第138話 人質奪還作戦
ブテルパは、相手の顔を穴の空くほど見つめた。
百驍将は、多くが2つ名を持っていた後、ブテルパが“貴族殺し”と呼ばれているのは、彼が“貴族”を屠るのになにか、特化した技や“体質”を持っているからではない。
魔力、体力、回復力。その全てにおいて“貴族”を上回るからそう呼ばれるのだ。
見た目は、僧形でとくに威圧的な言動をとることはないが、その実力を知らぬものは、少なくとも「百驍将」のなかにはいなかった。
カプリスもまた、物静かな男だ。伸ばした髪を銅の輪で止めていた。服はゆったりとした神官服である。
この二人が、「幼子を人質にとる」という作戦についてなにを思ったかは、言うまでもなかろう。やりたくはないが、これは任務であり、任務を成功させる確率が高ければ、それは正しい。
ただし、気分の善し悪しは論外だ。
“百驍将”筆頭カプリスの“停滞フィールド”は、見た目は巨大な半透明の空をもつ、玉子ににていた。
なかには、3人の小柄な人影がいるのがわかる。
「お主までここを離れる、と言うのか。カプリス。」
嘆くように、ブテルパは言った。
「人数でも個々の武力でも、やつらを上回っているはずの、我らが好んで戦力を割いて、各個撃破されたがっているように感じられるぞ。」
「それは、わしも懸念している。」
カプリスは、頷いた。
「我々の真なる敵はドロシー殿やロウ=リンド様では無い。“黒”の勢力だ。我々が戦力を強化すればその分、“黒”の増援も届く。」
「この村に侵入しようとしたものたちを迎え撃ちに出たディガバルガとボボルガも連絡をたっている。
ドロシー殿を“説得”しに向かったポポロたちも怪しいものだ。」
プデルパは、腕を組んだ。
「まさかと思うが、あのルウエンという少年が筋書きをかいているのではあるまいな。」
「お主の言うルウエンが、わしや女神さまの思っているルウエンなら、正にそのとおりだろうよ。」
「ルウエンとは、そこまでの智謀の士なのか?」
「まあ、時がたってみて、俯瞰で見れるようになってなおさら、思うが、昔、カザリームで行われた『栄光の盾』トーナメントも彼が裏で筋書きを書いていたような気がするよ。
死者はできるだけ少なく、誰も傷つかないような形で、勇者パーティを優勝させた。」
「まるで、戦国時代の軍師ラメイコウか、あるいはギウリーク勃興の礎を築いたガルフィート三世といったところか。
ならば、我々を分断するのが、ルウエンの策であると見抜いて、それにもかかわらず、ここを離れるというのか、カプリス。」
カプリスは、苦い顔をした。
「神獣と階層主の激突だ。避けねばこの一体がクレーターになる。
ただ、ルウエンがわしの思っているルウエンなら、彼も一刻も早く、激突の場へ急行するだろう。
お主の相手は、おそらく『紅蓮大隊』だけだ。」
カプリスは、輝く鳳を呼び出して、そのうえにまたがって、そのまま飛び立った。
「では! 願わくばここを死守せよ、ブテルパ。」
ブテルパは、うんざりと“停滞フィールド”を眺めた。 中にいるのは、ドロシーの娘ふたりと、彼女たちをお守りしていた十歳くらいの少女だ。
うち1人は乳飲み子であり、母親の頻繁なケアを必要としていたが、停滞フィールドに包まれている限り、乳を飲ませることも、おむつの取り替えも必要ない。
逆に言えば、 それ以外の方法で、ドロシーの子供たちを誘拐していれば、それこそ、乳母でもセットで誘拐しなければかなり、悲惨なことになっていただろう。
とどのつまりは、多少はあったもしれないドロシーの好感度をマイナスに振り切ってしまっている。
こんなやり方を提案した、ドロシーの夫とその愛人に、ブテルパは心から腹を立てた。
その怒りのぶつけさきが、ブテルパの前に姿を表した。
ドロシーの夫で、誘拐した娘たちの父親でもあふエッグホッグは、鼻と唇から血を流し、かなり悲惨なありさまだ。
その愛人のシャロンは、それに比べればまだ、元気だった。
2人を追い立てる貫頭衣の少女と真っ赤な制服の女性に、さかんに悪態をついている。
「さあ!」
シャロンは叫んだ。
「約速通り、ドロシーの娘が閉じ込められてる所に連れてきたんだかららんたしたちを解放しなさいよ!」
「だ、そうだ、ブテルバ殿?」
バルコニーの下で、『紅蓮大隊』副長キャスは、うやうやしく、挨拶した。
「エイメとサイナを返してもらえば、わたしたちは、それでいいよ?」
貫頭衣の少女…紅蓮大隊隊長のリヨンが、陽気に叫んだ。
「いずれにしても急いだ方がいいかもね。向こうの丘でおっかない連中が先頭を始めたがっている。」
ブテルパは、バルコニーから、身をお踊らせた。そのまま。
リヨンとキャスの頭上2メトルばかりのところに、ビタリと静止した。
「まず、人質の安否を気遣え!」
ブテルパは、眼科の2人を見下ろしてそう言った。
「おお、そうだった!
でもどうせ無事だろ。そうしなければ、人質の意味が無いし、」
「まあ、その通りだな。」
ブテルパは認めた。
「力づくで奪還するならうけてたつが。」
「50ダル! 少し離れてろ。巻き込まれるぞ。」
リヨンが、エッグホッグとシャロンに言った。
「なんで、50ダル…」
「おまえらをドロシーのもとに生きて連れて帰ることの報酬かそれくらいなんだ。」
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