第162話 冒険者学校

ランゴバルド冒険者学校は、ランゴバルドの外れにある。

敷地面積は、公表されていない。

「刑務所」と揶揄される高い壁が、延々と連なり、外から中の様子を窺い知ることはできない。


昔は、寮費も授業料もタダだったのになあ。

いまでは、相場よりはだいぶ安いとはいえ、きちんと収めるものはある。

なんと、受験料までとられたので、ぼくとアデルは、えらく苦労したのだ。


「大きいな、ここは。」

延々と、壁が続くので、ヘンリエッタは不安に感じてきたようだ。

また、顔色が悪くなってきている。


「西域の中でも規模は1番だと思う。」

ぼくは答えた。

「単純に冒険者の育成以外にも、基礎教育もしっかり、教えてくれるから、いまでは、ほかの国からの留学生も多いよ。」


そう。

それにここは安全なのだ。

立場的に、カザリームや、ミトラ、銀灰、『城』のような数少ない中立地帯である。

現在、北方諸国などを除いては、徴兵が一般的だった。

自分の子どもが、一兵卒として引っ張られて、貯水池やら橋やらを壊したり、畑を荒らしたり、攻め込んだ相手国から、略奪を繰り返したあげく、骸になって帰ってくるのをのぞむ親は、ほとんどいない。


というより、たいひた訓練も受けず、装備もないに等しい徴兵された一般兵は、合戦になれば、真っ先に殺されだけの存在だ。

インフラの破壊か掠奪くらいしか、使い道がないのだ。


それよりも、ランゴバルドに留学させて、別の道をあゆませるか。

最悪、卒業して帰国後に、徴兵されたとしても、剣が使え、魔法も唱えられるならば、生き残る確率はうんと高くなるし。もしかしたら、本当に武功を立てられるかもしれないのだ。

だから、目端の利く親は、どんどん自分の子どもを、ランゴバルド冒険者学校に送り込むのだ。


「あと、講師陣もすごいぞ。」

「名のある魔導師とか、引退したベテラン冒険者とか?」

「ランゴバルドの特務戦力“聖櫃の守護者”筆頭とか、邪神ヴァルゴールの12使徒とか。」

「ばけものじゃないか。」


と、ヘンリエッタの顔色はいっそう悪くなったが、あの程度を化け物呼ばわりするようじゃ、“踊る道化師”ではやっていけないぞ。


「でも、それでは生徒数が膨れ上がらない?」

「まあ、そうだね。素行不良や授業についていけなくて、退学になる生徒は一定数いるんだけど、入試自体は、その後の進路指導に使うだけだから。」

「それで、こんなに広いのね。」


ランゴバルドが初めてらしいヘンリエッタは、それで納得したが、実際はもう少しタチの悪い代物だ。


正門は広く、大きく開け放たれている。

受付はあるが、形ばかり。

昼間の出入りはほぼ、自由だ。夜中には門はさすがに閉めきられるが。


学内には、食堂もあり、売店もあるのだが、それでも、変わったものを食べたいとか、学内では手に入りにくい嗜好品が欲しいとか、そういった要望に応えるために、正門前は、ちょっとした店の立ち並ぶ商店街になっている。


たしか、昔は機械馬車の車両の大型化に伴い、発着のためのロータリーになっていたはずのスペースだけど、そこを、埋め尽くす形で、テントや小屋が立ち並んでいる。


ぼくらは、馬車を降りて、入口に向かう。

学生証を見せて、連れのふたり、ドルクさんとヘンリエッタは、旅先で組んだパーティ仲間だと、紹介した。


名前と出身は書かされたけど、それだけ。


ドルクさんは、門を入ったあたりから、柄にもなくそわそわしていた。

受付を過ぎ、周りにひとが少なくなるのを待ち構えたように、アデルに話しかけた。


「ここが、真祖やご城主、黒の御方や、災厄の女神が通った冒険者学校か。」

「そうだね。」

「しかし、まさかとは、思っていたが」


ドルクさんは、周りを見回した。


「本当に迷宮になっているのだな。」

「そうらしいね。わたしは最初きがつかなかったけど。」

「いったい誰が作り上げたのだ。そして、どうやって維持している?」

「ルウエン!」


めんどくさくなったのか、アデルはぼくを呼んだ。


「作ったのが、誰かは不明点。ただ、ウィルニアの術式を使っているから、出来たのは、1000年前から、学校ができる200年前のどこか、だろう。

維持はコアが行っている。完全自律ではないので、メンテナンスは必要だよ。いまはルールス先生が行ってる。」


「“調停者”にして、“真実の目”の保持者ルールスさまか。」

ドルクは、歩きながら首を捻る。

「魔力過剰による長寿を得て、すでに50年以上この学校に君臨しているというが。

どのようなお方なのだろう。」


「そうだな。それについては」

ぼくは、1軒の瀟洒な屋敷の前で足を止めた。

「本人を直接見て、判断するといいと思う。」



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