第11話 怪談:かっちゅう

僕たちは、おばけ屋敷をすることになった。

学園祭だと思って欲しい。

学生だ、どうせ子供だましだ。

僕らも子供だけど。

まぁ、子供だましでも、

ひとつくらい、うならせるものがないかと。

そうして、クラスメイトの一人の家が旧家で、

聞くところ、鎧武者の甲冑があると言う。

僕らは、それを着て、脅かそうと言うことになった。


前夜祭の夜、

僕らの中の一人が、旧家の彼の手で甲冑を着た。

さすがに刀を持たせるわけにはいかないので、

木刀で我慢してくれと、

それから、脅かすだけだぞと。

転ぶんじゃないぞと。

甲冑の彼も、旧家の彼も、僕らも、

げらげら笑って、おばけ屋敷の成功を確信していた。


そして、おばけ屋敷は大盛況になった。

チープな道具の中、甲冑の武者は、

がんばってくれたらしく、

怖がらせるし、リピーターの学生は来るし、

僕らとしても、やった!と言うところだ。


そして後夜祭。

花火なんか上がったりして、

僕らの青春には、こうしてひとつページが加わった。

感慨にふけって、後片付け。

夜もだいぶふけたころだ。


「そういえば、あいつ、前夜祭から甲冑脱いだか?」

誰かが何の気なしに、冗談でつぶやいた。

僕らははっとした。

彼が、甲冑を着て、そこにたたずんでいるけれど、

僕らは何か、彼が得体の知れないものに感じた。


「何見てるんだよ、ほら、脱げばいいんだろー」

兜に彼が手をかけ、

その手は、兜を持ったまま、ぐりんと頭を回転させる。

何か、ぼきばきっと音がして、

首が落ちて、ゴロンと転がる。


僕のほうに転がってきた兜と首。

そして、首のない血まみれの甲冑が、

ガチャリと歩いてきて、

木刀を持っていたはずのその手には、鈍く光る日本刀が。


悲鳴も上がらない。

僕らは逃げ、ようとして、

どうやら小便漏らして気絶したらしい。


そして朝。

後片付けの終わっていない教室で僕らは目を覚ました。

ひどい状態の後始末を、僕らはもくもくとした。

誰も、旧家の彼と、甲冑の彼には触れなかったし、

誰も、彼らの名前を覚えていなかった。


甲冑はなくなって、

首もなくなって、

彼らもいなくなって、

あとには、血だまりが残った。

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