第134話 狩の始まり

感想コメントいただいて、ありがとうございます。

もう一話、更新しました!


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「さて。」

ど、ぼくは言う。

「なにがさて? なの。」

と、アデルが問うた。


「ここまでは、ヘンリエッタの言った通りだ。シャロンはこの街にいるし、おそらくは、ラウレスたちもここに囚われていることは間違いない。」


「ここからは、知らない。ホントなんだ。」

ヘンリエッタが言った。


「本当かなあ。」

リヨンは、質素というより、粗末な貫頭衣のままだ。足は素足だし、当人玄樹いっぱいでなければ、物乞いの類だと勘違いされただろう。

悪いヤツじゃない。

いや、悪いばっかりのヤツじゃない。

「少し痛めつけてやったほうがいいんじゃないかな?」

その性格は残忍で、血を好むものではあるのだけれど。


「いや、やめとこ。別にひとをいたぶって、楽しむ趣味は無いし。」

「さっき、その筋肉女に、わたしの顔を踏んずけさせた!」

「別に楽しくてやったわけじゃない。」

「そうか? わたしはドロシーの子どもを誘拐した犯人の一味だと思ってやったけど。」

「アデル! 話しを複雑にしないでくれ!」


ぼくは、全員を見回した。


「ここで、いったん解散しよう。」


街はもう目の前だった。

城壁なんてないし、検問らしき場所も見当たらないが、井戸を囲んでぐるりと建物(とはいっても二階建て以上のものはなかった)がならび、ギルドの旗、旅館ののぼりが見える。


「かいさん!?」

リヨンが驚いたように言った。


「驚いたか?」

「驚いたよっ! ヘンリエッタたちを野放しにしてしまったら、さっそくテキに回るぞ?」

「野放しにしなくても敵なんだよ、ヘンリエッタとベルフォードさんは!」

「だったら、ここで殺すか、動けないようにしてしまえば」

「どうせ、リウの手の者も増援される。そのときには、二人には活躍してもらわなくちゃいけないからね。」


ヘンリエッタとベルフォードさんは、なんとも言えない顔をした。


「で、リヨンとキャスさんには、これ。」

「なんだ? このへんな棒きれ……?」

「見た目通りの変な棒きれだが、折るとコッカー鳥の鳴き声が響き渡る。

ヘンリエッタ以外の百驍将か、ラウレスたちを捉えている停滞フィールドを見つけたら、棒を折ってくれ。駆けつける。」


「おまえとアデルは、どうする?」


「リヨンとキャスさんは、シャロンの匂いを追えるんだろ? でもシャロンたちと、ブテルパさんたちが一緒にいるとはかぎらないから、ぼくらは別の方向を探してみる。もし、ぼくらが先に、ブテルパさんかラウレスを見つけたら、同じようにして合図をするよ。」


「うむ。」

リヨンは、腕を組んで首をひねった。

「戦力分散はどうかな?」


「ぼくとアデル、リヨンとキャスさんはそれぞれ組んで戦うのに慣れてるだろう? 戦力ダウンにはならないよ。」


まあ、まず目標を見つけるには手分けした方がいいか、とリヨンは納得したようなしないような顔で、キャスさんを連れて街の中心部に入っていった。

ヘンリエッタは、ぺこりと、ぼくに頭を下げて、こちらは、取り敢えずここが集合場所、としかきいて居ないらしい、そのまま、居酒屋に入っていく。


「何考えてる?」

アデルが、ぼくの胸を肘でおした。

「当ててみる?」

「そうだな。」

アデルは、首をひねった。

「こっちが戦力を分散してしまえば、相手もそれを追いかけるのに戦力を分散してくる。とくにプライドの高い百驍将が、たかだか、わたしたちみたいな青二才を捉えるのに、全員でかかるなんてありえないから。」


「そういうこと。」

ぼくは、なんとなくうれしくなった。

アデルは頭だっていいのさ。


「で、百驍将は、何人入り込んでいる?」

「さすがにそこまでは……」


ぼくとアデルは、連れ立って街の外れを目指した。

そこは、牧場の跡だったらしい。

朽ちた牛舎と壊れた柵に囲まれた空き地は、かなりの広さがあった。


「取り敢えず、追いかけてきたヤツから片付けていく。それを延々繰り返してやれば、むこうのほうが焦るだろう。リウの増援がたどりたかないうちに、アデルを捕まえなければならないんだから。」


「わたしの腕を頼りにしてくれてるんだな!

それはありがたいけど。何回それを繰り返えすんだ。」

「まあ、百驍将って呼ばれてるくらいだから、百回より多くはないだろうと思う。」


強い風が吹き抜けた。

もとは、牧場名でも書かれていたのだろう、いまはボロきれとなった旗が風邪に揺れて、乾いた土が、砂埃をまきあげた。


その中に現れた人影は。

「ふたりだ。ちょうどいいね。」

「油断はするなよ、アデル。フィオリナの百驍将だ。」

「なにさ、ルウエン。また知った顔なの?」

「そこまで、知識豊富な訳じゃない。」


こちらから20メトルばかりのところで、相手は足をとめた。

ということは、魔法か。

なんらかの飛び道具をもっているのだろう。


「百驍将“雷槌”のボルルガ。」

筋肉の盛り上がって腕に、槌を構えた男が言った。

「百驍将“不死王”ディガバルガ。」

灰色のマントを被ったもうひとりは、男とも女ともわからない。陰陰と響く声で言った。


「アデル姫を、母君のもとへお連れするために参った。同行願いたい。」


アデルが無言なので、ちょっと顔を覗いたら、照れていた。

いやもともと大公家の直系だろ?

姫さまって呼ばれる度に、照れてたら、夜のお店に行けないぞ!?


「こんなところで争うべきじゃないそよ!」

ぼくは言い返した。

「リウの増援だって迫ってるんだ。戦力を無駄にすべきじゃない。」


「われら以外にも八人の百驍将が、この街に来ている。さらに、百驍将の中でも二極将と呼ばれるザック殿と、マヌカ殿がこちらに急行することになったそうだ。

“黒き御方”が、魔族を狩り出そうが、迷宮の魔物を解き放とうが、戦力は十分だ!」


喋りすぎだ。貴重な情報ありがとう。

それにしても、だ。

ザックさんとマヌカは、フィオリナのところにいるのか……。


「ザックとマヌカ? なにもの?」

「ザックさんは、もとランゴバルドの銀級冒険者で、その正体はフェンリル。マヌカさんは、かつてハルト王子暗殺のため呼び寄せられたパーティ“燭乱天使”の一員、リヨンの素仲間だよ。」


ぼくは、魔剣ニーサ・カーダと魔剣ガンマを抜きはなつ。

「あんまり、のんびりもしてられないや。アデルは、右のムキムキをお願い。ぼくは、左の陰キャをやる。」

「なにそれ、同族嫌悪?」


無駄口は叩いても、ぼくらの行動には、一切無駄なんてない。


ぼくとアデルは、それぞれの獲物に突進して行った。


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