第14話 義妹ルジーナの思い ※ルジーナ視点

 あたしの名前は、ルジーナ・ウィルデイジー。

 金髪ストレートが美しい14歳!

 昔はママとパパとあたしと三人で暮らしていたけれど、いきなりパパが蒸発したの。ママ曰く、


「賭博で負けて自分らを売ろうとしたから蹴り飛ばして川に流してやったわ! ほっほっほ」


 ーーだって。

 でも・・モノのパパのところで楽しく暮らしていたあたしたちは、パパがいなくなっちゃうと生活に困っちゃう。

 そんなところでママがスキップしながら帰ってきて、あたしに「朗報よ!」と踊りながら言ってきたの。


「ひゃっほー! 男爵令嬢よ!」

「だんしゃくれいじょう?」

「実はあなたの隠し子がいるの! 結婚して! って、昔メイドで入ってた屋敷に乗り込んで行ったの! そしたらなんと妻が死にたてほやほやで、ちょうど良かった結婚してやる、ですって!」

「まあ素敵、運命ね!」


 ママと抱き合ってくるくるしながら、あたしは聞いたわ。


「でもあたし、パパの娘じゃなかったっけ?」

「さあね! どっちかはわからないわ! でもルジーナが私の愛しい娘であることには変わりないわ、なんだとしてもママはルジーナを愛してるわ!」

「やったー! あたしもママが好きー!」


 というわけで、私たちは新しいパパーートマソン・ウィルデイジー男爵の家族になったの。男爵夫人と男爵令嬢になったというわけね!


 新しい家はとっても大きくて、新パパ・つまりお父様はとっても優しくて「さすが我が娘だ天使の愛らしさだ」とデレデレで、ママも男爵夫人スタイルに切り替えたら、モダンでナウい最高のお母様にチェンジしたの!


 そんなたちにとって、前妻さんの娘、フェリシアお姉様邪魔だったの。ーー私としては、お姉ちゃんができてハッピー!喜んでいたんだけど、お母様が頭をベシッと新品の扇ではたいて言ったの。


「おばか! このままじゃ今はまだフェリシアしか婿が決まっていないのよ、あなたはどこに嫁に行くことになるか」

「待って、お父様は男爵家じゃないの?」


 私の質問に、お母様は舌打ちしたわ。


「失敗したのよ。……父親の時代から二代だけ男爵位を貰っていたらしいの。新興貴族の数を増やそうとしていた50年前ほどにね。でもそれで終わり。しかも成り上がりの二代目だからボンクラのボンボン。金の勘定は私より下手なの、お父様は。だから……泥舟から逃げるには、結婚しかないのよ」

「けっこん……」

「フェリシアは同世代の男爵と婚約が決まっているわ。お祖父様の代からの約束で、しかもちゃんとした男爵家よ。妹のルジーナはそれより格下のところにお嫁に行かなきゃいけないかもしれないわ。最悪……ヴィルデイジー家を安定させるために、お金持ちのおじさんのもとに行くことになるかも……」

「い、いやー!」

「でしょう? ルジーナが悲しむのはママも嫌。だからフェリシアと仲良くするのは、めっ! よ!」

「はーい」


 最初はお姉様と仲良くできないのは残念だなと思ったんだけど(だってお姉ちゃんって、ちょっと憧れだったの)、お姉様がお父様とお母様に悪口を言われて、それでもヘラヘラ笑ってるのを見ると、なんだか私も一緒になってばかにした方が良いような気がして、どんどんお姉様をからかってたの。

 そして私もヴィルデイジー男爵家にいる間に、どんどん綺麗になって、取引先やお客様やお父様のお友達にちやほやされて、やっぱり私はすごいじゃない! って気持ちになって。


 毎日覗く姿見の中にいるのは、きらきらの金髪の愛らしい私。

 赤い華やかなワンピースも似合うし、髪に結んだリボンも可愛いの。

 にっこり笑顔も、お母様に似てとっても可愛いわ。

 ーー最近、お父様とは明らかに違う顔になってきた気がするけど。気のせい気のせい!


「……お姉様、いいなあ」


 私は鏡に向かって呟く。

 私はこんなに可愛くて愛されてすごいのに、妹。

 地味で愛されるための努力なんてちっともしてない、いつも悪口を言われて縮こまってるお姉様は、婚約者もいる将来安泰な『お嬢様』。

 見ていると、だんだんモヤモヤするようになってきたの。

 お母様は生活のために、キレイでいるのが女の義務よって言ってたわ。

 そして実際、キレイでお父様の心を射止めたの。

 私もまた、キレイで可愛くて、みんなから愛されて幸せになって。努力してるのにーーお姉様は、努力なんてちっともしていない。

 好きな勉強ばっかりガリガリやって。現実わたしたちから逃げるように閉じこもって。

 キレイなお姉様なら欲しいけど、フェリシアお姉様みたいな生まれ持っての男爵令嬢はーー嫌い。憎らしいったら、ありゃしない。


 それでもお姉様は生きていていいんだって。

 それでも、お姉様はウィルデイジー男爵家を手に入れるんだって。

 余裕綽々じゃんって思ったわ。


 お姉ちゃんは私とお母様が何をやっても、少し顔を曇らせるだけでどこ吹く風。

 ひどいことをしてもちっとも怒らないし、私の方なんて見ないではあ、と冷たいため息を吐くばかり。

 全然こたえてない。それって、私なんて取るに足らないって思ってるんでしょ?



 ーー次第に、お姉様が憎くて憎くてたまらなくなったの。


 全部取り上げてあげちゃいたいくらいに。


◇◇◇


「喜べ、ルジーナ! ジェンティアナ男爵令息がルジーナに乗り換えてくれるそうだ!」


 お父様とお母様が二人で婚約破棄をお願いして、無事にジェンティアナ男爵令息の婚約者が私になったの!

 お母様は私をハグして、たくさんキスしてくれたわ。


「よくやったわルジーナ! これで未来は安泰よ!」


 お母様が喜んでくれて私は嬉しいし、お姉様もだし抜けてざまあだし、お父様はきっと家の立て直しにはお姉様を使うようになるはずよ。

 ウィルデイジー家は今後ジェンティアナ男爵令息以上の良縁は見込めないとお母様は踏んでいるわ。

 きっとお金持ちのおじさんとか、おじいさんとかと結婚するんじゃないかしら、お姉様。

 でもお姉様は変わり者だし、普通の婚約者じゃない方が案外うまくいくのかも。

 それなら私、良いことしたってやつよね。


「さあルジーナ、婚約者様と会うためのドレスを買いましょう!」

「はーい!」


 私とお母様は手を取り合い、ルンルンで馬車に乗って街へ出た。


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