第2話 不完全芳香:ラベンダー

あたしは、バラの香りの石鹸を捨てて、

近所の石鹸屋で次の香りを探す。

午前3時に目が覚めるというのは、

睡眠障害なのかな。

じゃ、眠れる匂いがいいのかな。

考えた挙句、

今回はラベンダーを使ってみることにした。

紫の石鹸だ。


何でも屋の事務所に、

とりあえず、芳香剤代わりにラベンダーの石鹸を置く。

今まで色々な香りをおいてみては、

この事務所にあったためしがなかった。

ついでに言うと、

マサズミにあってから、

匂い選びの偏屈度合いが加速した気がする。

いいのか悪いのか。

もったいないことだけは確か。


何でも屋の事務所は、

ある程度の書類と、

パソコン一台。

それから、あたしの居場所たるデスク。

あとはコーヒーでも入れられればいいけど。

今日はラベンダーの感覚確かめるため、

匂いの少ないのを飲もう。

ウィルキンソンあったかな。


時間はたっぷりある。

掃除くらいしかやることない。

マサズミの家の掃除をして、

何でも屋の事務所の掃除をして、

それでもやることがなかったら、

過去の何でも屋の仕事を洗いなおしたり、

何かを読んでみたり。

ここは法律事務所じゃないし、探偵事務所でもない。

個人の(うちのじいさんの)税金対策の何でも屋。

違法なことはしないけど、

仕事がとてもあるわけじゃない。

今一番仕事になっているのは、

近所の幼稚園の飾り作り。

ゾウさんウサギさんパンダさん、

それからわっかのつなげた長いの。


何か飾りを作ろうとして、

紫の紙を取り出す。

紫の石鹸の匂いと相まって、

どこか別の空間の、紫の花畑を思い浮かべるに至る。

ここでないどこかの匂いだ、これ。

あたしはそう思った。

落ち着いた花の匂い。

無口になる匂い。

眠りをいざなう匂い。

あたしはもう少し甘いにおいが好みだ。


ラベンダーは、ここでない匂い。

どこか遠くの花畑の匂い。

遠く過ぎてなんだか安心できない。

何だか、誰もいないような気になる。


あたしは、ラベンダーもナシと判断した。

匂い探しはまだ続きそう。

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