第8話 怪談:へや

だれかいませんか?


私は部屋にいる。

ごく当たり前の部屋のはずだ。

あなたの部屋を思い描いてもいい。

少し散らかっていれば、間違いない。

収納スペースがあり、窓があると思って欲しい。

洋室でも和室でもかまわない。


私の部屋には、私以外誰も入ってこない。

とりあえず私だけの部屋だ。

ドアは普通にあると思って欲しい。

とりあえず、誰も入れていない。

誰も関わらないゆえの、

安心感と、同時に孤独。

胎内回帰の安堵は、遠いものだし、

かといって、部屋に帰ってくるしかないのである。

わりとさびしい部屋だ。


ある日。

私の部屋の飾りばかりになっている電話が鳴った。

私はそれをとらない。

電話はコールを3回ほどして、切れた。

もう一度繰り返す。

飾りの電話だ。

線はつながっていないし、電源も入っていない。

置物が鳴ったと思って欲しい。


私はそれにびっくりをしたけれど、

恐怖と言うのとはまた違っていた。

怖がって逃げたいとは思わなかったし、

この部屋しか私の居場所はないのだ。

だから、どんなに驚くことがあっても、いるしかない。


はたして。

窓が風もないのに鋭い音だけ立てたり、

壁がどんどんと叩かれる音がしたり、

様々の現象が起きるようになる。

そして置物の電話は、毎日決まった時間に、3回コールする。


人形が首をくるくるさせて笑ったり、

電気スタンドが飛んでいるように見えたり、

さて、元に戻すのが大変だと思っているのに、

元の位置に戻っていたり。

ああ、これが発狂と言うことなのかと私は思う。

ただ、狂うというのは、もっと熱のこもったものだと思っていた。


そして、私は知りたくなった。

私は本当に普通なのか。

この部屋に起きていることを誰かに聞いてもらいたくなった。


いつもの時間。

置物の電話がコール。

2回目で私は受話器をとる。


おばけでも幽霊でも何でもかまいません、

だれかきいてください。

私は本当にいるのですか?


……ああ、この部屋が聞いてくれるならいいや。

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