第127話 頂上会談3

踊る道化師の拠点を、このアラゴンの街に置く?


さすがは、ドロシー。

ぼくは、ちょっと感動していた。

これで、残ったいくつかの問題。

ドロシー自身のこの街への愛着、幼すぎる子どもを連れて、移動しなければいけない苦労、「紅蓮大隊」への面子と、彼女自身の組織の存続。

もろもろもが、一挙に解決出来る。


拠点の街をどこにおくかは、大して問題にはならない

ここ、何度か戦火に焼かれて、再建中の田舎町だが、傭兵の溜まり場になっているのは、かえって面白い。


「ふむ。悪くないところで妥協点を見いだせてなによりだ。」

ゲオルグさんが髭をしごきながら言った。

「ジェイン。おまえはいったん、“黒”のもとに戻り、ことの経過を報告し、次の指示を仰ぐのだ。」

「し、しかし……」

魔道人形は口ごもった。

「こんなことが。」


「確かに、正当性を担保された“踊る道化師”がすでに活動を行っている、とちうのは、リウにも、寝耳に水だろう。

だからこそ、この情報は一刻も早く、リウに、届けるのだ。」


「いいじゃないか! かの調停者“背教者”ゲオルグさまもお墨付きか。」

リヨンは、立ち上がると、ぼくに握手を求めた。

「わたしと、キャスも“踊る道化使”に入団を希望しちゃおうかな。」


これには、ぼくも面食らった。

「新しいメンバーの募集はしてないよ。」

「アデル姫は?」

「あの子は、リウとフィオリナのむすめだから。」

「そうか。ならおまえは?」


そうだった。

何食わぬ顔で、ぼくは新生“踊る道化師”に加わっていたが、謎多き魔道士ルウエンは、別に“踊る道化師”の関係者でもなんでもない。


「ぼくはその正当なメンバーじゃなくて、オブザーバーとかそんなもので……」

「なにを言ってるの。別にルウエンが」別にルウエンが“踊る道化師”にいるのを責めてるわけではないよ。

それに、新しいメンバーはほかにもいるんでしょ?」


「まあ、その通りだな。」

ロウが、あっさりと認めた。

「そこにいるルーデウス伯爵もメンバーのひとりだ。わたしの仲間、アルセンドリック侯爵ロウランも、躍る道化師に加わるだろう。

あとは公爵級の“貴族”にも打診してみるつもりだ。もともとの“踊る道化師”もどこからどこまでが、正規メンバーだったかよくわからない一面もあった。

だが、おまえたちに、その資格があるか?」


「“貴族”ぞろいだろ、ねえ。」

リヨンは、嬉しそうだった。

「貴族以外も何人か増やしたほうがいいよ。」


「リヨンの実力は、ある程度は知っている。」

ぼくは、言った。

「でもなぜ、“踊る道化師”に入りたがるのか、理由が、わからない。」


「わたしは、もともと素性のよくない冒険者パーティにいてね。」

リヨンは、椅子の上にあぐらをかいた。

別に意味のある動作ではない。じっと座ってるのに飽きたのだろう。

だが、おかげで、太ももからお尻まで書き込まれた紋章の一部を見ることができた。


……リヨン。おまえ、下着は。

「その、昔、グランダの王さまに呼ばれて、仕事を請け負ったことがあるんだ。

その仕事というのが」

「ハルトの暗殺か!」


ゲオルグさんが身を乗り出した。


「そうだよ。そのこ可愛い顔の坊やのお父さんを『魔王宮』のなかで謀殺しようとしてたんだ。いや、ひょっとしたらその坊がハルト本人なのかもしれないね。

そのわたしたちが、同じパーティを組むなんてなんともすてきな話しじゃない。」


すてき、と言っていいのかは、わからないが面白そうだ。

ドロシーやアデルまでも、面白そうに身を乗り出した。


まわりは、ヘンリエッタやゲオルグさんを除けば、むかしの知り合いだらけだ。

ジェインだって、もともとは十歳頃のフィオリナの記憶をもっているのだから、知り合い以外のなにものでもないだろう。


まったくやりにくい。


突然、ドアが激しくノックされた。

顔をしかめたキャスがドアを開けた。


「ラッツ?」

ドロシーが立ち上がった。

さっきも、彼女のそばにいた見るからに小物悪人面の小男だった。

顔色は、青を通り越して土器色だ。


全力で走ってきたようで、息が荒い。


「姐御。」

懸命に息整えようとしながら、ラッツは言った。

「エイメとサイナがさらわれた。」






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