第105話 防衛装置
ここから先は見ない方がよい物語。
触らない方がいい。
感じない方がいい。
ぼくらは、旅の途中にミルラクという村に閉じ込められた。
そのは、銀雷の魔女と呼ばれる存在が作り上げ閉鎖空間。
そこでは、刻がやく1ヶ月の単位で循環している。
住むものたちは、なにも気が付かずに、その刻を繰り返す。
その刻の輪に囚われ、循環してしまえば、そのものもまた、この世界の住人となる。
循環する世界の中。たぶん外界で何がおころうと、同じことを繰り返して過ごすのだ。
歳をとることもなく。
「わたしたちは、外へ出る道を探してみる。」
ルーデウス閣下が言った。
「この世界の完成度にもよるが、なにか綻びが見つけられるかもしれない。」
「わしは、ここのドロシーと、少し話がしたい。」
ゲオルクさんはそう言った。
「わしとロウ殿は、ドロシーと面識があるのだ。ここのドロシーがもし部分的にでも、ドロシーと共通の記憶をもったているなら、なにか有益な情報が、得られるかもしれん。」
そういうわけで、ぼくとアデル、それにラウレスは、とりあえず村に住む人々に少し話でも聞くために、ギルドを出た。
ミルラクの村は、かなり広い。
中心部といえるここは、広場を中心に、役場があり、ぼくらの泊まったギルドほか、商店が何軒か並んでいる。
それに、冒険者たちの家。
それ以外のものは、少ないながらも、開墾を行った土地で点在して暮らしている。
それが、約百世帯。
家は切り立った屋根が特徴的な二階やが多い。ここらでは、かなり雪が降るで、屋根につ盛らないようにするための工夫だろう。
「珍しいな。旅のひとかい?」
きさくに、そう話しかけてきた中年男は、農具が壊れたので、鍛冶屋にみてもらいに行くのだと、言っていた。
「それは災難でしたね。」
ぼくか、刃がざっくり欠けた剣を見ながら言った。
「すこうし、畑を広げたくってな。石を打っちまった。」
「新しい畑ですか?」
「そうよ。来春には、もうひとり子どもが生まれるんだ。食い扶持も増えるからな!」
「暮らし向きは以下がです?」
「大人みたいな口の利き方をするねえ。」
と、言って農夫は笑った。
「まあ、ぼちぼちだ、としか言いようがねえな。一昨日、隣で羊が1頭、牛蝙蝠にやられた。
今月にはいって、これで3頭目だから、間引きために、冒険者が迷宮に行くって話だ。
ロンサンところじゃあ、曾祖父さんの代から使ってた井戸が枯れて、困ってたんだが、みなで寄りあって、新しい井戸を掘り当てた。」
話をしているうちに、農夫はへんな顔になった。
「いや、そいつは先月の話だったかな。この所どうもそこいらが曖昧なんだ。酒の飲みすぎかもしれねえ。」
ぼくらは、農夫とわかれて、道を進んだ。
村は窪地にあって、村から出ようとしない限りは、わりと道は平坦だ。
家は、ぼつりぽつりと点在している。
秋の収穫も終わった頃らしく、畑に出て、忙しくしているひとはいなかった。
ぼくの右手はアデルが。左手はラウレスがしっかりと握りしめていた。
ラウレスが、あのラウレスだったら、かなり気持ちが悪かったが、たぶんそうではないだろう。
ぼくらは、何人かの村人としゃべったが特に情報らしいものはなかった。
昼過ぎに、ギルドに戻るとちょっとした騒ぎになっていた。
ヘンリエッタが負傷した。
というのである。
傷は彼女の利き腕で、厚く包帯が巻かれ、治癒の魔法の白い光が点滅していた。
かがみこんで、手当をしていたドロシーが、ほくに気がついて顔を上げた。
「痛みとショックが酷いので、眠らせました。」
顔色はよくなかったが、口調は落ち着いていた。
「誰にやられたんです、ルーデウス閣下。」
ぼくは吸血鬼に言った。非難するつもりもなかったが、ルーデウス閣下は慌てたように言った。
「百驍将のベドフォードと名乗っておっまた。30代の男だ。剣士のようだった。ヘンリエッタとも顔なじみで」
ルーデウスないたましそうに、寝かされてままのヘンリエッタを見やった。
「百驍将同士で内密の話がある、というので、わたしはすこし離れて、聞き耳をたてていた。」
「たててたんかい!?
それで?」
「いや、ろくに会話も無かった。ただその『ここからは逃げられぬ。おまえもここの一部となれ!』というセリフのあと、血飛沫をあげて倒れるヘンリエッタが見えたので、割って入った。」
「そのベドフォードと名乗ったやつの得物は?」
「片手持ちの長剣だった。賭けてもいいが、ヘンリエッタと同じ流派だぞ、あれは。」
「ここに来たひとたちは、この村に住み着きます。」
恐ろしいことをドロシーはサラリと言った。
「ですがソのうちの一部のひとたちは、村にではなく、山中に身を潜めて、ここから出ようとする人を襲うのです。ベドフォードさんもその一人です。」
「わしは、“調停者”として中立の立場にあったから、災厄の女神の陣営にもくわしい。
お主が言うベドフォードは、いまから1年前に失踪している。後をついだのがヘンリエッタだ。」
ゲオルグさんが言った。
「二人は同門なのかな?」
「そうだな。珍しくミトラの流派では無い。北のなんとかいう町でのみ伝承される剣筋だ。動きさトリッキーな所もあるが、実戦的な剣法だ。」
「閣下!」
ぼくは、ルーデウス閣下に頭を下げた。
「いま、おきたことをもう少し詳しく。」
「おぬしらの関係はどうなっておるんじゃ。」
ゲオルグさんが呆れたように言った。
「ぼくはルーデウス閣下に血を吸われたので、ぼくは閣下の下僕です。」
「まったく逆に見えるが!
まあいい、話をしてくれ。わしも聞きたい。」
ルーデウス閣下は話してくれた。
ルーデウス閣下とヘンリエッタは、2人で山を目指した。
なにかの結界があれば、それを解析し、出来れば破壊する。
だが、なにもなかった。
ふたりは険しい山道を越え。
村が見えたので、入ってみたらここに、戻っていた。
村の入口で、二人はベドフォードに呼び止められたのだという。
互いに顔見知りだという二人が、話をしたいというので、ルーデウス閣下が離れた瞬間に、ベドフォードが仕掛けたらしい。
ヘンリエッタがかなりの使い手なのたは、わかってあたが、ベドフォードがその上を言っていたのか、あるいは完全に不意をつかれたのか。
心臓を一突きにしたであろう一撃を、ヘンリエッタは辛うじて身をひねり、腕を犠牲に致命傷をまぬがれた。
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