第16話 クズ、名乗りを上げる
受付カウンターが空いた。
ダミー、いや正確には分体か。
『コアアリマカゲか、いやコアナシマカゲだ。となるとコアナシコアホカカゲカゲはなんだ』
『誰かを呪ってるっ!?』
呪ってない、俺をなんだと思ってるんだ。
分体をさっと出すために、基本形を決めておこう。
ピコーンッ! 名付けて……【分体生成】――
サイズはバスケットボールぐらいの大きさにしてみる。
『シェイドが魔影さんの姿に……あ、いえ魔影さんでした』
この子は何を言ってるんだ。
アンジェが目をぱちぱちさせているが……。あっ!
『どうも、黒いピンポン玉です』
『これはご丁寧に……?』
何も生まない会話。
集中っ! とにかく魔影の姿が進化した感じにしたいのよ。
まずはわかりやすいところで、目玉を二つ、口は両端まで裂ける幅広三日月タイプ。
『――ベロベロバァ!』
『おっきな舌で挑発されたっ! ……でもちょっと可愛いかも』
ちょっとキュートにしすぎたか、ちなみに某有名ゲームの〝あやしいかげ〟風味にすると、
全体的に人型で上半身は幅広めで、下半身が地面に向かって細長くして。
薄暗い顔に縦長の目、尖った耳をつけて、コウモリの翼、手を長くして爪をつけて完成。
〝あやしいかげがあらわれた!〟どうだ、スタイリッシュホラーだろ!
『なんだか変な形です』
トリヤマ先生に謝れぇっ!
『この格好はやめておこう。色々と良くないことが起きそうだ』
『丸いほうが可愛い』
ほっとした表情のアンジェが呟く。可愛いじゃなくて恐れおののいてほしいのだが。
異形を相手に見た目で驚かせるってむずくね? 色々と逡巡するもの面倒だし、このままゴー!
「よお、ポータル使いたいから登録してほしいんだけど」
あれ、ちょっとサイズが。
「あいよっ、魔物ギルド第5層支部へようこそっ! ……ってどこにいやす?」
緊張してサイズ感まちがえた!
三つ目用のメガネをかけた三つ目の狐。飛び出た鼻ともふってる口元のせいで、俺が死角に入っているらしい。狐はアッパーに弱い、覚えておこう。
「あれ、気のせいか……? メリー、あっしのこと呼びやしたかい?」
「えー呼んでないかもぉ。でもぉ、手が空いてるならメリー手伝ってほしいのぉ」
羊の巻き角メリーさんの席は長蛇の列。
巨乳ちゃんは隣の席だった! ……今さら移動はできないし、仕方ない。
このままだと三つ目の狐がメリーさんのお手伝いに行ってしまう。
カウンターに飛び移って、
「ここだよっ!」
「ウワっ!? ……ああ失礼しやした。小型種は久しぶりでしてね…………え、あんた魔影? もしかして魔影が喋ってるぅ!?」
三つ目の狐が驚きの声を上げたことで、メリーさん目的の魔物たちが一斉にこっちを向く。いや、一部はメリーさんの巨乳に釘付けのままだ。恐るべしメリーさん。
「ああ、俺には意思がある。もちろん知性もある……言葉に似た鳴き声じゃないからな!」
そういう魔獣扱いはやめてくれよ。
三つ目の狐ははくはくと口を開くが何も出てこない。
メリーさんの視線は俺に向いているが、やはり一部の魔物たちはメリーさんの巨乳に首ったけだ。もちろん俺も視線が吸い込まれているぜ!
「種族は魔影。俺は魔影からゼボリューション進化した〝
「げぼ、りゅうしょん? でやすか」
「誰がゲボかっ! 魔影が進化して王魔影になりましたー、それだけ覚えて帰ってくださーい。じゃないのよ! 俺はポータル使いたいって言ってんだよ。魔物なんだから登録できるだろ!」
知性あるものは魔物である。お前らの常識に合わせてやってんだから、ゆらゆらするな! 違ったぼやぼやするな。隣のメリーさんが三つ目の狐を少し押しながら俺を見てくるせいで、ゆらゆらに気を取られてしまった。
『……くっ』
アンジェが悔し気に四つん這いになった。いやお前さん、だいぶ育ってるぞ。
「こほん! 失礼しやした。それとメリーは仕事に戻ってくだせえ。……ええと王魔影でやすか。確かに会話はできてやすねぇ。それ鳴き声ってオチは――」
「ないって言ってるだろがいっ! てめえ、魔空に入れてじっくりオハナシしましょうか、あぁんっ?」
「ヒェッ! しょ、少々お待ちを!」
だいたい鳴き声でこんだけ会話が成立できるんなら、そいつも魔物と同じぐらいインテリだよ!
三つ目の狐は慌てて奥の部屋に入っていった。
……メリーさんの視線が強くなったけど、余所見しながら目の前の奴らの対応できてるのヤバない!? おっとりした話し方だけど、俺が気になって仕方ないらしい。
待ち時間で口説いてみるか。「なあ、そんなに――
「ぶへへへ、聞いたど。おめえ魔影のくせに登録するんだってなあ? 王魔影だってぇ? ぶへっ笑えるど」
二足歩行の豚顔……オーク? が後ろから話しかけてきた。
乱杭歯のせいか口が閉められずよだれや唾が顎や頬についていて汚い。
ちなみに魔影なので、背後も当然のように見えている。
「うわぁ……。登録しないとダンジョンに行けないからな、別のルート考えるのも面倒だしな」
思わず、嫌悪を隠せない声が口をついて出ちゃった。
見るからに頭が悪そうなタイプ、適当に流してメリーさんとお話したい。
「ああ、そうだど。ポータルには勝手に入れねぇんだど。ただなあ、おめぇみてぇな最弱無能なんかすぐにおっ
一見すると俺を思っての発言っぽいけど、こいつの人を見下した目がそうじゃないことを物語っている。メリーさんの列以外のカウンターは空いているし、単なる嫌がらせだろ。
「あで? 聞こえてないだか? ぶへへ、そこをどけって言ってるべ」
「はあ、ご心配どうも。ダンジョンに用がある以上、登録はするけどね。つーか手続き中の待ち時間だから、俺がどいてやったとしても誰もいないぞ」
嫌がらせは右から左に受け流す。メリーさんのお乳は右と左を交互に愛でる。
「ぐだぐだうるさいど、黙ってどけばいいんだど!」
早く狐さん戻ってきてー。豚に絡まれてるのー。
「だから手続き中だって言ってるだろ……――さては馬鹿だなこいつ。つーか豚に生まれたんだから清潔にしとけよ。祖先が泣くぞ、ブゥー」
豚は意外と綺麗好きだけど、この豚男は不潔だ。
まあ、後半は小声で言ったから聞こえてないか。
「あんだどぉ!? 魔影のくせに今おでになんて言ったんだぁ? おではオーク種最強になる男グドン様だどっ!」
聞こえてた。
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