃ俺もギルドの一員として、一般魔物を襲うことなく、さくーっとポータルに行くとしよう」
そして追及されたり、余計な詮索をされないようにダンジョン街には戻らない。別の魔物ギルドを探すぜ。
「あい、お気をつけて。あ、そうでやした、最後にあっしから一つだけご忠告を……」
三つのレンズがキラキラリン。
「なんだよ? ……この部屋の外で待ち構えている先輩魔物たちに注意しろとか?」
ガタタッという音が扉の向こうから鳴る。
ゴズ先輩の舎弟っぽい赤ゴブリンか、それともグドンの仲間の報復か。
数匹の輩が聞いているのは、優秀な【気配察知】でお見通しだ!
「いやー……あっしの忠告は別でやす。このダンジョン街のボスは少々変わっておりやしてね。シェイドさんのような珍しい魔物はきっと気に入られるはず……」
「いいことじゃないか」
気に入られすぎてこの街の半分あげるって言うなら素直に貰っちゃう。
「……ここだけの話、うちの若い者がボスの屋敷に招かれて以来、戻って来ないんでさぁ」
廊下にいる魔物たちに聞こえないように、狐が声を絞る。
刹那にきな臭くなりましたよ。
登録したての新種の魔物が、ボスに気に入られたと周囲に吹聴して、ギルド内で調子に乗っていたそうだ。あるときボスからディナーの招待を受けて、それ以来消息を絶っている……ヤバない?
相手はダンジョン街のボスのうえ依頼を出してくれるお得意様である。仮に
そのため、三つ目の狐は登録したての魔物には注意喚起をしているそうだ。
「……わかった。ボスの屋敷には近づかないようにするから、念のため場所を教えてくれ」
「場所でやすか? このギルドの通りを南に進むと、そのお屋敷の裏手の塀が見えてきやすよ」
説明を聞けば、木製の塀があって、その向こうに納屋があって、草ぼうぼうな裏庭があってその向こうには立派なお屋敷が。
『シェイド、それってあの』
『アンジェ、みなまで言うな』
あの屋敷かー。ちなみに正門は中央通り側にあるらしい。
「ポータルは街の中心部だから、南の区画に行かなければ問題ないと」
「はい。あ、それと先ほどシェイドさんが飲んだ特殊な魔素でやすが、何本飲んでも効果は変わりやせんので……持っていくのはよしてくだせえよ」
うぐ、三つ目の狐の説明をアンジェに聞いてもらっている間に家探ししてたのバレバーレ? というか納品された依頼品とか素材とか、何かしらあってもいいのに見つからなかった。
「ああ、そうでやした。ギルドに納品された
忠告は一つって言われたけど、この二つは
……そう思うと、だんだんこの狐が実力者に見えてきた。
まさか魔力を極限まで抑えて実力が測れないようにしている奴じゃね? ……なら今までの俺の態度ヤバない!?
「ち、違いますよぉ。俺って新人だしぃ、先輩方に目をつけられてるしぃ、せめてギルド職員の皆さんのお役に立てれば守ってもらえると思ってぇ、お掃除させてもらおうかなーって。ええ、やだなぁそんな目で見ないでくださいよぉ……怖いなぁ」
分体が思わず恐縮してしまう。もちろん見た目が。
色々と誤魔化すために、速攻でギルド内の汚れや埃を魔空に入れてキレイキレイ。
ゲストルームに埃の雪が舞い散るらむ。
ゴッフとむせるは鳴き声か。
「いやいやいや。単に目を酷使しすぎて目つきが悪いだけでやすよ。それよりシェイドさんのおかげでギルドが見違えるように綺麗になりやした。素晴らしい能力をお持ちで。ああ、これお礼でやす」
不気味な黒鉄製のコインが10枚。机の上にじゃらりと置かれた。
表には渦模様が彫られ、その周囲には不規則なルーン文字に似た文字が刻まれている。裏面は廃墟となった城塞、その背後に不気味な雲の模様がある。
……え、いらない。
「……これお掃除の報酬的な? 何に使うもの?」
「へ……?
ああ、これが依頼書にあった魔貨か。
知るわけねえよ、さっき最近覚醒したばかりなんだから。
『ええと、魔貨5枚で聖貨1枚。教会で聖貨1枚は銀貨2枚と銅貨1枚に換金できるから――』
お、アンジェが商売人の娘っぽくお金の計算している。
「王魔影に進化したばかりなもんで世間知らずなのよ。それより職員さん、お名前を
強者の可能性あるし、念の為チェックしとこ。
「ずいぶん警戒させてしまいやしたね。あっしの名はコン、地界狐族ヒト系で少しだけ妖精系の血が混ざってやすが、ただのギルド職員でさぁ」
……なんて?
狐族のコン。狐の鳴き声といえば、
「リンディンディンディン……ハッティハッティハッティホー!」
丸い分体をキツネっ子ダンサーに変えて腰をふりふり。
「よしてくだせえ! そ、そういうことはあまり言わないほうがいいでやすよ……。早く行ってくだせえ、無事に戻ってくることをお待ちしておりやす!」
もふってる手で顔を隠し、もう一方のもふ手をひらひらさせる。
『アンジェ、俺なんかやったか……?』
『わ、私は……えと』
アンジェの様子がおかしくなった。え、これなに? 解説ないとわかんないだけどっ!?
この歌と踊りは封印しよ……。異世界では二度とやらない。
とにかく後味が不安な長話も終わった。
『それじゃ次行ってみよー!』
『やりっぱなしがすぎるっ!? あ、そうだ。廊下の魔物さん達はどうしますか?』
予感系のスキルが総じて、早くこの場を立ち去れと叫んでいる。この感覚って……屋敷のときと同じだよな。
『無視だ、放置してギルドを出るぞ。影移動――』
今いる部屋から廊下、受付、酒場からの出ぐち――
「あらんっ? なにかしらんっ?」
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