第5話 怪談:むし
虫は陰の気を好む。
私の部屋には、時々虫がやってくる。
掃除しても、整頓しても、
何かしらの虫がいる。
家が古いわけでなく、狭いわけでもない。
ただ、いつも虫がいる。
「虫は陰の気を好む」
じいさまが言ってた。
陰気な部屋にならないように、私もがんばった。
けれどいつも何かしらの虫がいて、
私はそれを追い出すはめになる。
机に向かって何かをしていると、
ノートに蜘蛛がいる。
そんなのが当たり前になった。
ダンゴムシなんかはもう、ほっといている。
ぞわぞわするほどいるわけでないが、
追い出していたらキリがない。
ハエやカはちょっと困るが、
どうも私に害をなすわけではないらしい。
羽音がうるさいなぁとは思う。
私は次第に、虫たちのいる部屋に慣れてきた。
次第に芋虫や毛虫、蛾なんかも増えた。
何でこんなに集まるんだろうなと私は思うが、
私の中で何かが「今は考えるな」と言っている。
そういうものなのだろうと私は納得する。
私の中で、何かが笑った気がした。
疑問が疑問でなくなると、それなりに心が落ち着く。
虫のいる部屋。
私はそこで日常を過ごす。
いつしかどこを見ても虫がいるようになった。
虫のいない空間がさびしく感じられ、
外にいても虫を探すようになった。
ある夜。
私が寝ていると、
虫たちの羽音が、うごめく音が、
意味を持って聞こえるようになった。
曰く、
「むしぬしさま。むしぬしさま」
むしぬしとはなんだろう。
漢字にして「虫主」だろうか。
私は考える。
私の中で何かが、肯定をした。
ああよかった、合ってたんだと私は思う。
「むしぬしさま」
「むしぬしさま」
私がむしぬしなのか?
だから虫が寄ってきていたのか?
しあわせなものだな。
私の中で何かが言った。
だから、わたしはここにいる。
私の中で何かが言った。
「君はとてもおいしかった。ごちそうさま」
私の背中が裂ける。
なにかが、ぞるりと、ぬけて、
「むしぬしさま」
「むしぬしさま」
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