【運命の選択2】

醜い欲望が渦巻く謁見の間にて、シオンは決断する事になった。





『この国を終わらせる』【表】


『この国を支配する』 【裏】←←←


『???』




シオンは『選択』した。



そうよ。どうして私が身を粉にして国中に結界を張っていたと思っているの?


こいつらは何をしていた?

どうして私達聖女のみ働かなければならない?


どうして?

どうして?

ドウシテ?

ドウシテ?


ドーーーシテ????



何かがシオンの中で切れる音がした。


大司教が連行され、公爵も娘の遺体とともに一緒に出ていくと、ルイン王子が白々しくシオンに言ってきた。


「すまなかったねシオン。大司教に騙されていたんだ。まさかあんな危険な事をしていたなんて。これからも王国の為に頑張ってくれ」


「嫌です。何で強い力を持つ私が頑張らないといけないのですか?」



シオンが何を言っているのか理解できず、少し間があってから、えっ?と声が上がった。


「今、なんて言ったんだい?」

「嫌ですと申し上げました。もう無能な王族や貴族に仕えるのは終わりにします」


!?


「ちょ、ちょっと待ってくれ!怒っているのはわかるが、何を言っているのかわかっているのか!?」


国王もマズイと思い口を挟んだ。


「そ、そうだ。筆頭聖女であるシオンには迷惑を掛けた。前から言っておった聖女達の待遇を良くすると約束する。だから落ち着くのだ」


宰相も国王の言葉に同意して同じような事を言ったが、シオンは手をかざすと結界を張った。


「これはなんのマネだっ!」


謁見の間の半分に結界を張り、国王、王子、宰相を閉じ込めたのだ。


「本当にもっと早く気付くべきでした。これが幼い頃から続けられてきた【洗脳】だったのかも知れませんね。我々聖女達が貴女達にこき使われる消耗品として存在していた事に。普通に考えるとあり得ないのですよ。聖女の方が強い力を持っているのだから、言いなりなる理由がありません」


シオンは結界を叩きながら叫ぶ王子達に、笑顔で答えた。


「うふふふっ、これからは私がオラクル聖王国を支配しますわ。無能な王族よりもまともに統治してみせます」


!?


「ふざけるなっ!王はワシじゃ!!!」


シオンはそう叫ぶ国王をゲスを見るような、凍りつく眼で見た。


「ならば貴方は国の為に何をしていましたか?」


シオンの問に動揺しながら国王は答えた。


「そ、そんなもの、日々国の為に働いていたに決まっておろうが!」


深いため息を付きながら言った。


「はぁ~、だから国の為に何をしたのか聞いているのです。この無能がっ!」


シオンの叱責に腰を抜かした。


「ただ税を私利私欲に使って遊んでいるだけではありませんか?他国の有力者の病気などの治療に多額の寄付金を献金させているのに、聖女達には平民より貧しい食事しか用意させなかった。なぜ私達が貴方に従わないといけないのですか?」


「そ、それは政治的駆け引きであって、決して私利私欲の為では…………」


ゴリョゴニョと言い訳する国王を無視してシオンは背を向けた。


「少しでてきます。数時間後には戻ってきますが───それまでに『決めて』おいて下さいね」



「待てっ!何を決めておくと言うのだ!?」


腰を抜かしている国王の代わりに王子が叫んだ。


「それはもちろん、【死】か【服従】ですよ」


!?


「き、貴様、正気か!?」

「無能なバカ、まだ気づかないの?私が解かないとその結界から出られないのよ?水も食料もなしに何日生きられるかしらね?」


王子達はそう言われて初めて気付いて青くなった。


「こんな事をして無事でいられると思っているのか!すぐに騎士達がお前を反逆罪で討伐するだろう!」


「くくっ、あっーーーーはははははははっ!!!バカだとは思っていたけど、正真正銘のバカねっ!私には、剣も魔法も通じないのにどうやって討伐するのよ!」



今までのシオンと別人のように高笑いする姿を見て王子もじわりと冷や汗が出てきた。


ここまで黙っていた宰相が初めて口を挟んだ。



「聖女シオン、貴方は何をなさろうとしているのですか?ここまでして聖女達の待遇改善だけではないでしょう?」


「だから言っているじゃない。無能な王の代わりに私がこの国を支配するのよ」


「どうやってですか?貴族達が貴方に従うとは思いませんが………」


冷静な宰相をジッと見てからシオンは言った。


「今の貴方達と同じ事を国全体で行うのよ。私に従わない貴族の領地は結界を解くの。すぐに魔物で溢れ返るでしょう。逆に町全体に結界を張って外に出られなくするのも面白いわね。食べるものがなく、町全体を餓死させれば、他の貴族達も従うでしょう?」


ガタガタッ

ガタガタッ


シオンの言った事が実行された時を想像し、王子はガタガタッと身体を震わせ、宰相も全身から冷や汗が止まらなかった。


「もう1度言って上げる。どうしてこれだけの力を持つ私が貴方達に従わないといけないの?」


何も反論できず、王子達はシオンが出ていく背中を見守るしか出来なかった。



扉を出ると外で待っていた近衛兵に、シオンは大事な会議があるのでしばらく扉を開けないよう伝えると、シオンは急いで教会へ戻った。


近衛兵は公爵令嬢が亡くなったので、それを話し合う会議だと思い、シオンの言葉を信じて1時間以上は火急の用件以外は扉を開けないように務めた。


この事によりシオンは時間を稼ぐ事に成功したのだった。


シオンは急いで教会に戻ると大司教が公爵令嬢の殺人犯として捕まった事を大声で伝え、他の司教達にも尋問の兵士がやってくると言った。


聖女のいる教会は『神殿』の様な作りの大きな建物で、多くの聖女と司教達が暮らしており、中の大聖堂には毎日多くの民衆が祈りと治療を受けに来ている場所だった。


そんな所で筆頭聖女のシオンが慌てて大司教が捕まった事を叫ぶものだから、教会はパニックになった。


司教達は聖女のみ働かせて、自分達は自堕落に暮らしていたのだ。叩けばホコリが出まくるので、没収される前に、慌てて部屋の金銀をかき集めて逃げ出した。


すぐに今日の治療や祈りは中止となり、大聖堂を締めたのだった。シオンは事情を話すと聖女達を集めた。


「みんな、私はこの国を見限りました。我々を消耗品の道具としてしか見ていない、王族や貴族に仕えるのを止めて私達で、この国をより良いものにしていきましょう!」


「でも、私達には政治的な事はわからないわよ?」


「それは大丈夫。しばらくは私の力で何とかするから、みんなは私を信じて付いてきて欲しいの。私が王妃教育で学んだ事をみんなにも学んで欲しいし、今よりもっと、より良い環境で暮らして欲しいと思っているのよ」


元々、規格外の力を持っていたシオンは、教会で酷使されて、倒れそうな聖女達をフォローしつつ助けていたので聖女達の信用が厚かった。


今よりもっと暮らしが良くなるならと、聖女達は全員シオンに着いて行くことを決めた。


それからシオンは聖女達全員を連れて王城へと戻ってきた。


「さて、覚悟は決まりましたか?」


真っ先に服従を誓ったのは宰相だった。宰相も私腹を肥やす腹黒い人物ではあるが、政治的手腕はそれなりに持つ人物であった。


国王と王子は取り敢えず今だけ服従したと言って秘密裏に、シオンを毒殺などすれば良いと話し合って、渋々服従すると言ったのだったが──



そんな事はお見通しのシオンは、命を助けた事のある兵士達に命じて国王と王子を、城の裏にある罪を犯した王族が幽閉される塔に連行したのだった。


宰相に命じて、オラクル聖王国の貴族当主達を国王の王命として緊急招集の命令を出して王城へ呼んだ。


辺境の地にいる貴族が来るまでには1ヶ月は掛かる。その間にシオンは王都を掌握した。無能な国王に代わり国を守る自分が『女王』となって新しいオラクル聖王国を統治すると声明をだした。


元々、教会で治療に当っていたシオンは市民に顔を知られており、筆頭聖女として人気があった。

国に結界を張っているのもシオンなので、民に取っては高い税を取るだけの王族や貴族より、受けが良かったので、すんなり受け入れられた。


王城へ住居を移すと、シオンは聖女達に3食の食事と一週間の休息を与えた。


ただでさえ限界まで働いていた聖女達は栄養のある食事にタップリと休息を貰えた事で、万全な体調となり一気に力を増したのだった。



王都にいた貴族達は、聖女に逆らうと二度と治療してやらないと言って従わせた。


更にシオンは国中の結界を弱める事にした。

魔物が各地で発生すれば、王命の緊急招集がこの魔物対策の為ではと現実味を帯びるからだ。


そして、オラクル聖王国中の貴族が集まった運命の日───


謁見の間には、玉座に座るシオンの側に、他の聖女達も勢揃いしていた。



ざわざわ

ざわざわ


「皆様、お集まり頂きありがとうございます。本日集まって頂いたのは、国王の交代を皆様にお伝えするためです」


ざわめきが大きくなると、シオンは会場にいる貴族達を結界に閉じ込めた。


「どういうつもりだ!!!」


多くの貴族達から声が飛ぶが、シオンは結界の大きさを上から下に下げて、貴族達に土下座の格好をさせた。


「煩いわね。黙りなさい」


大きな声ではないが、シオンの声は謁見の間に良く響いた。


「単刀直入に言うわ。私が新しいオラクル聖王国の【女王】となったの。理由は私を初め、他の聖女達もこの国を見限ったから。わかるわよね?私達を消耗品の様に扱ってきた貴方達なら」


上からの圧力に頭を上げる事も出来ない貴族の当主達は、何かとんでもない事が起きたのだと理解した。



『聖女達のクーデター』



謁見の間にいた貴族達は全身から冷や汗を流した。

我々は怒らせてはいけない人物を怒らせたのだと理解した。



「なぜ力のある聖女が、無能な…………失礼、無力な王族や貴族に従わないといけないのか?この国を守っていたのは、強力な力を持つ聖女、体調を崩した民を癒やしていたのも聖女。全てが聖女の力で成り立っているこの国で、表明上は敬う聖女達を酷使して、使い潰してきた王族や貴族の為に力を使う事は止めることにしたのです」



シオンは一呼吸置いて言った。


「これからは我々聖女が国を動かします。別に不服があるなら服従しなくてもいいですよ?」


???


シオンの言葉に疑問を持つが───


「服従しない貴族には、仕方がないので、その貴族の領地の結界を解きます。聖女の加護のない領地で頑張って下さい♪」


!?


それはもう脅迫ではないかっ!


シオンにそう言われて、貴族達もようやく理解した。なぜもっと聖女達を優遇しなかったのかと。



シオンは貴族達抑えていた結界を解くと各貴族達に、国王が代わった事を領地の民に伝えるよう厳命した。


こうして、聖女が国を動かす地盤ができたのだった




あれからオラクル聖王国では、少し混乱もありましたが、すぐに正常に戻りました。

シオンは無能な官僚の貴族を追出し、民間から能力があり、やる気のある官僚を多く採用した事により、長年の横領を防止し、よりクリーンで民の為になる政策を実行する事で、王国はより発展していきました。


無論、政策の中で失策もありましたが、シオン初め、聖女達は贅沢をする気はなく、税収のほとんどを国の政策に廻していたので、すぐに問題は解決しました。聖女達は満足のいく食事と、新しく清潔なローブ(洋服)と、たまに装飾品を買う程度しかしなかったのです。


「もっと贅沢してもいいのよ?」

「いいえ、今の暮らしで十分に満足していますから」


そう言って聖女達はシオンに笑いながら言いました。


そして、一部の貴族が反乱を起こした事もありましたが、シオンの結界で、領地から出る事もできず、未然に鎮圧されて終わりました。


この事から筆頭聖女シオンは、国中の好きな場所の結界を解除したり、張ったりできると理解して、敵に廻るより、取り入った方が賢明だと貴族の間で共有される事になったのです。


他の聖女達も政治や一般教養を身に着けて、忙しい日々を送ったが、待遇が良くなった事で活き活きと働いている。


「本当になぜ気づかなかったのかしらね…………」



国防の全てを聖女1人が担っている事がおかしいのよ。1人で国を守れるなら、その人物が国を治めるべきよね?


どうして、無能な国王や貴族達の為にこき使われなければならないのよ。



『他の国』(小説)でも、王子に婚約破棄されて国外追放されたり、処刑されたりしているらしいけど、国を覆う結界が張れるなら自分を守る為に張れば、襲われる心配もないでしょうに。



どうして他の聖女の皆さんは気付かないのでしょうか?早く目を覚ましなさい!我々こそが【支配者】だと言う事に。



「うふふっ、まさか結界にこんな使い方があったなんてね~」


自分の細胞に結界を張ったら老化が止まり、不老になった。不死ではないが、常に自分の周りに結界を張り物理無効、毒殺でも食事の時に常に回復魔法を使い続けていれば毒無効。


病気もこの世界の回復魔法なら治せる。


「この使い方は秘密にしておきましょう」



こうしてシオンは数百年もの間、オラクル聖王国に君臨し、天使や女神、聖母などなど、多くの肩書で呼ばれるようになる。



後に、シオンは周辺国を平和的に併合していき、大陸統一の偉業を成し遂げて、永遠に語り継がれる存在となるのだった。



【裏】支配者エンド


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