第3話 怪談:でんのう

ぼくはここにいるよ。


とあるネットゲームに、妙な噂がある。

それは、ネットゲーム廃人が作り出したという、

彼の世界に、

アクセスして帰れなくなると言う噂だ。

無論、ネットに広がる噂に過ぎない。

ただ、そのネットゲームユーザーの間では、

彼の世界を探してやると言うものもいて、

それなりの小さなイベントになっている。


彼の世界はどこにある。

どうすればアクセスできる。

ここにも、彼の世界を探すユーザーのアバターがいる。

彼はこのネットゲームを歩き回って噂をしらみつぶしに当たった。

どれもこれもガセではあった。

けれど、彼の世界への憧れを持っているのは、

自分だけじゃないと彼らは思うのだった。


ネットは広大で、かつ狭い。

ネットゲームユーザーはそのことをよく知っている。

だから、そのほころびの彼の世界を探してやまない。

そこは彼の理想郷だと聞くし、

ネットゲームの全て、仮想空間の理想が詰まっていると言う。

そこに行って帰れなくなるならば、本望だ。

重度のネットゲームユーザーが、情報を交換し、

みんなで彼の世界を探す。


ある日のこと。

彼ら重度のネットゲームユーザーに、

ネットゲーム内でのメッセージが届いた。

「ぼくはここにいるよ」

その言葉の意味を、彼らは深読みしまくった。

誰かのいたずらという可能性を排除しまくって、

とにかくドラマチックな可能性を負荷させたがった。


いわく、電子の幽霊。

いわく、助けてのメッセージ。

様々の可能性がネットゲームにあらわれては消えた。


そもそも。

ぼくらは、ここにいるのか。

それを誰かが言い出した。

間があり、

ぼくらは、ここにいる。

このネットゲーム、いや、この世界に。

彼らの意見はひとつ。

ぼくらはここにいる。

そして…きっと、ぼくらはすでに彼の世界にいるのかもしれない。


つきっぱなしのパソコンの前、

すでに朽ち果てた遺体が、キーボードに手をかけている。

きっと幸せそうな顔をしている。


ぼくは、ぼくらはここにいる。

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