第115話 【第七章最終話】新たなる旅へ!

ゲオルグさんと彼が連れていた殺戮人形のことは、誰も覚えていなかった。

噂通り、面白い人物だったが、もともと違うパーティだから、ということだろうか。


ならば、むこうもこちらを覚えていない、ということになる。


これはぼくらにとっては、プラスの要因だった。

「黒の御方」のハタモト衆と「災厄の女神」の百驍将は、対になる存在ではあるけれど、単純にジェインとヘンリエッタを比較した場合、あまりにも開きがあるからだ。

それはつまり、リウと、ドロシーの間の「フィオリナを自分の陣営に招くこと」への本気度の違いに他ならない。


こちらだけが向こうを知っていて、向こうはこちらをしらない。このアドバンテージを生かさないわかにはいかない。


ヘンリエッタを襲ったベルフォードさんは、あっさりとぼくらの仲間に加わった。

これもまた数年前に、ドロシーに接触すべく、旅をしていてあの村に立ち寄ったらしい。かれのなかでは、ほんの数日間の滞在だったはずだが、三年のときが流れていたと聞いて、彼はほんとうにおど、いていた。

彼のもっていた「百驍将」の地位は、弟子であるヘンリエッタが継いだわけだが、彼から見ればヘンリエッタはまだまだ未熟らしく、この旅のあいだに基礎からたたき直す、と宣言して、ヘンリエッタに嫌がられていた。


ぼくたちは、食事をとりながら、これこらどうするかを話した。

メニューは、体感では昨日食べたものといっしよだったが、あの元気のいい若おかみの運んできてくれていない料理はどこか味気なく感じられた。


ドロシーは、ナフザクさんには、さらに北へ行く、と言い残していたらしい。

これは、バルディにも同じことを言っていた。


おいおい、ここから北は、山しかねえぞ。


そうナフザクさんが、言うと、ドロシーは笑っていただけだと言う。

伝説の「銀雷の魔女」が、本当に人里離れた場所に住処をかまえて例は、実は少ない。

いろいろな自然条件が、整っていて、さらに魔法によるが補助が、あったとしもまったく快適ではないからだ。

人は人であるために、他者を必要とする。


例えば、リウは魔王宮という迷宮に千年ばかり引きこもっていたが、アモンや

ギムリウスなど、少なくとも意思の疎通がとれる仲間を傍においていた。


ウィルニアは、孤独を好む。煩わしい人間関係は研究のジャマだからだ。

そんな彼の、英霊たちのアンデッドを友人として帯同させている。隷属では無い。あくまで友人である。


ぼくにしても、魔剣たちがいなければ、孤独の地ではたして正気でいられたか。


ドロシーという名前は、わりと平凡なものだし、出回っている絵姿はどれもドロシーには、似ても似つかなかった。

特に彼女が「祝福」をさずけてくれる、と噂がたってからはそうだ。


ここでしたように、彼女は街中でも別人として生きていけるし、実際にそうしている可能性が高い。

なんだったら、名前すら変えていないかもしれないのだ。


これをぼくが話すと、ヘンリエッタがそれなら、と言って身を乗り出した。


「アラゴンの街で、あの辺を締めている組織の女ボスがドロシーっていうらしい。

銀雷を探す過程で引っかかった情報なんだけど。」

「だれかひとをやって確かめたのか? 」


「いや、そこまでもしなかった。」

ヘンリエッタは、全員の険しい視線をあ浴びてたじろいだ。

「だって、そいつは、違法な賭博場のオーナーの奥さんで子供もいるんだ。

ドロシーって名前の女はいくらでもいるだろう?

冒険者あがりの腕の経つ女ってことで、名前が上がったんだけど、ほかの調査を優先してたわけなんだ。」


「ほかに情報があったら、この機会に話しておけよ、ヘンリエッタ。」

アデルが怖い顔で言った。

彼女の母親も祖母もそうだが、怖い顔をするとほんとに怖いのだ。


ヘンリエッタは、青ざめた顔で首を横に振った。

「これは主上からのご命令ではなくて、わたしが個人的に動いたものだ。アラゴン以外はぜんぶ、違っていた。確認済みだ。」


「なら、そのアラゴンに行ってみようか。」

ロウが言った。

「鉄道が使えるから、そんなに時間はかからないはずだ。」


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