第155話 王具対貴族殺し
「なるほど。人間に他の生き物を融合させて、大気中の魔素を複数の種類、溜め込むことに成功したのが、王具、なのだな。」
ラウレスの抱いた赤子は、すやすやと眠り続けている。
抱いているラウレスもまだ10を、いくつも出ていない童女ではあったが、もとがもとである。
間違っても取り落とす心配はなかった。
「キャス、あまり流れ弾をよこすな。」
ラウレスはそう言った。
傭兵集団「紅蓮大隊」副長キャスと、百驍将“貴族殺し”プテルバとの戦いは、肉弾戦をへて、射撃戦に移行している。
キャスの右手の蛇が放つ光線と、浮遊しながら、プテルバが放つ攻撃魔法とで、あたりは、壊滅しつつある。
キャスの光線が、いまも、またプテルバにかわされて、ラウレスの張った障壁に炸裂して眩い焔をあげた。
「いまので、ギリギリだ。もう何発かで障壁がもたない。」
ラウレスの言葉は、淡々としているが、これは彼女が感情が乏しいわけでもなんでもない。
ラウレス自身は、自分の竜鱗の防御に自信をもっている。
あえて、障壁を展開しているのは、腕の中のサイアと。
足元で体を再生中のリヨンを守るためだたった。
そして、その二つは、ラウレスのなかでは言われたからやっている、と、なり抜きでやっている、ことであり、そんなに真剣ではなかってのである。
「だが、それでは、あまりにもバランスが悪かろう。
例えば、魔族の王のもつ魔素を少しでも浴びれば、一瞬でバランスは崩れ、酷い死を迎えることになる。」
ああ、そうか。
と、言ってラウレスは、頷いた。
「その致命的な欠陥を補正するために、わざわざ3つ目の生物を融合させた後、ひとつ取り除き、魔素の吸収器官に余力をもたせ、それによる戦闘力低下を補う形で、人工的なカラクリを埋め込んだのだな。」
「解説、ご苦労!」
キャスは、苦戦している。
彼女の右手の蛇は、彼女と一体化し、凄まじい威力の破壊光線を打ち続けているのだが、プテルバは、浮遊してかわし、あるいは、手にした錫杖で払い除け、なんらダメージら通っていない。
一方で、プテルバは、これもまた高度な威力のある攻撃魔法を打ち続けていた。
キャスは驚異的な身体能力でかわし続けているが、それはたぶんに『運』にも助けられていた。
ともに防御障壁は使っていない。
一方で、手数多く攻め続けてはいてもプテルバも有利では無い。
キャスとの戦いは、有利でもまだ、ドロシー陣営には、ラウレスとリヨンがいる。
ラウレスは、サイナを保護するため、リヨンはプテルバが与えたダメージのため、戦線に復帰していないが、このまま、戦闘が長引けば、そうするだろう。
そのためには、このキャスを早く打ち倒す必要があったが、奇怪な戦闘服と兜に身を包んだキャスの動きは、超人的な身体能力をもつ貴族との戦いに慣れたプテルバにしても、想像を超えるものだっのだ。
キャスが。
なにかに驚いたように一瞬、動きを停めた。
そこに、プテルバの火炎球が炸裂した。
炎に包まれ、キャスの体は吹き飛んだ。
続けざまに、火炎球が、うちこまれて、体は何度かバウンドして、倒壊した建物に突っ込んで、やっと、とまった。
トドメをさそうと踏み込んたプテルバの目前を、リヨンの鞭が薙ぎ払う。
「ふっかああ~つ!」
半身をプテルバに焼かれたリヨンは、ほとんど、全裸に近い。
その全身は、紋様に埋め尽くされていた。
口元には、笑み。
「そこまで!」
リヨンとブテルバは、空を見上げた。
呼びかけてた百驍将筆頭のカプリスは巨大な鳥にのっていた。
輝く翼を持つ巨大な鳥だ。
失われた神に仕えし神官であったカプリスは、四体の聖獣を従えている。
そのうちの一体なのだろう。
カプリスは、彼らの頭上から大声で叫んだ。
「一時、休戦じゃ。これ以上の戦いは望まん。」
プテルバは、無言。
だが、その手のひらに形成した火炎球を静かに消した。
「あ、でもわたしの方が酷くやられてるから。その分お返ししないと。」
リヨンが、にこやかに曰う。
プテルバに伸ばしたリヨンの手。ソの手のひらには、唇の形をした文様が描かれていた。
それが、バックリと口をあける。
「リヨン。」
カプリスの大鳳から、ルウエンが飛び降りた。
けっこうな高さがあり、ルウエンは風魔法で、落下速度を殺そうとした。
それは、成功したのだが、降りたところは、ブテルバとキャスの戦闘で、バラバラになった瓦礫の上で、彼はバランスを崩して、顔から瓦礫に突っ込んだ。
「ルウエン!」
リヨンが、ラウレスが慌てて駆け寄る。
「だ、だいじょうぶ……」
それは、鼻血を出してるくらいは、大丈夫なのだろうが。
ふわり。
と、衣のそでを羽のように広げたカプリスも着地した。
「こちらは、なんとか片付いた。」
そう、カプリスに言われたプテルバは、眉間に皺を寄せた。
「こちら? 片付いたとは?」
「我らの二極将、ザック殿とマヌカ。対する魔王宮階層主オロア殿とミュレス殿の戦いだ。」
「災害級の魔物ですと?
なら、なぜ我々は灰燼とならずに、ここに立っていられるのですか?」
カプリスは、鼻血を流しながら二人の少女たちに心配されているルウエンを見やった。
当の本人は自分よりも、火炎球を叩き込まれたキャスを治療しようと歩き出している。
「あの少年が、われわれ全員を迷宮に転移させたのだ。
戦いはそこで行われ、外部への影響を出さずに、手打ちとなった。
ほかならぬ、“黒の御方”みずからの登場でな!」
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