第20話 非常識なものたちのパーティ
「ナセルさん、いいところに来た。」
翌朝、ナセルとドルクが、部屋を訪ねると、彼らは朝食の最中だった。
とは言っても、ここに待機を命じられてる身である。やたらに外出をせずに、昨夜の残り物を食べていた。
ルーデウス伯爵の姿は見えなかったが、これは当然と言えば当然である。
昼間は、基本眠っているのが貴族の嗜みというものだ。
「誰だ、そいつは?」
そういった意味では、嗜みのかけらもないドルクが尋ねた。
「わたしは、ラウレス、という。」
見たこともない銀髪も美少女は、元気よく答えた。
「このパーティの四人めのメンバーだ。
わたしは、竜人の血をひく亜人の一種で、トカゲに姿をかえることができるんだ。
だから、わたしにとっては、おまえたちは初対面ではない。昨日もトカゲの姿のわたしとは会っているわけだから。」
しゃべるにつれてだんだん棒読みになってくる。
「なんで、トカゲに姿を変えていたんだ。」
ナセルが意地悪く聞いた。
白骨竜を倒したルウエンたちが、連れ帰ったのが背中に翼をもつトカゲだった。
それが一昼夜たったいま、人間の姿になって、実はルウエンたちの仲間だと。
どこまで、言い張れるのかきいてやろうと思ったのである。
「乗車賃がタダになるからです。」
ルウエンが身も蓋もない答えをした。
「もともとおまえたちからは、避難民扱いで運賃は、とっていないが、あらためて運賃を請求してほしいのか?」
「それは、ルーデウス閣下に、請求してください。」
ルウエンが答えた。
「もともと、ぼくはルーデウス閣下の下僕です。ぼくの行動は閣下のご意志のまま。
それにしても、閣下ご自身が避難民なのに、その下僕どもから料金をとるのは、法外だと思われますが。」
「伯爵は、きちんと特別車両の料金を払って、列車を利用いただいている。」
「ならば、もともと一両貸し切りのところに、従者がひとりふたり、追加になったところで、あらためて料金が発生しますか?」
屁理屈だったが、一応は通る。
列車を一両借りきるような富裕層は、旅をするにも身の回りの世話をするものを、何人か引き連れるものだ。
実際、貸切車両はそのような作りになっていたし、そこで、ひとりあたまで個別に料金をとったりは普通、しない。
「ナセル。こいつの舌は剣以上に切れるぞ。」
ドルクは、笑いながら言った。
「あまり、切り結ばんほうがいい。
さて、ルーデウス伯爵。」
バンッ。
クローゼットのドアが開いて、ルーデウスが顔を出した。
出したはいいが、差し込む陽の光に晒された部分が、みるみる火膨れを起こして、腫れ上がり、とけるように滴ると、その奥から新しい組織が膨れ上がる。
それもまた、太陽光に、焼けただれ、落ちるそばから再生していく。
「リビングを汚さないでください、閣下。」
ルウエンが伯爵をクローゼットに押し込めて、ドアを閉じた。
「よ、呼ばれたから動かない体を引きずって出ていったのに……」
クローゼットから聞こえる怨嗟の声は、嗄れて途切れ途切れだ。
「ご領主さまに、おまえたちのことを報告したところ、大変興味をもたれてな。」
ドルクは、クローゼットに向かって言った。
「すぐにでも会いたいとの仰せだったが、これでは無理だな。夕刻、あらためて迎えをよこすので参内せよ。」
「閣下は、陽光への耐性不備以外にも、麻痺や術式妨害など、山ほど弱点をお持ちです。」
ルウエンの言葉は、容赦ない。
「ドルク閣下は、陽の光の元を歩いても支障ないのですか?」
「支障がでるような未熟者は、ここにはいないぞ。」
「だ、そうですよ、閣下。
ここに住むつもりなら、早いところ陽光を克服しませんとね。」
「それにしても、だ。」
ナセルは、言った。
「屍化した竜を両断できる剣士に、残った死骸から竜を蘇えらせる魔道士、それに、屍から蘇った竜に、“貴族”か。
盛り込みすぎのパーティだな。パーティ名はなんとつける?」
「“アデルと愉快な下僕たち”は?」
「この手の馬鹿話は、一度はやらないと気が済まないのかな。」
ルウエンは、うかない顔で言った。
「パーティ名は、ご領主様にお任せします。
でも勘違いしないでくださいね。ぼくらが戦ったのは、図体はでかいけど、ただのぼろぼろの腐肉固まりですし、アデルはそれに、ちょこっと傷をつけただけです。
ぼくはその残骸から竜を再生なんかしてないし、ラウレスは、再生された龍なんかじゃなくてただ、トカゲに変身できるだけの亜人です。しかもトカゲになるのは、無賃乗車をするためです。
パーティリーダーのルーデウス伯爵閣下は、陽光耐性がよわよわの昔タイプの“貴族”ですから、昼間はまともにあるくことさえできません。」
「と、謎の魔道士が言ってたと、ご領主には伝えておく。」
ドルクが笑みを含んでそう言った。
「……ところで、相談があるのですが」
ルウエンは改まった口調で言った。
「なんだ? いまさら、実はククルセウ連合の刺客でしたとか言いだすんじゃないだろうな?」
「冒険者学校に在学中の生徒を、ですか?
失敗は目に見えてますし、その冒険者学校ともども政治的に大問題になりそうですね。」
ではなくて。
と、少年は言った。
「午後から外出してもかまわないでしょうか?
夕暮れまでには戻ります。日用品の買い出しと、ここの冒険者ギルドに顔を出したい。」
「ずいぶんとジジくさい呼び方をするな。」
と、ドルクは笑った。
「いまでは冒険者事務所、という言い方が一般的だぞ。」
照れくさそうに、少年は笑って、田舎ものなので、と言った。
「冒険者事務所は、いくつもあるが、おすすめは“ラザリム&ケルト事務所”だな。本店は別の場所だが。そこの支所だ。精鋭主義で初心者むきではないが」
「ぼくらは、まだ学生でほんの駆け出しなので」
わかった、わかった
と、ベテランの戦士ふたりは、手を振ってルウエンを黙らせた。
「そこらへんは、事務所のものが判断するだろう。場所は暁の三通りだ。」
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