第61話 バルティ副団長
予想していたよりも、バディ副団長殿は早く現れた。
どこに出かけていたかは、不明だが、騎士団の駐屯所は、街のハズレにある。
正門からは、ちょうど反対側。
裏門に位置し、いつでも出撃が可能な状態にあるわけだ。
年齢は二十歳を超えたばかり。
16才で出陣した最初の戦で、敵の名だたる騎士を撃ち倒して、捕虜にし、一躍武名をあげた。
この功績で一躍、正騎士に取り立てられたバルディさんは、その後も出る戦ですべて活躍を示して、若くして、騎士団の副団長に取り立てられた。
普通、こんな活躍をしても身分やら、まわりからのやっかみやらで、なかなか出世にはつながらないものなのだが、バルディさんは、なにしろ、この領地を納めるアジャール伯爵の嫡男なのだ。
若き英雄の出現は、伯爵家としても大歓迎、というわけだ、
そして、こいつは、“銀雷の魔女”が「祝福」を与えた最後の人物になる。
ドロシーとあれこれあったやつだと思うと、どうしても点が辛くなってしまうのだが、別にそれはバルティさんが悪いわけではない。
よく鍛えて体つきは、精悍さもあり、野生味のある顔立ちはとんでもなく、モテそうだった。
「遅参いたしました。」
バルティさんは、まっさきにロウ=リンドに挨拶した。
ロウは、鷹揚に頷いた。
「噂は聞いている。初陣ではまだ見習い。鎧も身につけず、相手方の騎士と従者二人を捕虜にしたと。
ぜひ、『城』にきてほしい人材だな。」
「そ、それは‥‥」
バルティさんの頬が赤くなった。
単純に戦士として、『城』に所属してほしい、ということだけではない。自分の血を受けて、ともに永遠の生をえる“貴族”にならないか、との誘いだ。
「こ、光栄なお申し出、ですがわたくしは、領土と伯爵家において果たすべき、責任があります。」
「その答えもよい。」
大物ぶるときのロウは、なかなかカッコよかった。
「街へ出かけていたのに、呼び出してすまなかったな。」
「い、いえ、ほんの私用でございます。逆に、このような場所に閣下たち御一行を長居させてしまい‥‥」
「わたしが目立ちたくないと、グリントに依頼したのだ。彼はよく、気を利かせてくれた。」
「そうでしたか。」
バルティさんは嬉しそうに笑った。
「彼はわたしの幼馴染で一緒に剣を習った中です。残念ながら途中で事故に遭い、視力を失いましたが、わたしが正規の騎士に昇格した際に再生治療を受けさせました。
以後、わたしの副官として支えてくれています。」
バルティさん不在の理由は、彼は結婚してまだ3ヶ月しかたっておらず、新婚の妻は、伯爵領の外から嫁いできた女性らしい。ひとりでは心細いので、いま、バルティさんは、少しでも時間があけば、奥さんの顔を見に帰っているらしい。
「今回は、『銀雷の魔女』のことをお聞きになりたいとか?」
そうだ、とロウは答えた。
わたしたちは訳あって、彼女を探している。おぬしがおそらく最後に『祝福』を受けた人物なのでな。
バルティさんは少し照れたように頭をかいた。
「隠すことではありませんから、正直にお話ししますよ。
ですが、間の抜けたことに、わたしが銀雷の魔女の祝福を受けたのだとわかったのは、郷里に戻ってからなのです。」
バルティさんは、16歳の頃のことを語った。
何がなんでも強くなりたかった少年時代。だが、あまりにも人間の体はもろく、傷つきやすい。
それを覆して、勝利を勝ち取る“運”がどうしても欲しかった。
銀雷の魔女を探す旅は、数ヶ月に及んだらしい。
ついに路銀が底をつき、立ち寄った村で、彼はしばらく冒険者をしていた、という。
さが、季節がかわり、その村が雪に降り込められることがわかって、ついに、銀雷の魔女探しを諦め、帰路についたのだが‥‥。
「遭難しかかったわたしをたすけてくれたのが、村の冒険者ギルドのサブマスターでした。みなは“若おかみ”とか呼んでいました。
美して働き者で、みな、彼女を慕っていました。魔道士なのはわかっていましたが、一度も戦いには出なかった。」
懐かしそうに、バルティさんは語る。
「その晩、わたしは彼女と結ばれました。
正直‥‥伯爵家のことがなければ、そのまま、わたしは彼女と暮らすことを選んだかもしれません。
ですが、わたしも自分の運命から逃げたくはなかった。
翌日、彼女はわたしをふもとの村まで送ってくれました。そこで別れたのです。
そう。
そのとき、わたしはこんなふうに思っていました。
“銀雷の魔女”は見つからなかったけれど、それに勝るものを。
心から愛する女性から受けた『祝福』は、どんなものにも勝るのだと。」
バルティさんは、立ち上がり、部屋をゆっくり歩き回った。
「父にはずいぶん怒られましたが、入隊の日までに帰宅したのでなんとか事なきを得ました。わたしは、見習いとして入隊し、扱かれた。仕えた上司は悪い男ではないが、若者は絞れば絞るほど成長するという信念の持ち主だった。
従者として参加した最初の戦いは、互いに陣を構えてのこう着状態になった。
ついに、痺れをきらした両軍は、一対一の戦いで雌雄を決することにした。
むこうは、マルカスという巨漢。こちらはいま、わたしの副長をしていうゴルドゥという騎士だ。
この当たりの騎士の決闘は、少々かわっている。
一対一と言いながら、従者を二人か三人連れてくる。
補助の武器や盾を取り替えるという名目だが、実際には戦いに参加する。ただし、徒士だし、全身鎧は騎士にしか許されていないから、実際に戦うのは、従者は従者同士ということになる。
わたしの同僚は、一年先輩だったが、後輩いじめしか興味がない男だった。
こいつは、相手の従者に肩口を斬られて、逃げ出すところを真っ二つになった。
いや、相手のマルカスは強かった。
うちのゴルドゥは一撃で打ち倒されてわたしは孤剣一振りで、フルプレートの騎士を含む二人を相手を討ち取るしかなかった。」
「そのときになって、気がついたのだ。体が軽い。まるで羽でも生えているかのようにわたしは、軽々とやつらの攻撃をかわしていた。何百回繰り返したわからない剣の型の意味が突然、パズルは完成するように頭の中に、完成した。
恐れもなかった。わたしは、やつらを切り倒した。」
「敵の騎士を捕虜にして、わたしは初陣で、正騎士に昇格した。」
「ドロシーを迎えに行ってやれなかったんですか。」
ぼくは、口を挟んだ。
気を悪くしたように、バルティさんは、ぼくを、じろりと睨んだ。
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