第17話 クズ、ちゃんと絡まれる
グドンの豚っ鼻から吹きつける息が強い、しっかり影糸で分体を固定しておかないと吹き飛ばされそう。
「おいグドンやめろ! 登録してない魔物と揉めるんじゃない」
牛の頭の男がグドンの肩を叩いて仲裁に入る。
牛頭の肩にはビショップの
『なんだ? 登録してたら揉めていい感じ? え、俺やっちゃうよ?』
魔空の中でシャドーボクシング。
『魔物ギルドでは、未登録の魔物との揉め事は禁止だそうです。裏を返せば……登録後に襲われちゃうかも……イッ゛んんっ』
やめて、ゲームスタートで速攻粘着とか迷惑だろ。あとアンジェ、胸は引っ張っても大きくならないぞ。ならないよな?
「ゴズさん、だっで……こいつ、おでのこと馬鹿にしてるど」
牛頭のゴズに、グドンが乱杭歯を器用にずらして口を尖らせた。うんブスだな。
「バカになんてしてないど」
分体の表面を波立たせて笑っているように見せた。
「っ! ほらあ!」
人を指さすんじゃない。あ、豚足だから指じゃないか。
「今はやめておけ、という話だ。未登録者相手になんかあったら俺たちまで上に怒られちまう。それから……魔影のお前さん、進化したと
「そ、そうだど! 謝るなら今のうちだあ、ぶへへへ。登録した後に立場をわからせてやるど。なんたっておではナイトだからな、ほれ!」
グドンの豚足を上げるとナイトの印が浮かぶ。
「なあ、ゴズ先輩。一つ教えてくれ」
つばを飛ばすグドンを無視して気になる事を確認する。
「なんだ?」
「俺が未登録だから、あんたはこの豚を止めている。つまり、あんたらは俺に手を出せないってことでいいか?」
「さっきから何だテメェ! ゴズさんに調子くれてんなよゴラァ!」
おっと! ここでリーゼントヘアの赤い皮膚をしたゴブリン、怒りの乱入だ。
「やめろ! 未登録者は俺たちの実力を知らない奴が多い。……シェイドと言ったか、お前さんの言うとおり俺たちには制限がある。だが、新人になめられてそのままでいいとも思ってないぞ」
うおっと、ゴズ先輩から魔力圧を感じる。
こえぇ……か? 【直感】は『ホルスタイン級』と……いやゴズ先輩のことだよな!?
「おっと先輩たちを敵に回すのは得策じゃないな。でもさー、そこの豚男が絡んで来なきゃ俺だってここまで場を乱すつもりはなかったぞ。唾は汚いし、口は臭いし、見た目も不細工な豚顔が悪いんじゃね?」
「な、なんだどっ!? おめえ、いい加減にするどぉ!!」
俺の言葉に反応して、ゴズ先輩の仲間ごとグドンが突き進んでくる。
「だから挑発をやめろと言っているっ! 俺たちは特殊な魔素によって未登録者の数倍の力を持っているんだ。だからこそ俺たちはどんなに雑魚でも、クズでも未登録者には手を出さない。魔影なんてグドンが撫でるだけで消し飛ぶぞ! な? 悪いことは言わない、命があるうちにここから立ち去れ」
ボクサーが一般人を殴っちゃダメ的なルールか。
特殊な魔素でパワーアップか楽しみだ。
でもその前に、登録したから豚に勝てたと言われないように、今からシメる! から煽る!!
「はあ……強化してその程度なら、俺が登録したら豚顔は雑魚以下なんだけどぉ!?」
口元を広げて三日月を作り、値踏みするような目をグドンに向けてやる。【
「ブギギィ……――さっきから、おでが動けないからっでぇ……調子に乗ってんじゃねえどぉ! もう我慢ならねえ、おらどけお前らっ! ふんグがぁぁアアア!!!!!」
ゴズの仲間たちの拘束を振り切り、赤い魔力を体から放ちながらグドンが来る!
「おら、かかってこいよ。あんよが上手、あんよが上手ぅ!」
『シェイドがすごく生き生きしてる』
俺は舐められるより、舐めるほうが好きだからなぁ。いや、そういう意味じゃなくて!
「おい、グドンやめろっ! シェイド、逃げろ! 逃げてくれ!」
「だめだ、完全に頭に血が上ってるぞ!」
「そこの奴、さっさと逃げろ! 巻き込まれるぞっ」
床板を大きく揺らしながら突進するグドン。ゴズ先輩、逃げるのはいつでもできるんだ。だけど、勝てるときに逃げるのはナシだ。
「豚まっしぐらー……からの魔空――」
しちゃう。
「ぶごぶごぶごごぉぉぉ――」
足元に魔空を広げてやったら、ギャグ漫画のように、足をジタバタ動かしたまま落ちていった。
『ぶごぶごぶごぶごぉおぉおぉぉ――』
魔空の彼方へ走っていく。端についたら反対側の端から出るハムスタールームへようこそ。
って……頭に血が
「うーわー、とーろくしゃーにーおーそわーれーるーーー……あれ? さっきの豚顔どこですかー? キョロキョロ」
『安心できる
そう! アンジェは一部始終を安全地帯からずっと見ていたが、他の奴らからするといきなりグドンが消えたようにしか見えないだろう。椅子や机も舞い踊る修羅場だったし。
『ただでさえ、薄暗いところにこれだけ埃が舞ってちゃ、誰も気づかんだろ』
公衆の面前で拉致するのが、実は一番成功率が高いのよ。
「…………!?」
「グドン……? どこだ?」
「消えた、ぞ」
ごくりと唾を呑むゴズ、最弱の魔影とグドンの喧嘩をニヤニヤしながら見守っていた野次馬連中も口を開けたまま固まっている。
騒がしかったギルドに静寂が訪れた。
「はいはい、お待たせしやした! 王魔影のシェイドさん、登録の準備が整いやし、た……ってなんでやすか、この変な空気は? ゴホッ、埃が……!」
やっと三つ目の狐が細長いガラス瓶を大事そうに両手で持って戻ってきた。
ガラス瓶の中では紫色の煙が渦巻いている。
「何もない、先輩たちから色々と教わっていただけだ。……で、そのガラス瓶の魔素を飲めば登録完了ってことか?」
「……え、いやそうでやす――あ」
それなら早速いただこう。
狐の手にあるガラス瓶に影糸を伸ばして回収。
おお……これは、熱いっ! 魔空が一気に広がるっ!! グドンの背が地平線の彼方へ。
……でも、これは、この違和感は――
『ギルドに隷属、指示に従え……? お、こ、と、わ、り、だっ!! ――ふんぬぁっ!! よしスッキリー!』
魔素を思いっきりこの違和感にぶつけたら、なんかすっきりした。
「……あれ? シェイドさん、あんた今……?」
三つ目の狐の顔が真っ青になった。
理由はわからないけど即バレしたぽい。
「あー……別室で詳しくオハナシしようか?」
魔力圧だったか、分体に魔力マシマシ纏わせて狐くんに話しかける。
そしてゴズたちが放心しているうちにこの場から逃げるのだ。
「はっはいぃ! こちらへどうぞ」
違和感……ギルドの呪いらしいけど、ルーキーや万年ナイト級の奴らが無茶しないように思考誘導するだけの簡単なもので、ビショップ級以上になると効かなくなるそうだ。
すなわち俺は既にビショップ級の力を持つ強者だと、狐くんは認識したわけだ。
賢い魔物は嫌いじゃないぞ。
あと……あれだけ警戒してた特殊な魔素をうっかり吸収しちゃう自分も嫌いじゃない。ぐすん。
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