第4話 不完全芳香:ハニー

午前3時に目を覚ます。

今回の匂いもやっぱり駄目だった。

ジャスミンの一件からも、何度か匂いを変えた。

どれもだめだった。


午前3時に目を覚ます理由。

得体のしれない夢を見る。

あたしはそれに癇癪起して、

悲しいとか、怒りだとか、

そういうのをぐちゃぐちゃにした感覚で目を覚ます。

ただ、何もつかめていないわけじゃない。

ジャスミンの一件から、ちょっとつかんだことがあった。

食べるものに近い匂いがどうもいいみたい。

ただ、まだ、全部をつかめたわけじゃないから、

午前3時に静かな癇癪を起すのを、

マサズミにはもう少し我慢してもらう。


今回は、はちみつの匂いの石鹸を買ってみた。

直球で食べ物の甘い匂い。

笑っちゃうくらい甘ったるい匂い。

アリスの何とかだっけ?私を食べてって言うクッキーは。

何だか笑えてくる。

笑顔が浮かぶっていうより、

一人思い出し笑いみたいだなぁとあたしは思う。

なんだろう、一人なのがいけないのかな。


とりあえず。

何でも屋の営業時間らしいものが終ってから、

帰ってくるというにはおかしいけれど、

マサズミのところに転がり込む。

なかば同棲?

考えて、クエスチョンマークが飛ぶ。

いや、これはあれだ。

恋人ごっこ。

ごっこ、なんだろうなとあたしは思う。

何だか冷たい気分になる。


甘い甘いはちみつの匂いの石鹸。

とりあえずリビングに置いてみた。

さっき笑っちゃうくらい甘いと思っていたのに、

一人ぼっちのこの部屋では、

空っぽの笑いしか出てこない。

それすらもすぐに尽きる。

なんでだろう。

ねぇ、なんで匂いが完成しないんだろう。


玄関で物音。

「ただいま」

疑うことを知らないマサズミが帰ってくる。

「おかえり」

あたしは笑顔でマサズミを迎える。

「今度はなんか甘い匂いだね」

マサズミは気が付くのが早い。

「何の匂いだかわかる?」

「なんだろうなぁ…」

マサズミは考え、

「お菓子の匂いみたいだね。童心にかえれそうな」


お菓子、うん、間違ってない。

けど、甘いだけの童心には帰れないの。

あたしは、はちみつの匂いもナシと判断した。

欲しいのは、たぶん違うの。

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