第7話 クズ、攻撃力がなくて嘆く

「なんだガラクタかよ。つーかなんで目の前に全部出さないんだよ、散らかしやがって……」


 戦力の分散だ、ゴミ処理は任せた。


「やっぱ無能だからオレたちの欲しい物が理解できないのか」


 理解はしているが、お前らの欲しい物がないだけだ。


「お、鉄の剣発見! こっちに少しだけ使えるもんがあったぞ」


 これは取引じゃなくて……カツアゲ! くそ、異世界にもカツアゲ文化があるのか。

 ただこいつらの関心がガラクタに移ったうちに、女のシリから本体を移動させよう。

 逃げる先は――便器の裏。


『んもぉー! あれだけ調子こいてて振り出しに戻ってるじゃーん、むしろ敵が増えた分だけマイナスじゃーん……え、これマジで詰み? ヤバない!?』


 脳内にヤバない警報が鳴り響く。脳があるのか知らんけど!


「あらら、逃げちゃった。やっぱり雑魚ね」

「おーい、こっち出てこい。俺たちの言うことが聞けるんなら殺さねえよ」

「そうだ! こいつの中に武器を入れておいて、ゴブリンが来たら一斉に武器を持って奇襲しようぜ!」

「いいな、あいつらが見回りに来るときはだいたい一匹だし、いけるぞ」


 俺の意思を置いてけぼりで、俺の活用方法を考え始める奴が出てきた。

 ふざけんな、誰がお前らなんかの言うこと聞くかよ。

 ガツンと言ってやるよ!


「イウコト、キク! コロサナイデ。ゴブリンタオス、ミンナデニゲル、ナカマダヨ」


 さあ、誰が俺をテイムする? ゲヘヘ。


「……ねえ、アンタさ。さっきあたしに言ってたときと態度違いすぎて引くんだけど……」


 おだまりっ! 第二異世界人め!

 そもそもお前が騒がなければここまでピンチにならなかったんだよ。

 そうだ、この女が悪い。うん、俺は悪くない!


『あった! これなら……あ、でも』


 アンジェが何かを見つけたけど、小さな唇をきゅっと噛んで続きが出ない。


『なんだ、なんでもいいから教えろくださぁい!』


 もうアンジェにも下手に出ちゃうよ。

 

『はい……えと……この人たちを魔空に閉じ込めてゆっくり吸収する、です』


 なるほど、言いよどんだのは同じ空間にいるアンジェが危ないからか、ワンチャン罪悪感も混じっている? その感情は俺への裏切りに近いが、人間の本質だから仕方ないか。


「ほらぁ、出てこいよぉ! おい、着火使える奴もう一人いないか? 反対から追い込め」

「着火はできないけど、光球なら使えるぞ! 【暗闇を照らす光の玉】――魔力が少ないから小さいけど、魔影よりは大きいから文句言うなよ。……ちっ壁が邪魔だな」


 髭面のおっさんが指先に火を灯してながら便器の裏に手を伸ばしてくる。

 もう一人が壁に背をつけながら手を伸ばして、便器裏の狭い隙間に光を入れてくる。


「ヤメロ、ハ、挟むナ! こうショうはどうしタ? 言うことキく、だから影を削るな!」


 だいぶ流暢に話せるようになってきた。

 やっぱり現地人とのコミュニケーションが語学力アップのコツだよな……って言ってる場合か!


「交渉? はっ! お前みたいな最弱無能のゴミは大人しく人間様の言うことに従ってればいいんだ」

「そうだぞ。それを取引だとか、命乞いとか……そういうのオレたちのような存在に許された特権なんだよ」


 ぐぬぬ! 無能とか最弱とか悪い意味で認知度が高いし、魔影の追い込み方もしっかり確立されていて、転生先が詰んでる生物すぎる。


『今までの能力の使い方から、イメージが大事なのは理解してるんだ。知性があるから考えられる、想像できる――なら、魔空を区切ることも……できる、だろっ!』


 魔空に仕切り、俺とアンジェがいる場所を四角い箱のように……。

 なんとなくカラオケルームを想像したせいか狭い。


『きゃあ、本が……本が迫ってくる! ――狭い、苦しい……』


 いかん、本は書庫に。

 人間たちの収容所の広さは体育館以上に設定。

 魔空そのもの容量が感覚的にはナントカドーム3個分ぐらい? ドーム換算で実際の広さを想像できる人いない説。


『シェイド……ありがとう』


『ここで死なれたら困るしな。飼い主としての務めだ』


 じゃないが、目の前のクソ人間どもに比べれば、庇護欲をそそるアンジェは超絶美天使だ。


『……ゆ、優先順位は俺が一番だからな』


 ときどき謎のツンが出るのはなぜだ。誰得ダレトクどころか俺損オレゾンだよ!


 準備完了、こいつらに宣戦布告じゃいっ!


「さっきから好き勝手言いやがって! 今さら謝ったってもう遅いぞコラぁっ!!」


 怒鳴ったら体の形がウニみたいになった。トゲトゲー!


「「「「…………」」」」


 お、動きが止まったけど、このパターンは知ってるやつ。

 あと数秒で大爆笑しそうな顔つきと態度、空気感よ。


「謝るだって、どわっはっはぁぁぁ――」

「あはははははぁぁぁ――」


 まずは髭面のおっさん、壁に背をつけるおっさんの着火コンビを魔空に落とす。

 笑い声のエコーが不快だなと考えると、自然と収容所の音が消えた。


「おい! いきなり人が消えたぞ!?」


「慌てるな、魔影の中だって無限じゃないんだ。どうせすぐに容量いっぱいで吐き出すさぁぁぁぁ――」


 とか言ってる奴らもまとめてパクりんちょ。


「……! こんなの、魔影の収納できる量じゃねえだろッ」

「おい、逃げっ――」


 まあまあ遠慮せずにお入りしやがれ!


『いやー!?』

『おい、なんだよこの魔素……うぐぅ』

『暗いっ、みんな無事か? どこにいる? 広すぎて先が見えねえ』

『着火! 着火! くそ、魔法が使えねぇ!』


 人間たちの口の動きやジェスチャ―を見てのアテレコ。

 魔空内の設定は俺のさじ加減なのは便利だなー。 


 この調子で口パク軍団を増やしていこう。

 絡んでこなかった奴らも同罪ですよ。


 俺とアンジェがいる空間をホーム、〝魔影の記憶〟は書庫に、使わない聖遺物は倉庫に入れる。

 床に放置されたままの短剣〝風のささやき〟を回収、ガラクタは……面倒だし人間たちの近くに捨てておこう。必要なら拾うだろ。


『そして誰もいなくなった……by牢屋。アンジェ、部下にしたいとかお友達にしたいやつとかいる? あ、俺を馬鹿にした奴ら以外で選べよ』


『……いないです。私、この人たち嫌いです。と同じ目をしてた……』


 それはすなわち見殺しをするということだけど。

 ついでにまたもや何かしらのトラウマが発動中。


『オッケー。……あれ、何人かへたり込んで元気がなくなっているのがいるぞ』


 さっきまで元気に騒いでいた奴らだから、明らかに挙動がおかしいのよ。


『高濃度の魔素は、耐性がない人には毒ですから』


 魔素が人間の体に入り込むことで何かしら良くないことが起きるのか?


『魔素が毒……ん? それならアンジェは大丈夫なのか?』


 素朴な疑問。


『はい、私は〝まぬけ〟だから平気なんです。むしろ外にいるより気持ちいい』


『……馬鹿は風邪ひかない理論かな? そんなに自分を卑下ひげしなくてもいいのでは』


『ひげ、ですか……?』


 〝ひげ〟というキーワードで、自分の口元に手のひらを近づけて、産毛がないか探してるの可愛い……。

 はっ!? 違う、これは小動物のお馬鹿行動が微笑ましいだけで、細っこいガリ子になぞ興味はない!


『ふっ俺はロリじゃない、残念だったな』


『ろり?』


 聞きなれない単語が出るたびに、首を傾げるアンジェの仕草に反応しないように集中していたら、何人か死にかけていたので俺の養分にした。お粗末さまでした。



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