第11話 不完全芳香:パルフェタムール?
こうして。
彼女は欲しかった匂いを手に入れた。
それは、僕なしでは完成しない匂いだった。
あまり難しくは考えないけれど、
僕が必要とされていること、
それが純粋にうれしい。
キッチンは二人で頑張って片付けして、
それでも残るチョコレートの匂い。
しばらくどうしようもないね。
鍋は大変だったし、
シンクはべたべただったし、
次の休みは大掃除だ。
彼女の方を見たら、
彼女も僕を見ていた。
目があって、笑う。
全部が伝わるわけじゃないし、
ただ、気持ちよく笑っただけ。
それだけで、心が甘くさわやかになる。
完全な愛の形。
そんなもの全部に当てはめるものじゃない。
大人のあるべき形、女の子のあるべき形、
なくていいもの。
ただ、奇妙にゆがんだ者同士が、
惹かれあって、遠回りして、求めて、
そうして完成する形が、
あるいは完全な愛の形に、近い、かもしれない。
彼女は、小瓶を一つ持っている。
ぱるふぇたむーる、という、
完全な愛を約束する匂いの瓶だそうだ。
彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべて、
「使う?」
と、尋ねる。
「いらないよ」
「そうだと思った」
小瓶はゴミ箱にポイ。
完全な愛は、いらない人からすれば、
そういうものなのかもしれない。
石鹸屋の老婆からおまけでもらったものだとか、
チョコミントがほしい子供のころだったとか、
僕と彼女はチョコレートの残り香の中でおしゃべりをした。
ああ、彼女がいる。
遠くの匂いでもない、
近くに、ここに、彼女がいる。
「レイカさん」
僕は、彼女に言いたいことがある。
ずっといてほしいとか、
大好きだとか。
もろもろ、恋人ごっこで終わっていたことを、
ごっこでないと今からいう。
チョコレートの匂いも。
それからミントの匂いも。
どうか僕にも勇気をください。
彼女は微笑んでいる。
僕は、深呼吸した。
不完全芳香 七海トモマル @nejisystem
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