第123話 アラゴンの支配者

アラゴンは、最寄りの駅からは徒歩で三日はかかる田舎町。


それ自体に、戦略的はゼロ。

だが、この戦乱の世にあって!急速に勢力を拡大してきたものたち。

傭兵のたまり場になっているのが、アラゴンだった。


このご時世、傭兵は、景気がよく、金ばらいがよく、刹那的。

平凡な田舎町に、酒場に賭博場に娼館が立ち並び、そこを仕切るものは、みずからも腕が確かで、荒くれにも一目置かれる度量と頭のキレのあるものではないと無理だ。


いままでは、いくつもの小さな組織が潰しあっていたこの街が、急速に統合されてのは、ここ数年だという。


そのひとつが、テーブルの向かいに座る冒険者パーティ“紅蓮大隊”で、ここは街の中央と東区を抑えていた。

その幹部らしき女性は、美人だが、まとも感覚のぼくには、どうにもとっつきにくい女性だった。

赤を基調の軍服を着こなした彼女の髪は軍服より赤く、白い首筋を生きた真っ赤な鱗の蛇がはい回っていた。


「この街に新しくやってきたものもいることだ。互いに自己紹介のひとつもしておこうかね。」


席についたぼくらや、ゲオルグさんたちを見ながら、彼女は言う。

見た目は滅茶苦茶だが、言ってることはまともだった。


「まず、言い出したわたしから、自己紹 介するよ。わたしは『冒険者クラン』紅蓮大隊の副長キャス。紅蓮大隊は、総勢で100人ばかり。腕利きの揃っている。このアラゴンの中央区の歓楽街を仕切らせてもらっているよ。

もうじき、隊長もこっちに着くはずだ。

恐ろしくつええんだが、ムラッ気のあるお方でね。」


「わしは、ゲオルグ。“調停者”のゲオルグとえは、聞き覚えがあるじゃろう。

ここに、来たのは“銀雷の魔女”ドロシーを“黒の御方”のもとに来てもらうように交渉する役目だ。一緒にいるのは“黒の御方”のハタモト衆の一人、ジェインだ。」


続いて、ジェインが挨拶した。


「わたしは、ハタモト衆のジェイン。んたしの任務はドロシー殿を、“黒の御方”のもとに連れ帰ることだ。邪魔をするものは排除する。以上。」


その容姿は、王立学院に通っていた頃のフィオリナを思い起こさせた。

冷たい、あまりにも玲莉なまでに研ぎ澄まされた美貌。

もとがフィオリナを模して作られた魔道人形とはいえ、稼働後の教育によって、得意技や性格は変わってくるはずだ。

このジェインは、少なくともフィオリナと同じく長剣を携えていた。


ぼくは立ち上がった。

「ぼくは、ルウエン。こっちのアデルと一緒にランゴバルド冒険者学校に通っています。ひょんなことから、『城』のみなさんのドロシーさん探しをお手伝いすることになって旅に同行しています。」


「アデルだ。」

顔立ちだけみれば、髪の色などをのぞけば、アウデリアさんより、フィオリナに似ている。つまり、アデルはけっこうな美人なのだ。でもなんでこんなに偉そうに見えるのだろう。

「ゲオルグに指摘されてしまったし、ドロシーもわかってるようだから、いまさら隠さないが、わたしの父親は“黒の御方”。母親は“災厄の女神”だ。

もっとも、両親ともに顔も見た事がない。

北のクローディア大公領で育ったんでな。」


「ヤレヤレ。」

“紅蓮大隊”のキャスさんは、椅子を傾けて大袈裟に仰け反った。

「調停者殿をお迎えするだけでも、大変なことなのに、ハタモト衆!?

で、そっちが“黒の御方”と“災厄の女神”の王女様?

勘弁して欲しいねえ。こっちは地味な傭兵なんだよ。それどころか!現役から退いて、盛り場の切り盛りで食ってこうとしてるところで。

もうこれ以上変なのはいないだろうなあ?」


剣士姿のヘンリエッタが、じろりとキャスさんを睨んだ。

「わたしは、“災厄の女神”の百驍将ヘンリエッタ、こっちは、わたしの師匠で前百驍将ベルフォード。」


「災厄の女神の直属の精鋭までいるのか。」

キャスさんはケラケラと笑い続けている。

「まさか、これ以上の大物はいないだろうね。そっちの2人は“貴族さま”だろうが!公爵級だとか無題なことは言ってくれるなよ?」


ルーデウス閣下は、濃い紫のロングドレス。これは彼女の普段着でもあり、戦闘服でもあり、寝巻きでもある。

オーラを衣服の形に整えているだけなんじゃないかと、ぼくは踏んでるんだが、それだと、基本、閣下は全裸でいることになるな。

「わたしは、ルーデウス伯爵。トレジャーハンターのルーデウスと少しは知られいたが」

「名はきいてるよ。しかし、日のあるうちに霧に化けて、そのままあの売女の血を、吸ったのは見事な技だったね。

もうひとりのほうも伯爵級かね?」


「うんにゃ。」

ロウは変な否定をした。

「ならば、子爵? 男爵か? まさか侯爵あではありませんだしたよね。」


「真祖。ロウ=リンド。」


顔見知りだったであろうゲオルグさん以外は、凍りついた。


「西域唯一の真祖にして、『城』の最高幹部のおひとりが!」

驚きを通り越して、呆れてたように、キャスは言った。

「まあ、確かに、西の支配者が“調停者”にして“銀雷の魔女”なら当たり前か。」


そのとき、ドアがノックされた。

キャスは、やっとお着きか、と呟いて立ち上がった。

「我ら“紅蓮大隊”の隊長殿だ。」

キャスはドアを開いた。


「やあやあやあやあ」


明るく、まるでスキップするようにはいってきたのは、ロウと同じくらいの年代の女性だった。

髪を短くして、童顔なところも似ている。

袖のない貫頭衣のようなものを着て、腰を紐でしばっていた。

その顔も、首筋も、腕も、太腿も。

おそらく服に隠されてところも、その全てが、奇怪な紋様がびっしりと描き込まれていた。


「やあやあやあやあやあ……っと。」


少なくとも、好戦的ではなかった。

キャスに譲られた席に、どっかりと腰を下ろすと、ぼくらをぐるりと見回してた。

キャスは、その後ろに立ち、彼女を護衛する姿勢をとった。


「先に状況は、だいたいきいたよ。」

ざっくばらんな口調でリヨンは、話し始めた。

「うん、知った顔もいるし、知らない人もいる。あと、よく分からないやつも。」

「なんです、隊長。よく分からないって。」

「知ってるはずなのに、ぜんぜん思い出せないやつもいるんだよ。おい、少年! おまえだ。」


なるほど。

リヨンの紋様によって、強化された体と魂には、“世界の声”が仕掛けたほくへの認識阻害は、そんなふうに作用するのか。


「ランゴバルド冒険者学校の生徒で、ルウエンといいます。

ぼくは、あなたを知ってますよ!隊長殿。

もと“燭乱天使”カンバスのリヨン。

でもあなたは、ぼくをいちいち覚えてられないほど、印象が薄かったんでしょう。」

「どこで、会っている? ランゴバルドか?」

「ぼくを覚えてくれてない相手にそれを説明するのもなんだかなあ。」

ぼくは、言った。

「まずは、街のことと、ドロシーが今後どうするか、について話しましょうよ。」


「それについては、簡単だ。」

リヨンは、キャスと目配せした。

どこでどうなって、リヨンが「紅蓮大隊」を立ち上げたのかはわからないが、少なくともキャスとは、ある程度長いコンビなのだろう。

目配せだけで、互いに意思が伝わってようだった。


リヨンの背後に立ったキャスが、口を開く。

「ドロシーが、『あの』ドロシーなら、わたしたちのボスはドロシーでいい。“紅蓮大隊”はあんたの指揮下に入る。」


そのドロシーは。


赤ちゃんに乳を含ませていた。

つまんないから、バパと遊ぶうと、だだをこねている3歳児のほうは、ラウレスが、面倒を見ていた。

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