第166話 旅の始まり

結局のところ、北へ帰る旅は、ぼくとアデル、ヘンリエッタとドルクさん、ルールス先生と、トーア、エルメ、ドミトラというメンバーになったわけだ。


「まず、ロザリアを目指します。」

ぼくは言った。

「ロザリアには3日後に集合。そこまでの移動は各自で勝手にするように。以上。」


「そんな雑な説明があるか。」

ルールス先生が怒った。

「何時のどこ行きの列車に乗って、どこの駅で、降りてどこ行きに乗り換える。所持金はいくらまでで、甘い果実はお菓子に入るかどうかまで、ちゃんと指示せい。」


「ランゴバルドからロザリアまでの道筋は、徒歩移動を組み合わせたら、12通りあります。ぼくとアデルは、久しぶりのランゴバルドなんで、少し買い物がしたい。」

そうは言ったのだが、気になる人もいる。

「ドルクさんとヘンリエッタは、それで大丈夫ですか?」


「なんで、わたしたちが!?」

「ああ、ドルクさんは、魔王宮が長くて、そのあとは『城』を中心に活動されてたわけですから、列車での移動にはくわしくないか、と。

ヘンリエッタは、けっこう世間知らずっぽいし。」


「だ、誰がっ!」

ヘンリエッタは顔を赤くして怒鳴った。

「わたしは、百驍将だぞ! ロザリアくらい行ったことあるわい!」


「それはともかく、俺が魔王宮に長くいた事を、なぜ知っている?」


ドルクさん、鋭いなあ。


「ロウにききました。」

ぼくは、簡単に答えたがこれはウソだ。

ぼくは、かつて、ドルクさんと第二層でやり合ったことがある。むこうが覚えていないだけだ。


「バラバラに行動することにどういう意味がある?」

「向こう側の判断をちょっと遅らせるんですよ。」

と、ぼくは答えた。

「全員で最短ルートをとれは、明らかにロザリアを目指す。そしてロザリアを目指したのなら、それは行き先は北方諸国だ、ということになるはすです。」

「それが、バラバラにロザリアを目指すとどうかわる?」

「相手さんは、んん?こいつらいったいどこへ向かうんだ。いや、まさか。そうか! ロザリアで合流するのか……というところで思考がワンテンボ遅れるわけです。」


「それがなにか意味があるのか?」


「むこうが西域内でしかけてくるのを、やめさせたいんだすよ。

街やひとに犠牲をださなくてすむ。」

「北方諸国ならいいと言う訳には、いかんぞ?」

「ロザリアからグランダ行きの列車に乗ってしまえば、それ以上、手出しはしませんよ。飛んで火に入る夏の虫なんですから。」


全員があまり、納得はしてくれていなかったと思うが、ぼくたちは三手に別れて、ロザリアを目指す。



昔はロザリアは、鉄道公社の鉄道網において最北端の駅だった。

そこから、北方諸国へは、街道を徒歩やら馬車やらで歩く。標準的には10日かかる道のりだった、という。

いまでは、魔道列車は、はるかクローディア大公国、グランダ公国に、延びている。

とはいえ、当初予定されていた、ランゴバルドやミトラへの直行便は早い段階で、なくなってしまったそうだ。

なので、昔ほどではないにしろ、ロザリアはそこそこには繁盛している。


北方へ向かう列車の本数は一日、一本なので、ここで、一晩、泊まることになるものは、けっこういたからだ。

そこまで、辿り着くのは、列車の運行や、運賃、あるいは徒歩でランゴバルドからいったん移動して、ロザリア行きの急行に乗るなど、いくつかの選択肢はある。


アデルとぼくは、半日、冒険者学校の学生食堂で、食事をしたり、ランゴバルドの街で買い物やら買い食いを楽しんだあと、現在ほとんど使われていない間道を抜けて、ユーロスの街を目指した。


世の中は、異世界人が言うところの異世界ファンタジーの世界並に乱れていて、追い剥ぎや山賊、あるいは人を食う魔獣の存在もささやかれている。

そこを夜道で突っ切って旅をしようというのだから、まあ、自分たち以外の人間がそれしようと思ったら止めるよね。


さて、目指すユーロスは、鉄道公社の失敗のひとつに挙げられているターミナル駅のある街だ。

本来なら位置関係からいっても、オールべにその地位を集約すべきだったのだ。

だか、一時期のオールべは、いちいち列車を止めては、運上金をせびるようなタチの悪い封建領主に支配されていて、そこに、あまりに機能を集中することに、当時の鉄道公社の幹部が難色を示したのだという。


北の大国クローディア大公国の直轄地となったいまでは、西域でももっとも支えている都市のひとつがオールべであって、北部行きの列車の乗り換えに、ユーロスを使わなければならないのは、不便だと、利用者には、たいへん不評だった。


ただし。

オールべに行かないですませたい。

のは、ぼくとアデルの共通認識だったので、これはむしろ有難いことだった。


何故かといえば、オールべは、ここ二十年ばかりで、とある女神の信仰の中心地になってしまっているからだ。

そいつは、一応、戦女神、ということになっているが、彼女の信者およびオールべ以外では、“災厄の女神”と呼ばれている。

特に、駅前に建立された女神像は、ぼくもアデルも物凄く、見たくなかった。


まあ、あとはアデルと二人ですこし話しがしたかった、というのもあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る