第6話 不完全芳香:ストロベリー
今回はストロベリーを試してみることにした。
真っ赤で甘い女の子の匂い。
キュートで甘くて、すっぱくて、何よりかわいい。
とりあえずは石鹸屋で芳香剤代わりに、
ストロベリーの石鹸を買ってくる。
足代わりにしている軽自動車に、
とりあえず、ストロベリーの石鹸を置く。
鼻歌を歌いながら買い物に。
行きたいんだけど、
女の子らしい鼻歌の一つも出てこない。
困った、匂いに私があっていないときの症状だ。
歌が出てこない、
あと、この匂いの時はこうすべき、
…だとかが出てきてしまうと、
多分匂いに引きずり回されるか、
匂いを置いてけぼりにしているかのどちらか。
ストロベリー。
ポップでキュートな女の子の軽快な歌が似合いそう。
女の子、そう、女の子。
あたしは女の子らしいということが大嫌いだった。
脳裏に浮かぶ、何かの断片的な記憶。
「女の子なんだから、ピンクのアイスね」
女の子なんだから、
軽自動車の中で、あたしは泣きそうになった。
そっか、ピンクのアイスがだめになったのはそれからで、
ストロベリーがだめになってたのもそれからで、
女の子らしい何かが片っ端からダメになったのもそれからで。
ずっと忘れていたことが次々蘇ってくる。
思えばかわいげのない女になった。
本当のあたしは何がほしいんだろう。
何のアイスがほしかったのかな。
でも。
ストロベリーのアイスが似合う女だったら。
かわいいピンクをきれいに使える女だったら。
マサズミはどんな顔をするだろう。
軽自動車に置かれたストロベリーの匂いの石鹸。
女の子向きの石鹸。
泣きたくなるのはおかしいから、
あたしは何か、ずれているのかもしれない。
あの時食べたかったアイスは、なんだったんだろう。
それを食べていたら、あたしはもっと違っていたのかな。
戻れない過去。
やり直せないことが悲しい。
マサズミの部屋に行こう。
涙は乾かして、無理やりにでも笑顔で。
恋人ごっこ。
遊びに行くの。
それは何でも屋のお仕事でもあって、
それ以上でも以下でもないの。
ごっこなの。
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