第148話 怪盗コブラ

ブテルパは、少しも油断はしなかった。

振り回した棍は、両端に青黒い塊を産んだ。金属ににた材質のようであったが事実、それに近い重量を持っていたのだろう。

ハンマーに似たその威力は、飛び退いたキャスが今まで、いたところに大穴を穿った。


「ここは、任せろ。」

キャスは、プテルバの鉄槌をかわしながら、ラウレスに怒鳴った。

「おまえは、エイメを追うんだ。」


「なぜだっ!」

「人間の赤ん坊はとっても弱いんだぞ。」

ラウレスは、静かに言い返した。

「奴らを追うために加速したりしたら、それでサイナに怪我をさせてしまうかもしれない。」


「ひとが走る程度なら」

「大丈夫ではないのだ、キャス。いや毒蛇王具とよべばいいのか。

なぜ、わたしがおまえに、人間の乳児の体のもろさについて説明をせねばならないのだ?」

「だが、このままでは、エッグホッグとシャロンを逃がしてしまう。」

「それはおまえたちが請け負った任務だろう。わたしが受けたのはふたりの子どもを安全に保護することだ。

ところが、それにすらわたしは失敗しているのだぞ。

このまま、サイナまで危険に晒すようなことは、できない。」


キャスの体が駒のように回った。旋回するプテルバの大槌をいなしながら、そのままの勢いで、プテルバの体を蹴り上げる。

プテルバは、体制を崩し、後退したが、まったくダメージを負わせることはできなかった。

リウの鎧を真似た彼の装甲は恐ろしく優秀だったのだ。

キャスの続けざまの突きは、まるでヘビがのたくるように、変化し、ブテルバをさらに後退させた。


だが。

「女神より賜った鎧に、そのような軟弱な技が通じるかよ。」

プテルバは、こう笑した。

「それにおまえが王具だとわかって以上、その弱点をつかしてもらう。」


その手を握られたのは。黒い小さなカプセルだった。


「黒の御方の魔素を人工的に作り上げたものだ。

魔族が、体力を強化するにはとても足りん。しかも瞬時に分解してしまう。あくまで模造品だ。

この鎧よりは大分、出来の悪い、な。」


キャスは、攻撃の手をとめた。


「だが、もともと人間と他の生き物を合成して、強化改造されたおまえたち王具には、わずかな魔素注入だけで、そのバランスは崩れ!容易に死に至る。

まず王具のおまえから、トドメを指しておく。

ラウレス。おまえはそれからだ。」


「わたしは、もともとコブラと鷹の合成王具でな。」

「ふむ。知っている。魔族の反逆者である秘密結社が作った改造型か。だが、三種の魔素を取り込むことは、かえって、弱点を目立たせる様にしてしまったはず。

失敗作なのだよ。おまえは、」


「失敗作、けっこうじゃねえか!

もともと、王具に改造されるようなものは、風来坊でな。家族も友人もいねえんだな。」

キャスの区長がかわった。女性と言うより、まるで盗賊団の副頭目である。

「王具が新たに与えられた魔素を、致命的な毒としてしまうのは、2種類以上よ魔素で体がパンパンになっちまってるからだ。それをなくしちまえばいい。」


プテルバは、指先でカプセルを割った。

もれでた黒い瘴気はごくわずかだ。

人間はおろか、魔族であっでなんの影響もない、王具以外には。


キャスは。

右手で、ブテルバを指した。

その手は、彼女が巻いていヘビと一体化し、ヘビは頸部を広げて、口を開いていた。

残った手で葉巻を加えて、火をつけると、落ち着き払ったように、ゆっくりと紫煙を吐き出して見せた。



「なるほど、コブラ王具、ということか。鷹はどうした?」

「一度合成してものを再排除する。これによって、魔素の収納に空きが生じる。少量の魔素が加わったくらいでは、身体は弾けない。」

「しかし、合成したものを再排除すれば、たとえ、手術が成功しても弱体化するだけだろう。」


確かに。

自信をもって投じた魔素は、効果が、なない。

力づくですり潰すしか無さそうだった。


「弱体化の対策は…あるんだよ。まあ、異世界技術の導入なんだが。」


キャスは伸ばした手の先の蛇の頭を、ブテルパに、突きつけていた。

まるでそれは、異世界からもたらされた武具「銃」を構えているようだった。


2人の距離は5メトル。

踏み込もうとしたブテルバの体を、キャスの蛇頭から発射された火線が貫いた。


「銃毒蛇王具、とでも呼んでもらおうか? 」


発射されたのは弾丸ではなく、圧縮されたエネルギー体だった。それは、間違いなく、黒い鎧を貫き、なかのプテルバの体にダメージを与えた。


今度はプテルバが、膝を着く番だった。

「まさか…貴様が噂に聞いた。右手に銃を持つ女、盗賊コブラか!」


「そんなのとっくに足を洗ってまぁす。」

怪盗コブラ、いまは傭兵団『紅蓮大隊』の副官キャスは、ニンマリと笑った。

「さあて、もう少しやり合おうか?

あんたは、わたしたちの足し止めの、ためにここに居るわけじゃん。もっとがんばらないと、ね?」



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