第6話 クズ、メンタルをしっかり抉られる
「はあッ!? ま、魔影が? あたし、を? ――ぷっ……あははははははッ! しかも自称ネームド……ぷくくっ! むり、もう我慢できないわ」
しばらく俺の姿を見つめた後、女はのけ反って笑い出した。
ぼいんぼいんと体を揺らし、ばしんばしんと床を叩きながら、笑う、嗤う、俺を見て
「あはは……あー久しぶりに笑った。魔影が話せるのも驚いたけど、まさか言うに事欠いて……超絶? 有能? ……あはははははは!」
腹を抱えて転げまわる姿は狂人だ。
周囲の注目を集めているし、俺的にはとても面白くないのだが。
「おい! うるせえぞ!」
「あははは……だって、ねえ! ここ見てよ、あたしの影にさー、魔影がいるの! それでね? ぷっ……この糞ったれな場所からどうにかしてくれるって……あはははははは! 無理、もうお腹痛いよ」
髭面のおっさんの注意にも負けず、自分のシリ下を指して爆笑している。
おっさんハロー!
「あん? ……げえ! デカッ! 俺の知ってる魔影の10倍はでかいぞ。やっぱり便器の近くだから
「んだよ、騒がしい……魔影がなんだって――でっけえ!」
なんだなんだと、囚われの人間たちが女ともども俺を囲む。
好奇、嫌悪、拒絶、侮蔑、軽蔑……悪意ある視線を向けられ、殺意カウンターは既に限界突破しすぎて、俺に毛髪があるなら
『アンジェ、こいつらは見込みなしだ。選別はしない』
『この人たちの目……知ってる。ごめんなさい……私がシェイドに甘いことを言ったから……』
アンジェが小さく肩を震わせる。
何かしらトラウマが発動しているらしい。
アンジェの提案を甘い順に整理すると、その1はあわよくば味方として生かす。その2が囮に使う。こっちはワンチャン逃げる希望があるわけだが、こいつらの態度を見るとそれすら生温い。
『魔空に入れたら吸収できるんだっけ? いいのか? お前の提案の中だと一番
『……』
アンジェが歯を食いしばったあと、ゆっくりと頷いた。
『人に期待するから失望するのよ。おいでよクズの森』
何でもするんだけど……最弱無能だから、
『アンジェ、とりあえず魔影の武器ってなに? こいつらを安全に吸収する方法を述べよ!』
武器がないとか! 影糸でどうにかこうにか? え、わかんねぇ。
『魔影さんの武器、えと影糸を巻きつけて魔素を吸いつくすとか。……でもそれじゃ安全とはいえない。ちょっと待ってください、すぐ調べます!』
敬語ときどきタメ。
アンジェが本を探し始めるけど、俺もちょっと試してみたい。
目の前にいる女は影糸がついている状態だし、このまま魔素とやらを――吸うっ!!
「イ゛ッ!? やだあ、なにこれぇ!」
女が身をよじったら俺のつけた影糸がプツンと切れてしまった。
よっわぁ! 魔影よっわぁー!
「魔影の攻撃を初めて見たが……なんだかヒルみたいなやつだな」
「おいおい、俺たちと
俺も同意見だ。くそ、魔影の性能め……。
「あーあ、壁掛け松明まで手が届くなら、さっさと影から追い出して
「なー、誰か生活魔法の〝着火〟が使えるやついないか? 魔影ならそれで充分だろ」
「お! それならオレ使えるぞ。【火よ、指に宿り給え】――。女、そのまま動くな。影からあぶり出してやる」
いかん、想定以上の弱さだった。裏目った。
「なあ、こいつってさ。さっきあいつらが探してた魔影じゃねえか?」
「……もしかしたらそうかも。どうする? 捕まえてゴブリンどもに渡せば俺たちの待遇が良くなるかもしれないぞ」
「それはないだろ! それよりコイツを割ればオレたちが助かるもんが入ってるかもしれないぞ!」
「そうねえ、ねえアンタさっき助けてくれるって言ったわよねぇ? アンタの中に良い物あるんでしょぉ? 聖遺物とかさぁ」
助けるとは言ったが、契約はしていない。
最初に話しかけた女が舌なめずりをしながらにじり寄ってくる。
アンジェはまだか! さっきまでの検索の速さの見せ所はここなんだよぉ!
『見つけましたっ! これ武器か技みたいです!』
でかしたアンジェ!
『えと
うわぁあああああ! それ俺に対するメンタル強攻撃よ!
『ぐぶぅ……その本、俺の黒い歴史が刻まれたやつだ。何も言わずに
舌が回らない……舌ないけどぉ!?
『エエッ!? えと、じゃあ他の本……。あった、魔影の技……人を操る――ただし、魔力量による。だめっ、これじゃ使えない、ええっと、魔素を感知する、違う! 相手の魔素量を見る、相手の考えを読む、すぐに役に立つものじゃない! やだ、これも違う…………あーもー、どーしおー!?』
おいおい、どーしおーとか叫び出したよ。
この子、てんぱりすぎるとポンコツ化するのかよっ!?
髪の毛かきむしったり、分厚い本を細腕でぽいぽいとぶん投げて……いや本は開いてなんぼだぞ?
こりゃなんとか時間を稼がないと。
せめて口がきければ俺の小粋なジョークまじりのフリートークが光るんだけど。
影糸をつければ念話ができるが、さっきの女のリアクションを見るともう会話は無理だ。
声っていうのは、音の振動がどうのこうのだったはず。
俺が操れる身近なもの、つまり影糸を振動させてみる。
風もないのにフヨンフヨン……。
よしっ! 違うな。
それじゃ次は魔素を振動させつつ放出するイメージならどうだ?
声出ろっ、心から叫べっ! 魂を振るわせろぉー! 気合いだ気合だぁあああああ!!
「――……ァア、エアエアー、アー、ワレワレハ! アー、セイイブツアルッ! ト、トリヒキスルッ!」
ちょっとカタコトだけど発声できた。
「うおっ! 魔影が喋っているぞ!」
女とは念話でしかやり取りをしてなかったから、他の奴らはびっくりしてる。
ふはは、もっと俺にビビれ! ……で、聖遺物だっけ? 欲しいならくれてやる、ただし時間と交換だっ!
これでいいか、宝石のついた豪華な短剣〝風のささやき〟を影からニュッとね。
新たなご主人の元で、冤罪の風を巻き起こしてほしい。
「あら、すごく綺麗な装飾の短剣だわ! これ、売ったらいい金になるわよ」
「短剣か。……これだと上位種は難しい、おい! もっと武器を出せ!」
貪欲ぅ! いやーあとは照明と水を出す道具しかない……コレは木々の恵み? 名前的に武器じゃないな。見た目もすげえデカい何かの
聖遺物じゃないけど、鉄の剣がいくつかあるな。
盾と皮鎧、消化中なのかところどころボロいけど! ぶちまけろ、ぶちまけろ! なるべく広範囲にばら撒いて時間稼ぎだ。
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