第2話 怪談:くるま
真夜中のことである。
ある峠を車が走っている。
とりあえず、峠を攻めるような暴走行為ではない。
ごく普通の男が二人、車に乗って、会話をしている。
「なぁ、この峠、出るんだってな」
「出るって、幽霊か?」
「出るって言ったらそれだろうよ」
助手席の赤いシャツの男が笑い、
運転している黒いポロシャツの男は前を見たまま苦笑い。
心の中で(運転する身にもなれ)と、思うが、
思ったところでどうしたわけでもない。
「ラジオつけてくれ、なんか静か過ぎるな」
運転している男が言って、
助手席の男がラジオをいじるが、
見事に雑音しか再生されない。
「壊れたか?」
「どうした?」
運転席の男が、ちょっとだけ前から視線をはずした。
そのとき、
「おい!前!」
助手席の男が、叫んだ。
「なっ!うわっ!」
運転席の男が、気がついた。
目の前に白い人影。
ブレーキを踏んだが、鈍い音を立てて、
おそらくそれを、彼らははねた。
彼らは車をとめて、
あたりを見る。
白い人影は、すぐに見つけた。
白い服を着た細身の女だ。
はねとばされて、ひどい有様で、明らかに死んでいる。
「おい、どうするよ」
「轢き逃げって、わからなきゃいいんだよな」
「おい、何考えてるんだよ」
「後ろに積んで、どこかわからないように捨てようぜ」
「おまえ…」
彼らはそれ以上しゃべることもなく、トランクに女の死体を積んだ。
再び車は走り出す。
女の死体を積んで。
雑音のラジオがほおっておかれている。
「なぁ」
「うん」
「どこに捨てる?」
「上のほうに湖あっただろう、そこに」
『また、わたしをすてにいくのね』
ラジオから突然、音声。
驚愕し、運転をあやまった車は、
ブレーキがまったく利かせずに、
ガードレールを突き破るほどのスピードで…
真夜中のことである。
峠を車が走っている。
ごく普通の男二人が乗っていて、
幽霊が出ると話をしている。
ラジオは雑音で、やがて、ヘッドライトに照らされる白い人影が…
いつまでも繰り返される、彼らの真夜中である。
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