第131話 追跡行


「さて。」

と、ぼくは言った。


「なにが、さて、なの?」

と、アデルが言った。


「ヘンリエッタに、ブテルパさんたちとの集合場所に連れて行ってもらおう。」

「でもあの」


抗議しかけるヘンリエッタの頭を、アデルの靴が踏んずけた。ひ、ひでえ。


「ちなみに嘘をついてもすぐ分かる。

『紅蓮大隊』のキャスさんが、シャロンの匂いを追っかけられるんだ。

でもそれよりも、ヘンリエッタが、ブテルバさんの居場所を教えてくれた方が早いし、正確だ。」


「な、なぜ今ここで……」


「出かけてから、ゆっくりぶちのめして言うことをきかせようと思ったんだけど、成り行き上、アデルがぶちのめしてしまったんでね。ついで。」


酷いこと言うなあ、とアデルがぼやいた。それ、きみが言う?


「それに、だ。」

ぼくは、アデルに靴をどけさせて、ヘンリエッタのそばに、しゃがみ込んだ。

「別に、きみにとっても不利益になる訳じゃない。フィオリナは、アデルも手元によびたがってるんだろう?」


「そ、それはそうだけど」


「集合場所にアデルを連れて行けたら、それはちゃんと任務をはたしたことになって、きみの功績ならないか?」



ヘンリエッタは、はっとしたようだった。


「……な、なるかも。」


人間というのは、とってもオロカで卑怯なのだ。それが悪いとはぜんぜん思わないのだけれども。


「絶好調だな、ルウエン。」

アデルの口調は、ボヤいているようだった。


「そうかな?」

ヘンリエッタに手を貸して、立たせてやりながら(ついでに、アデルに掴まれた肩の怪我を治癒してやりながら)ぼくは言った。


「そうだよ。いつもは臆病なくらいに慎重なのに、いったん気持ちが決まると、とんでもない無茶をやり出す。」

「それはどうだろう?

アデルとぼくがそろってて、僕らに無理やり言うことを聞かせられるヤツなんていると思う?」


ヘンリエッタは、迷っていたが、結局、仲間との合流地点をはいた。

ここから、徒歩だと、丸一日。エザルという街だった。街の規模としてはここよりも小さい。

と言うか、地図に載っていない街だった。近隣にあるいくつかの街が焼かれ、逃げ出してきた人々が小屋を作って、暮らし始めたのが、起源となる。


そうやってあたらしく出来た街の特徴として、戦略的になんの価値もない。


特産物もなく、交通の要所でもなかった。

もし、ドロシーやアデルをフィオリナのもとに連れていこうとするならば、

駅のある街を選ぶだろう。


まったく方向が逆であるところに、信ぴょう性が感じられた。

キャスさんが、示した方向も一致していた。







ぼくらは、エザルに向かって歩いた。

馬車が通れる程度の舗装された道は、途中まではあったのだが、この面子ならば、自分の脚が早いと。そう判断したのだ。

ヘンリエッタに合わせたつもりではあったが、彼女とベルフォードさんはへとへとになっていた。

まあ、それも計算のうちで、戦いが始まれば、確実に敵にまわるやつを元気一杯にさせておく必要は無い。


これについては、アデルが文句また文句を言った。


「なんかほかの方法はなかったの?」

「ほかの方法?」

「適度に痛めつけとくとか。」

「ヘンリエッタとベルフォードさんの回復力が分からない。痛めつけすぎれば移動に支障をきたすし、完全に回復されたら意味が無い。」

「回復しそうになったら、また適度に痛めつけて」

「その適度が難しい。痛めつけすぎれば移動速度が落ちるし、完全に回復できる程度だと。」

「わかったわかった。」


アデルは、耳をふさいだ。

なだめるように、ぼくは彼女のそばによる。


「それに難しいのは、リヨンとキャスだ。」

「昔馴染みなんじゃないの?」

「もし、ハルト王子のことを行ってるんなら、命を狙われた相手だよ。」

「でも」

アデルは、不満そうだった。

「ずいぶんと仲がよさそうじゃない?」

「確かにね。」

ぼくは、賛成した。

「ハルト王子とやらが、ほくなら、殺し合いをした当時と比べればずいぶんと仲良くなったって言えるんじゃないかな。」

「でも裏切る、と?」

「そこは、難しいね。」

「?」

「ぼくらが裏切られるようなことをすれば、当然裏切られるだろう。逆にそうならなければ、かなり期待できる戦力だ。」

「それは、ブテルパや百驍将筆頭に対しても役にたつほど?」

「ブテルパさんはともかく、もう1人は未知数すぎる。カザリームのトーナメントに居たルウエンが、ぼくだとしても何十年もまえの事だしね。」


リヨンもキャスも、水筒をさげているだけの軽装だ。

リヨンにいたっては、武器すら携えたいない。


「まあ、それでもそこそこは期待しえるのさ。なにしろ、大邪神ヴァルゴールの12使徒のパーティにいたんだからね!」


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