第4話 クズ、色の種類を知る
――魔影の中にある空間を〝
――魔空は時間の流れが遅い。広さは魔影の魔力に依存する。
――魔影は魔空にあるものを全て吸収し、自分の力とすることができる。
――魔影は
――魔素とは人間や魔物たちの魔力の源で、どこにでもある。
――魔素は浄化すると聖素となり、魔を
『聖素は聖力の源で、魔獣や魔物は嫌いますし、不死族や魔影さんの場合は弱点になるんです。だけどシェイド、さんがこのまま聖力の耐性をつけていけば……』
苦手がなくなる、つまり無敵!?
なんにしても聖素を放つお天道様の下を歩くには必須の耐性だろう。
ちなみに魔影が何族かまでは書いてないらしい。
『聖布かー、うーん……』
感覚オフにできるけど、生理的に無理というか、嫌いな食べ物って見るのも嫌だよね? そんな感じ。
アンジェに命じて聖布を集めさせると、なかなかの量。そりゃ腹も痛くなるわ。
ぼちぼち吸っていくことにする。
『お! 少しピリピリ感が薄まったかも? 名付けるなら【聖素耐性・弱】か』
この世界の生き物はスキルを持つらしいから、俺もこの謎感覚をスキルということにした。
『話す魔影さんはシェイド、さんが……あ、シェイドが初めてみたい。本にも書いてないです』
魔影博士アンジェの研鑽そして俺の称賛。
『へー、俺が初めて意思を持つ魔影か。無意思の魔影は評価がどん底のせいで俺まで見下されるのがムカつくが。よしアンジェ、この調子でどんどん魔影のことを教えてくれ』
『はい! 早くシェイド……さんのお役に立てるよう頑張りますよ!』
――
前世のビジネス書で見かけた頭のいい古代大陸人の言葉だ。
まあ、とにかく俺が魔影を調べることも、自分を分析することも、アンジェに丸投げしておこう。どうせ俺が仕入れた知識は腐るだけだし。これぞ
『よいっ……しょ! 魔影さんの生態、ふむふむ』
アンジェは積み上がった聖布の山に匹敵するほど重ねた分厚い本を一冊ずつしっかり読んでいる。
彼女が一心に読みふけっているものは本、名付けて〝魔影の記憶〟である。
ちなみに〝常闇の聖光〟の明るさは俺が許容できる光量で控え目。そのなかで本を読むアンジェの視力は悪くなるかもしれないが、そこは本人の責任ということで。
アンジェ曰く、世界中に漂う魔素が一定量溜まると魔影がポップするらしい。で、ポッピン魔影はその一生を知識の
ちらっと本を覗くと和風ちょんまげ男が上半身裸になって刀を振っている動画だった。
『これ……時代劇だぞ。まさか俺の前世の記憶も既に取り込まれて……?』
おさらいだが、魔影に意思はない。が、蒐集癖はある。本能のままに動くはずの魔影に誰かが指向性を持たせた……? 何のために。
といった謎はアンジェに考えてもらうとして、気になるのが情報量。
俺の前世の記憶、寿命はわからないが吸収した数十匹の魔影の記憶だけでは説明がつかないほど情報が多い。……感覚的なものだけど。
『これ、魔影の記憶ってずっと引き継がれているのでは……』
――ドサッ! 新たな〝魔影の記憶〟が分厚い本となって落ちる。
俺、便器の裏から一歩も動いてない。……どこの子だよ、森にお帰り!
『ということで、便器の裏から安全に脱出する方法はなんかわかったか?』
じっと隠れているけど便器の近くである以上、人間たちの生理現象を至近距離で観察するのは辛い。この便器ゾーンには
俺がリリースした新入りたちの顔には不満の色がありありと出ているが、すでに何日も過ごしている奴らは男女問わず無の境地で、大小かまわず致している。
住めば
俺の体は周囲の影に合わせて黒に近いダークグレーの部分と、周囲の色を帯びたライトグレーだ。影に潜んでじっとしていれば保護色で気づかれない。だけど、俺はこんなところで一生を終えたくない。
『ということで、便器の裏から安全に脱出する方法はなんかわかったか? 二回目』
アンジェの返事がないから圧寄りの圧をかける。
『わわっ! ごめんなさい、集中してました。えと、魔影さんは影の中に入ることができるので、それでどうにか出来ないかと考えてました。うーん、例えばゴブリンさんの影に入るとか?』
アンジェが
影に入る……? 潜む、じゃなく? ――ああ、なんだよ、もっと早く知りたかったわ。俺の下にある便器の影、入れるわ。
魔空とは違う別空間。
俺が一番守るべき
『魔影の
『そうです。だからシェイドも影に入ることができると思います!』
アンジェが両手を胸の前で軽く握りしめ、小さな拳を作る。うん可愛い、俺がんばる! じゃないのよ。
何も知らないような顔して、どこでそんなあざといテクニック覚えたんだよ。――だが、俺はそんな小手先で乗せられるほど甘くないぞ。
『……えーちょっとやってみよっかなー?』
うん、やっぱり褒められたい……じゃない! 俺はこの便器裏生活が嫌だから試すのだ。アンジェに応援されたからじゃないしっ!
『か、勘違いしないでよねっ!』
『ええっ!? ご、ごめんなさい』
誰得のツンを出したら、アンジェがヘコになった。
とりあえず動機はさておき、チャレンジ開始。うん、できた!
『簡単にできたけど、影のなか
さっさと移動しよう。ここより広い影……ああ、あの便器の近くで寝転んでいる女でいいか。
『無気力人間たち、興味なしか? 影に入らなくても牢屋を出るところまでは普通に行けそうな気がするが、
ちなみに、この女の影からの見え方だけど薄い膜がかかったモニターを見る感じだ。魔空の中だと警備室のモニターがずらっと並んでいるイメージだな。
俺が人間だった頃の感覚が邪魔して、魔影本来の視界を絞っている気がするが、今のところ頑張る必要もないか。
『そして見上げればケツ……諦めた女のデカいケツが邪魔であまり周囲が見えない。アンジェ、あそこの壁掛け松明の隙間にできた影だったら、この部屋の全体像が把握できそうだけどどうだ?』
広さ的には
『うーん、ちょっと待ってください……――魔影さんが入ることができる影には条件があります。一つは
うん、
『二つ目は、影の濃さがある程度必要です。ここに見本があります』
風紀委員会が装備している髪色検査のときに使うヘアカラーレベルスケールみたいな写真がある。
『左から説明文を読みますね。えとホワイト……最も明るく、純粋な白』
『おう、白だな!』
純白、暗がりでわかりづらいけどまあ白いな!
『アイボリー……白に少し黄色やベージュが混ざった柔らかい白』
『ほうほう。続けたまえ』
『はい、次はシルバーグレー……明るい灰色で、ほんのり銀色がかった色。白から少しずつ灰色が加わる段階』
『へ、へぇ~。知ってる、知ってるぅ』
ニュアンス伝わる、まだいけるぞ。
『ライトグレー……明るい灰色。シルバーグレーよりも少し暗く、より中間的な色。白と灰色の中間です』
『え、ライトグレー? シルバーの次? あ、そうか、うんそうだった。そうだったー!!』
『急に声が大きいっ!? えと、その次が、ミディアムグレーです。中程度の灰色。色味は穏やかでありながら、明るさがやや抑えられ、より落ち着いた印象を与えるそうです』
『あー、落ち着くわー……』
待て、ちょっと待て!
『チャコールグレー……濃い灰色。黒に近い暗い色ですけど、完全な黒ではなく、深みのある灰色』
『……うん?』
まだ、あるのか?
『最後は一番右、ブラックです。最も暗く、光をほとんど反射しない色。完全な黒で、深い闇を象徴するそうです。以上、いち、にい、さん……7種類です。ライトグレーより右側は影に入ることができると書いてますよ』
まず、違いがわからない。さっきのは全て知ったかぶりだ! シッタカタッタッター!?
次にライトグレーが問題児だ。ライトとミディアムの違いむっず! 灰色でいいだろ、ハイハイ!
いかん、バグってきた。落ち着け、こんなときこそミディアムグレーを眺めるのだ。
『何の話だよっ!』
『影の濃さの話でしたっ!?』
急にキレたからアンジェ、びくって肩が揺れたな。
そうだ、影の濃さ、
で、結局、壁掛け松明の影は薄いってことね。
『じゃあ、無理じゃーん。松明の下とか薄いしー、ここから奥までずっと明るいしー、完全に魔影対策できてるやーん』
もーやだー! 頭使いすぎたー!
あやしい影に転生しましたァ!? 〜最弱無能の影になったクズは勝手気ままに最強を貪る〜 yatacrow @chorichoristar
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