第62話 拗ねる魔道士
アデルは、ルウエンの言葉に、ちょだとした棘を感じて!マントの橋を引っ張った。
「ルウエン! 新婚さんにあんまり尋ねるべきじゃなきと思う。」
「ああ、その通りだね、アデル。伯爵様の跡継ぎだ。結婚相手は、相応しい年齢になれば、周りが連れてくる。
血筋もいいし、何度も武功をたてた英雄さまだ。
好みの相手は選り取りみどりってわけだよね。」
アデルは、ルウエンを黙らせるために、そっと首に手を回して、力を込めた。
「そうだな。確かに、バルティ殿がそのようなご事情なら、迷惑な質問だったかと思う。」
ロウは、頭をさげた。
「と、とんでもありません!
……で、こちらに戻ってから、わたしは何度か文をしたためましたが、まったく返事はありませんでした。
正騎士となって、時間と金銭に余裕ができてからは、使者を頼みました。
ですが、彼女はもうミルラクの村にはいなかったのです。」
「『祝福』を与えたあとは、黙ってその場を去る。」
ロウは、感慨深げに言った。
「伝説通りだ。
で、バルティ。きみはいつ彼女が『銀雷の魔女』だと気がついたのだ?」
「わたしの戦働きが評判になるにつれて、わたしをモデルに詩や芝居が作られるようになりまして。」
バルティは、恥ずかしそうに言った。
「騎士団に入隊する前のわたしの小さな冒険譚も尾ひれをつけて、語られるようになりました。そこで、わたしが旅の途中て、銀雷の魔女からの『祝福』を受けていたのだという話になり。
気がついたのです。
わたしと愛し合ったあの女性が実は、銀雷の魔女、その人だったのではないか、と。」
ロウは、注意深く。その女性の特徴やそぶり、使う魔法なとの情報を収集さようとしたが、たいした成果はなかった。
ぜひ、父伯爵にもお会いしていってください、歓迎会を、と言うバルティを丁重に断り、一行は駐屯所を離れた。
別れ際に、ロウは、なにやら紋章を刷り込んだアミュレットをバルティに渡した。
「これは真祖の印、という。」
ロウは、説明した。
「とんな“貴族”でも一度は言うことをきかせることができる。使い所を間違えるなよ。」
バルティは、拝むようにして、それを受け取った。
宿は昔ながらの、酒場に併設されたこじんまりしたものだった。
食事はいらないというルーデウスとロウランを無理やり、食卓につかせて、ロウはステーキを10枚ばかり注文した。
「誰がそんなに食うんだ。ぼくは入らないぞ。」
ルウエンが抗議した。
「わたしとアデルが食べるし、ラウレスには体を構成するための要素が、必要だ。本当は、骨ごと食わせたいのだが」
そこで気がついたのか、もう一度、店員を呼んで、骨付きステーキを追加注文する。
「まあ、そうしょげるな。」
ロウは、ルウエンの肩を親しげに叩いた。
「ちまたの噂話が本当なのを確かめられたのは、おおきい。行き場所も決まった。ミルラクの村だ。」
「なんで、魔女に『祝福』されると運気がかわるんだ?」
ルウエンは、ぶつぶつと文句を言いながらエールを舐めていた。
生水はとても飲めないこの街のおもな飲料水は、お茶か、弱めの酒しかない。
「気の持ちようだよ。
一人前の男になったという達成感、守るべき相手がいるという高揚感。そういった物があの手の人間を作るんだ。
あとは、伝説だ。たまたまドロシーが選んだ男が後に成功したのか、成功しそうな相手を選んでドロシーが付き合ったのか。」
「そこが気になってる。」
ルウエンは、まだぶつくさ文句を言いながら、ラウレスの小さな口に合うように、ステーキをカットしてやっている。
皿をそっと押し出すと、ラウレスは手づかみで肉へんを次々に口に放りこんだ。
「美味しい。」
天使のような笑みをうかべて、少女の姿をした何者かは、言った。
「お代りをたのんでいい?」
「ロウのおばちゃんが、いるから大丈夫だよ。」
「誰がおばちゃんじゃ。こら!」
「ロウのおばあちゃんがいるから、大丈夫だよ。」
ルーデウスと、ロウランは食餌には手をつけず、赤ワインを飲んでいた。
ルーデウスにとっては、正直味なんてどうでもいい。ただなんとなく、ソレち見た目の近い液体を摂取することで一時的に飢えを忘れるのだ。
「おまえは、ルウエンの主なのか、ルーデウス。」
ロウランは。尋ねた。
旅の途中でも、ルーデウスはルウエンを呼び出して血をすすっていた。
実は今晩もそうしようと思っていたルーデウスは驚いて、ロウランを見つめた。
「こういうことを、隠せると思うな。」
ロウランは笑った。
「確かに美形の少年だし、獲物にはたょうどいいな。だが、吸ってしまったら。とんでもないことになりそうな気がするだけ。」
「実はなっている。」
ルーデウスは、つぶやいた。
「わたしのほうが、ルウエンに従属させられてるみたいだ。」
「血を吸ったのにか!?」
「血を与えてもらったんだ。餌付けされた犬みたいに、わたしの魂はあれに従属させられている。」
ラウレスは二枚目のステーキを手づかみで貪っていた。
カットしてやる必要は無さそうだった。
まあ、礼儀作法以前の問題ではあったが、ラウレスの白い小さな歯は、骨付きステーキを骨ごと、軽々と食いちぎっている。
アデルが真似をしようとしたので、ルウエンは慌てて止めた。
「きみは、人間なんだからナイフと、フォークを使ってくれ!」
「ルウエンは、まともな人間に興味が薄そうだ。」
アデルはアデルで、不満らしい。
「“貴族”の、お姉さんや実は人化した竜のほうが好みなら」
声が小さくなった。
「わたしはとっても困る。」
「やあやあ、旅のお方!!」
明るい声に、一同が振り向くと、トレイに食べ物と飲み物をのせた剣士の女が立っていた。
防具は付けておらず、腰に下げた剣は、北国でよく使われるわずかに反りの入ったものだった。
「同席させてもらえないかな。ぼくは一人旅でね。ひとりでの、夕食っていうのは実に味気ないものなんでねえ。」
「誰かな?」
ロウランが目を細めた。
「ほかの席にいってもらえないか?」
「なにを言ってる。」
剣士はまだ若い。おそらくはやっと成人したくらいの年齢だろう。
だが、『できる』。
「『城』の城代ロウ=リンドの一行だろう?
わたしは、“災厄の女神”百驍将の一人ヘンリエッタ。もし、あなた方がもし、“銀雷の魔女”を探しているのなら、協力したいと思ってね。」
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