第152話 魔王サマとその婿

「なるほど。」

しばしの沈黙の後、リウは言った。

座っていた椅子までもどって座り直すと、にやりと笑った。

「わかったよ。すべて合点がいった。

…アモンの差し金だな。」


ずるう。


ぼくは、膝から崩れけていたらしい。

らしい、と言うのは、気配りのきく、優しいアデルが、ぼくを支えてくれていたからだ。


「気をしっかり持って!」

アデルは、ぼくの耳元で囁いた。

「わたしが、ついてるから。」


そうだった。

ぼくは、ぼくの事情にかまけている場合では無い。

アデルにとっては、初めての親子の対面だ。アデルのほうがよほど圧迫を感じてるはずだ。


リウが、あさっての方向に推論を働かせたのに、いちいちリアクションしてる場合じゃないんだ。


「あの神竜は、オレの行動に批判的だった。中立は保つが一切、協力はしない、と言った。おまえは、あいつの教えを受けた古竜なのだろう。

おそらく…人間に混じって暮らすため、一度も竜としての姿をとったことのない。」


そんなモノがいるのか!

ぼくは、ちょっと驚いた。

確かに姿をいくつも持つものは、それだけで、現在とっている姿にゆらぎが生じる。それと、魔力量や魔力バターンを感じ取って、これは人化した古竜だと、判断しているわけなのだが。


知性を得てから一度も、竜行をとっていない古竜がいたら、それは確かに判別はしにくくなるだろう。


「わかった。ここはオレが引こう。」


間違った推論を推し進めた結果、まあ、正しい結論に達したリウは、そう言った。


「ミュレスとオロアも今回はひいてくれ。ここで竜どもを介入させる訳には行かない。」


ぼくは、空間をとじようとするリウに呼びかけた。

「アデルは、おまえの首がご所望だそうだが。」

「そこらは、親子の間の問題だろう。」


ぼくは、呆れた

「そんな問題を抱えている親子がいてたまるか。」


リウは、ゆったりと笑った。

確かに大物ではある。


「王族ならいくらでもあるだろう。地位のため親兄弟を弑逆しようとする王子、気に入った跡継ぎを選ぶため、嫡子に死を宣告する王。」


まあ、確かにいたな。特に後者。


「ぼくの要求は、おまえとフィオリナに今の地位を降ろさせることだ。死ねとは言わない。引退して魔王宮にでもなかよく、もう100年ばかり篭ってろ。」

「おまえが、それを要求するのか、アモンの弟子よ。」


アモンは、確かに尊敬はしてるけど、弟子でなないんだけどなあ。


「おしいな。」

ふいに、リウが言った。ぼくの記憶にある美少年の姿では無い。

伝説の英傑は威風堂々と、そうのたまわった。


「なにが、おしい?」

「おまえが人間ならば、アデルを娶ってオレの帝国を継がせてもいい、と思ったのだ。だが、古竜では、人間の女性は性愛の対象にはなるまい。」


とんでもないことを言って、リウは、空の裂け目を閉じた。


同時に、「大迷宮ランゴバルド」も解除される。

そこは、小高い丘のふもと。

もといた場所だ。


くそっ。

もうちょっと会話を長引かせて居所を掴んでやるつもりだったのに。


アデルは、じっとこちらを見つめてくる。

まあ、リウの魔眼よりもこっちの方が怖い。


「人化した竜なの?」

アデルは、真剣な顔でぼくに尋ねた。

「それだと、いろいろ説明つくんだけど。やたら博学なこととか、ラウレスを助けてやった事とか、貴族の口付けが効かないこととか。

…あと、わたしに全然、手を出してこないところとか。」


「古竜は、人間を性愛の対象とは見ない、というとこ?」


アデルは、大きく頷いた。

ぼくは慌てた。

「ぼくは、人間だよ。人化した竜じゃない。」

「じゃあ、わたしをそういう対象としてみているということ?」


ぼくは言葉につまった。


「なかなか、面白いものを見れた。」

カプリスさんが、手を打って笑った。

はしゃぐな、じじい。

「お主が言い負かされるところは、はじめて見たかもしれぬ。」


ザックさんが、ぶるりと体を震わせると、ひとの姿に戻った。

面白いことに、くたびれた革鎧も剣も元に戻っている。


「確かに愉快なものが見れた。だが、おまえは本当にカザリームてあっただけなのか? どこかで会っていたような。いや。一緒にパーティを組んだこともあるうな。」

「この少年が、ゲオルグ老師の言うように、踊る道化師のリーダーだったなら、それもありうるぞ、ザック!」


マヌカもそう言って笑った。


「オロア老師、ミュレス。」

ぼくは階層主たちに声をかけた。


オロア老師は手を挙げた。

「わかっている。陛下がああ、仰った以上、ここでのこれ以上の戦いは不要。

これで立ち去るとしよう。」

ミュレスも、ほののんとした顔でたんたんと。とんでも、ないことを抜かした。

「そうしましょう。なにしろ、次に我らの主君となるかもしれないカップルにこれ以上、戦いをしかける故もなし。」


なにいってんの!

ちょっと待って!!


ぼくとアデルがそう叫ぶ間もなく、オロア老師とミュレスは「転移」していた。

もともと膨大な質量を隠しているミュレスは、転移なんか苦手なはずだが、たぶん魔王宮内にマーカーを設置済みなのだろう。


体が溶け崩れて光の粒子となって消えていくエフェクト越しに、ミュレスとオロア老師が、ニヤニヤとぼくらを見て笑っているのがわかった。


確かに進化しすぎた階層主は、人間に似るのかもしれない。


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