第7話 怪談:すうじ
私の相手は数字だ。
無意味な数字の羅列が、
雨のように降っている。
パソコンの画面をスクロールさせているだけなのだが、
意味はあるのだが、
私には、無意味にしか思えない。
私は日々、この数字と戦っている。
この桁をひとつ間違えるだけで大変なのだ。
数字を間違えると、それだけで大変なのだ。
私は数字が怖かった。
意味のないもののような、
無機質な群れが怖かった。
本屋で、気まぐれに手にとった本に、
数字には意味があると言うものがあった。
私は購入し、読んだ。
数字に倦み疲れていた私に、言葉は優しくしみこむ。
言葉は数字と、秘めた意味で結婚する。
数字には意味がある。
一つ一つにデジタルを越えて、
霊的なものとも思われるような意味がある。
ああ、言霊同様、数霊と言うのもきっとあるに違いない。
私はすがすがしい気分になった。
無機質な群れに、かたちが備わった気がして、
私と同じ物に、数字がなった気がした。
次の日も。
私は数字と戦った。
雨のような数字のスクロール。
私はそれを追う。
そして、気がつく。
数字はいつも語りかけていたこと。
ああ、いまや数字が微笑んでいるのすら見える。
数字は生きている。
この中で生きている。
呼吸をして、腹をすかしている。
私は数字をさらに打ち込んで、
数字と交流する。
私は数字と会話が出来る。
数字はずっと、私と話したがっていた。
数字が歌っている。
きっと誰にも聞こえない。
数式なんかよりもずっと原始的な、数字達。
禁欲的で、それでも、獣のような数字達。
私は、数字達に自己紹介をする。
私を構築している数字達を、
雨霰と打ち込み、打ち込み、打ち込み。
スクロールする数字達は、喜んで歌うように数字を重ねる。
私の数字が、彼らの数字と、
画面の中で混じって、踊って、
狂ったようなサバトが開かれる。
悪魔の数字も、神の数字も、
同じように意味を持ちながら意味を超えて。
ああ、私は彼らに食べられている。
私は数字に還元されている。
私の全てが、数字になる。
そして、ゼロになった。
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