第15話 クズ、世界観を知る
『討伐対象。危険度Ⅽ、緑光の勇者? んで、危険度B、炎の勇者ブレイブ。危険度S、光の勇者アレックス……勇者、いるよね。知ってた』
依頼板の上の方に貼られた赤い紙のほとんどは二つ名付きの勇者や聖女、英雄に冒険者と人間だらけ。
白い紙には魔獣の絵姿と危険度、回収してほしい部位名が書いてあって、走り書きで『齧ったらクエスト失敗!』と。
下の方には、ダンジョンから採れる植物や鉱石、要注意冒険者パーティやノールールと書かれた魔物の名前が貼ってある。常設クエストと賞金首的なやつ?
『俺もノールールの魔影とか言われたいかも』
ノーネームとかノールールとか響きが好き。
『ノールールは世界の敵ですけど』
『よーし俺は清く正しく生きるぞ。ルールを守って楽しく
『シェイドが清く正しく……? あ、いえ! そうだ、魔物の世界にもお金の概念があるんですね』
なんか急に話題変えてきたな。
依頼書や賞金首の紙に〝
モンスター倒すとゴールド落ちるタイプのゲームって、こういう世界がモチーフだったのか。
『さっきからアンジェは何を読んでいるんだ?』
アンジェの横からタイトルを確認する。
――〝魔影の記憶・アールクトレの歩き方永久保存版~ダンジョン街~〟。
『そのガイドブック、異世界にもあるのかよっ! 古代の秘められた木と書いてアールクトレと読む? やかましいわ』
いや、俺の記憶が影響しているだけか、そうだよな。あの会社のリサーチ力を考えるとありそうでヤバない?
相変わらずわかりやすい。この本があれば一人で旅ができるな、俺はしないけど。
『えーとダンジョン街では、魔物同士の争いは禁止されています……? へー、さっきまで全力で争ってきたんだけど。で、この街にあるポータルは……あ、これはさっき聞いたな。――えっ人間ってこの街に入れるのかよ! ただし、命の保障はない』
そりゃそうだな。
『5階層にあるポータル周辺
ポータルから半径1キロほどの円で囲んだエリアが非戦地帯。円に沿ってぐるっと壁が書いてあるけど、これってポータルに入る前に
ダンジョン街はちょうどこの地図の中心にあって、それを包囲する形で東西南北に大小の円がある。円の中心には各国の旗とポータルのマークか……。
『ダンジョン街って、人間側のポータルに囲まれてるな』
絶対に魔物の好きにさせる気のない布陣。
『人間の国に魔物が行きたいとき。……正面から強行突破しましょう、いや無理ー! 穏便に入る方法はこちら。えーと商人と仲良くなろう! 人間の従魔になろう! 知性ある魔物の子分になろう! どれもパスッ!』
俺単体で人間の国に行くの無理だろ、魔物を通す気がなさすぎる。
『あのシェイド……。その、あまり調べないで……じゃないと』
ガイドブックを夢中で読んでいたら、アンジェが悲しい顔をしていた。
仕事を取られまいと必死だな。しょげるアンジェの頬を
『いっ! ぃたひぃ、れすぅ』
やわらかホッペが伸びーる。
『心配するな、俺はお前が役に立たなくても、飽きるまでは魔空に置いてやるから』
『フェ……
飽きっぽいから安心できないとアンジェが泣く。
バレてた。
『わかったよ、調べる系は任せる』
待ち時間は〝魔影の記憶・まるで小説!?まとめ動画集〟でも観るか。
駆け落ち令嬢と隣国の王子のラブコメとか、落ちこぼれが勇者パーティから追放されたあとに強くなって復讐する物語とか実際にあったのなら見てみたい。
『ガイドブック、アンジェのせいでどこを読んでいたかわからなくなった。色々と訊くからから10秒以内に答えよ』
『私のせいっ!? えっ? 10秒以内……はい、がんばりますっ!』
ふんすと鼻を鳴らすアンジェ。
アンジェ先生の講義。
魔物は自己顕示欲を満たすため、人間を食らい己の糧にするため、シンプルに空腹や欲望を満たすため、様々な動機で魔物たちは人間たちを襲う。
俺の場合は生きるための手段だな。
ダンジョン内には拠点が作れる階層がある。
拠点の規模は、集落レベルから国と呼べるほど大きな縄張りを持つ魔物もいる。大きな国の王……それはもう魔王なんだよなー。
俺もこの広々とした魔空の下で国を興してみるか。
修羅の国。
『ないわー。魔空は俺の体内とは別次元の感じだけど、それでも好きで入れている奴らじゃないしなー』
俺を見下す人間と魔物の集団。結託されてクーデター起こされる未来しか見えない。
……あれ? いま
『シェイド、聞いてます?』
『いや……あ、えーと階層によっては魔王だらけ? いいから続けてくれ』
人間たちは魔物が世界中に溢れないように、地上に出られる1階層の入口や、各国につながるポータルの警備をガチガチに固めている。
人間たちは魔物を見つければ基本的に問答無用で襲ってくるし、2から4階層のほとんどのポータルを人間たちが占拠していて魔物が使えないように死守している。
『――だからこのダンジョン街には、5階層以上で活躍できるナイト級やビショップ級の魔物が多くて、ポーン級は上位等級の魔物の配下じゃないと辿り着けないそうです』
ダンジョン1階層からこのダンジョン街まで、ソロで辿りつけるのは猛者魔物だけ。
雑魚魔物はどこかしらの勢力に入らないと無理なのか。そりゃめんどくさいな。
『良かった、俺は5階層生まれ5階層育ち、悪そうなゴブはだいたい魔空。つまりナイト級以上確定だな』
実力ならもっと上……だと思いたい。
『いえ……2階層以上で生まれた魔物は、ここから1階層に行って、またこの街まで戻ってこないと昇級はできない、と書いてます』
さらにポータルも階層ごとに登録しておかないと自由に行き来ができないとか。
『よし! 面倒くさい、もう少し世界を見て回りたかったがここまでか……』
諦めよう。
『諦めないでっ!? ここにいると追手がかかるかもしれません』
それはそう。
地下にある目ぼしい物は全部回収したし、部下ゴブや働く人間たちも拉致ったことに、家主が気づいたら怒るよな。
『痕跡はないと思うけどバレたらヤバい。予定通り1階層に行く準備をするしかないか』
1階層の敵が強かったら、人間たちの影に入って地上に出てもいいし。
それじゃ気を取り直して登録といこうか。
『シェイドは魔影さんだから、気をつけて』
魔影さんだから……?
『あーそうか。知性を持たない魔影は魔獣のカテゴリーだったか。本能が濃い魔素を求めて彷徨う謎生物……魔影、危ないな』
魔影は何でも収納する習性があるし、俺を割ったら何かが出てくる〝お楽しみ箱〟みたいに思って襲ってきても困る。
俺たちの能力を悪用して人間や宝を収納させて館の主に売りつける、なんて悪い考えを実行する裏組織もあるわけだし……。
どうする?
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