【運命の選択3】
醜い欲望が渦巻く謁見の間にて、シオンは決断する事になった。
『この国を終わらせる』【表】
『この国を支配する』 【裏】
『闇堕ち』 ←←←
シオンは『選択』した。
こんなクズばかりの国なら、全てを壊せばいいじゃない?
どうして今まで従っていたのかしら?
バカみたい。こんなクズ共の為に苦労して国を護っていたのがね。
私はこんなクズ共を肥やせる為に聖女になり、倒れるまで国の為に尽くしていた訳じゃないわ!
シオンの中でブチッと何かが切れる音がした。
大司教が連行され、公爵も娘の遺体とともに一緒に出ていくと、ルイン王子が白々しくシオンに言ってきた。
「すまなかったねシオン。大司教に騙されていたんだ。まさかあんな危険な事をしていたなんて。これからも王国の為に頑張ってくれ」
「嫌です。こんな国、さっさと滅べばいいでしょう?」
シオンが何を言っているのか理解できず、少し間があってから、えっ?と声が上がった。
「今、なんて言ったんだ?」
「嫌ですと申し上げました。もう無能な王族や貴族に仕えるのは終わりにします」
!?
「ちょ、ちょっと待ってくれ!怒っているのはわかるが、何を言っているのか、わかっているのか!?」
国王もマズイと思い口を挟んだ。
「そ、そうだ。筆頭聖女であるシオンには迷惑を掛けた。前から言っておった聖女達の待遇を良くすると約束する。だから落ち着くのだ」
宰相も国王の言葉に同意して同じような事を言ったが、シオンは手をかざすと結界を張った。
「これはなんのマネだっ!」
謁見の間の半分に結界を張り、国王、王子、宰相を閉じ込めたのだ。
「もう、無能なクズは要らないわ。死ね」
シオンは坦々と感情のない声で言った。
右手を開いて閉じると結界が縮まり王子達を圧迫した。
「ギャッ、グガガガッ!?」
「だ、だすけてぐれっ!!!」
必死に命乞いするが、もうシオンには感情が無いように、その瞳には何も映していなかった。
すぐに、水が飛び散るような音が聞こえ、何も聞こえなくなった。
「うふふっ、さぁ!ここから始めましょう!聖女が頂点に立つ!新しき国を!!!」
シオンは国の結界を解いた。
結界を解いたといってもすぐにどうこうなるものではないが、シオンの力を吸い取っていた【枷】が無くなり、シオンは十全に自分の力を振るえるようになったのだった。
「身体が軽くなったわ。ちょっと使ってみようかしら?」
シオンは指をパチンッと鳴らすとその場から消えた。
転移魔法である。
シオンは一瞬で教会に戻ってきたのだ。
教会で忙しく働いている聖女達は突然、現れたシオンに驚いた。
「みんな、聞いて欲しい事があるの」
働いている聖女達の仕事を中断させて、シオンは聖女達を集めた。
「おいっ!何を勝手な事をしている!『お客様』が待っているんだぞ!」
上から目線で男性の司教が文句を言ってきた。
「黙れ!文句があるなら貴様が仕事をしろっ!」
なっ!?
シオンの反論に司教は言葉に詰まった。
シオンは魔法で司教を追い出して、この場には聖女達しかいない。
「みんな、私が言いたいのはこのことよ。力も無いのに私達に命令ばかりして、自分は働かない。そんな奴らの為に働いて嬉しいのかしら?」
「で、でも、それが私達の仕事でしょう?」
「どうして?ろくに仕事もしない司教達は豪勢な食事をしているのに、私達は質素な食事しか与えられないのに?」
「そ、それは……………」
他の聖女達も不満があったが、声を出せずにいたのだ。
「実は私は───」
シオンは王城での出来事を話した。
「嘘でしょっ!?」
頑張っていたシオンを差し置いて、権力のある公爵令嬢を筆頭聖女にしようとした事。身勝手な理由で婚約破棄された事を話した。
「私はもう我慢する事を止めたわ。これからは私が聖女達の待遇を良くする為に立ち上がる!みんなにも付いてきて欲しいの」
………………しばらく沈黙が続いたが、1人の聖女がシオンに付いていくと言うと、他の聖女達も後に続いた。
「ありがとう。それじゃ、始めましょう!」
シオンは聖女達全員を王城に転移させ。
そして、まず王都に誰も出入り出来ない結界を張ったのだった。
まだ昼間ともあり、急にできた結界と言う壁に混乱が起きた。すぐに王城に異変の報告が行ったが、すでに王城はシオンの手に落ちていた。
そして、王都にシオンの声が響き渡った。
『私は筆頭聖女シオン、こんにちまで聖女達は不当な扱いを受けてきた。何度も国王や宰相に訴えたが聞き届けて貰えなかった。故に、今日から聖女達が国を支配する!文句のある者は、私の張った結界を壊してから文句をいえ。どうして力のある私が無能で無力な者の命令を聞かなければならないのだ?国とは力ある者が率いるのが弱肉強食の常である。今まで我々受けた苦しみを味わうがいい』
シオンの声が聞こえなくなると、王都は───そんなにパニックにならなかった。
民衆はまだ理解出来ていなかったのだ。
これから起きる事に。
それは、段々と迫ってきた。
王都から出られないと言うことは、物資が入って来ないと言うこと。数日経って、ようやく王都に住む民衆は思い知ったのだった。
食料がなく餓えていった。
多くの民衆が王城に押しかけたが、誰もシオンの結界を壊せなかった。
シオンも鬼ではなく、声明を出して、すぐに頭を下げにきた少ない善良な民を王城に入れて保護した。
その後の民は決して入れなかった。
一週間もすると、食料を巡って暴動が起こり、火事まで起きたが、シオンの結界は解かれなかった。
そんな時、シオンからまた声明があった。
『無力な者達よ。聖女へ服従せよ。聖女の言う事を拒否する事なく、絶対の忠誠を捧げるがよい。そうすれば生きる事を赦してやる。もし、聖女に服従するのが嫌ならここから出ていくがいい。王都の入口の結界を1日だけ解除しよう』
シオンの言葉に王都の殆どの民衆は逃げ出した。
当然だ。
ここにいてはまた、餓死させられるかも知れないからだ。大勢の人間が列を成して街道を歩き出した。
そこに、悲鳴が響いた。
魔物だ。
シオンは国の結界を解いていた。ここ一週間で、多くの魔物が現れるようになっていたのだ。
空腹でろくに武器もな民は、魔物に喰い殺される事になった。王都に戻ろうにも、街から出る事は出来ても、中に入る事は出来なかった。
シオンは少なくなった王都の民に、炊出しを行い、聖女の慈悲だと民に言い聞かせた。
シオンの転移魔法で、食料の買い出しも他の場所から一瞬で行えたのだ。幸い、王城には不正に蓄財された金銀財宝が山の様にあったので、当面は大丈夫であった。
そして、この街を結界で閉じ込める手法は、国内の主要な大きな街でも行われた。
軒並み、王都と同じような状態が起こった。
逃げ出した民達が、魔物に喰い殺される所を、まだ外に出ず、街の入口で一部始終見ていた民や貴族達はシオンに服従する事を誓った。
シオンは国内がほぼ沈静化した事を確認すると、結界を張り直した。
国政も見直し、能力のある平民を積極的に採用し、国王時代にいた無能な官僚達を追い出した。
シオンは敵対する者には容赦がなかったが、基本的に善政を敷いた。
今まで王都にしか居なかった聖女達を、国内の各地に派遣して、病気や怪我人を治療させた。
聖女達のクーデターで、恐れられる存在となった聖女だったが、聖女を怒らせなければありがたい存在だと認識し、敬うようになった。
「さて、これで表向き聖女の株が上がって反乱分子も少なくなったわね」
シオンはテーブルの上に広げられた周辺国の地図を見ながら呟いた。
「うふふっ、次は隣国ね。魔物を隣国に向かうよう結界の力を調整して、追い立てましょう。隣国の国内がめちゃくちゃになった所で、私が力を貸して…………アハハハッ!」
楽しいわ!
全ての決定権が私にある!
魔物を利用して隣国の力を削ぐ事も出来るし、人々の身体を治癒して民意を得る事も容易い。
どうして他の聖女の皆さんは気付かないのでしょうか?早く目を覚ましなさい!我々こそが支配者だと言う事に。
「私はこの力を使って思いのままに生きていくわ」
シオンは不敵に嗤うと、チェスの駒を地図の上に置きながら、今後の計画を思い描いていくのだった。
闇堕ちエンド
聖女は支配する!あら?どうして他の聖女の皆さんは気付かないのでしょうか?早く目を覚ましなさい!我々こそが支配者だと言う事に naturalsoft @naturalsoft
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