第104話 探索の開始
ドロシーに与えられた傷は、いずれも深かった。
表面を止血して終わりというものではなく、なかの組織まで大きく傷ついている。
村のギルドの酒場兼食堂に戻り、ドロシーと別れたあと、ぼくは、絶望的な気分で階段を見上げた。
階段はかなり急で、てすりの類がない。
足の傷が一番ひどく、当たり前の、治療では、まだ、時間がかかりそうだった。
だいたい階段が急だとか。そういうことは、歩くのに苦労するようになって端まで気がつくのだ。
階段の上で、アデルが立っていた。
越しに手を当てて、こちらを見下ろしている。
まだ、西域基準ではこどもなのだろうかが、そのには王者の風格が感じられた。
「派手にやられたわよね?」
とん。
と、ジャンプするとアデルは、そのままぼくの隣に降り立った。
まるきり、体重を感じさせない軽やかな動きだった。
「戦うつもりじゃない。お互いに問答をしただけだよ。」
コミュニケーションに、闘いが必要だったんだ。
アデルは、ぼくに肩を貸してくれた。
肌はすべすべしていて、いい香りがいった。
ちなみに、下着は身につけている。
「報告は明日きく。」
アデルは、自分に体を預けるぼくを見ながら、それほど不快そうではなかった。
「今晩は休息しなさい。わたしがあなたを、守るから。」
ぼくは、とにかく朝までぐっすりと眠った。
複雑な体の内部の修復は、いくつかの自動治癒術式にまかせた。
こいつらを最初から作動させておけば、戦いを、もっと有利に運べたのだろうが、もともととことんやり合う気はなかっから、そんな相手に手の内を見せることもないだろう。
アデルは、ぼくをベットに座らせて、足を伸ばしたり、手を握って、力を入れされたり、最後は傷口が、塞がって居るのを確認して、満足そうだった。
「これならいい。さあ、朝ごはんにしよう!」
食堂には、すでに全員が揃っていた。
昨日、一緒に呑んだミルラクの冒険者たちも半分くらいは来ていた、
朝は、お粥だ。
中には、砕いた木の実がはいっていて
まあ、美味しかった。
甲斐甲斐しく、給仕をしてくれているのは、ドロシーで、その姿はぼくが覚えているものと、ぜんぜん変わってはいない。
ただ、年はとっている。
痩せすぎなのを気にしていた体は、ふくよか、というほどでもないが、着くべきところにはしっかり、お肉がついていて、品の良い美貌は年相応の落ち着きを備えていた。
「はい。ギルドからサービス。昨日は頑張ったからね。」
そう言って、煮込みの盛られた小皿が、ぼくの前におかれた。
茶色っぼい煮込みは、モツを使用したものらしい。ぐにぐにしたその外見は、あまり食欲をそそるものではなかったが、一口食べると、後を引いた。
気がつけば、皿はからっぼだ。
のちのバルディ副騎士団長になる、今は、何物でもない少年は、飛び出しそうな目をして、ぼくを眺めていた。
モツの煮込みなんて、1種の精力剤だろう。それを若おかみが、ぼくに出したということは…。
「うまそうだな。そいつは。」
髭面の冒険者たちのリーダーのおっさんは、バルディくんの視線に気付いてかのかどうだか。
「俺達にも全員分、くれ。もちろん代金は払う。」
「かまいませんけど。ほんとはこれ、夕食に出すつもりだったんですよ。みんなに出したら亡くなってしまいます。」
「今日から三日間、迷宮行きだ。 」
冒険者のリーダーは答えた。
「牛蝙蝠の繁殖が気になる。間引いてくれとのクエストを受注した。なので、モツのシチューは夕方には食えん。今すぐ頼む。」
「本当はもう少し煮込んでから、茹でた野菜と一緒に提供するはずだったんだけどなあ。」
そんなことを言いながらも、ドロシーは、全員に皿を配っていく。
「あなたはどうする?」
ときいたのは、ラウレスがほとんと童女と呼べるほど小さかったからだ。
「もちろん、食べるよ。食べて大きくならなくっちゃね!」
朝食のあと、ぼくたちはまた、2階の談話室を貸してもらった。
「なるほど。ほぼほぼ予想していた通りだな。」
ゲオルクさんは、そう言った。
「この亜空間を作ったのはドロシー自身で、その目的は黒の御方や災厄の女神からの追ってを足止めすることか。」
「あとは、ここからの脱出方法です。」
ほくは言った。
「どこかに、迷宮で言うコアに相当する部分があるはずです。それを見つけて破壊出来れば…」
「ドロシーもどきとの会話の中で、なにかヒントはなかったのか?」
「ぼく自身に足りないものを、見つければそれが答えになるんだと。」
「ふむ?」
ゲオルクさんは、白い髭をしごきながら言った。
「神学問答のようじゃな。」
「手分けして、ここの中心核とやらを探してみよう。」
ロウが腰を上げた。
「あのドロシーもどきが言うには、期限は三日しかないのだろう?
急いだほうがいい。」
「うむ。では3班に別れよう。わしとジェインとロウ殿。ルウエンとアデル殿、ラウレスでひと組。ヘンリエッタとルーデウスでひと組だ。
村から離れる場合には、ここに伝言を残す、で、いいな?」
「伝言って。」
ルーデウス閣下が言った。
「ここにいるものを信じて伝言を託してしまっていいの?」
「ドロシーは、別だんに敵では無い。ぼくらは試されているだけ、あるいはなんらかの試練を与えられている立場だ。信用していいよ。」
ぼくは答えた。
「まずは、村のなかでの聞き込みからかな。お昼にはいったんここに集まろう。」
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