第15話 怪談:いんねん

この村の決まりだ。


この村には、村神様と言うものが祭られている。

とても田舎と言うわけではない。

地名にとりあえず、村と残っている程度の、

とりあえず一見のどかな場所だ。

私は都会に疲れて、この村にやってきた。

都会から高速にも乗らず、車で少しの距離。

まぁ、こういうところも悪くない、

それが私の最初の感想だった。


村役場で、とりあえず手続きをして、

それなりに古い、

それでも大きな家を譲り受けることになった。

都会の住まいはウサギ小屋みたいな部屋だったと、

いまさらながらに思う。

この村では、普通の家であるらしい。


村神様の話は、役場にいた爺様から聞いた。

「氏神様じゃないんですか?」

「いや、村神様だよ。村の神様だよ」

私はきょとんとするしかない。

村の鎮守とかそういうのとも違うようだ。


村神様が何をするのか。

私はよくわからないけれど、

何かの決まり、共同体としての決まり、

そういったものは、村神様の名において、

と、但し書きがしてあるらしい。

神様がそう決めたのだから、守らなくてはいけないらしい。


私のほかに、やはり都会から越してきた若い夫婦がいたのだが、

彼らは村神様と言う存在を馬鹿にしていた。

私は、そういう風習があってもいいと思うのだが。

彼らは、周りが静かであることをいいことに、

なかなかうるさい生活をしだしたらしい。


村神様の名において、静かな生活は皆のものであるべきらしい。

村人達は、村神様の忠実な僕であり、

その決まりを忠実に実行する。

静かな生活を、皆のものにするべく、

…何をしたかは、聞いてはいけない気がした。

若い夫婦のその後は聞いていないし、

村人達はいつもの笑顔で生活している。


「これでいいんですかね?」

私は、この家に住み着いた村神様に聞いてみる。

村神様は曖昧に笑うばかりで、

村神様の生まれた因縁や決まりついては何ひとつ言わなかった。


因縁は、神様が創るものじゃないな。

私はそれだけ理解した。

しかし、居心地のいい村だ。

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