聖女は支配する!あら?どうして他の聖女の皆さんは気付かないのでしょうか?早く目を覚ましなさい!我々こそが支配者だと言う事に

naturalsoft

【運命の選択1】

私はオラクル聖王国で筆頭『聖女』をしているシオンと申します。

このオラクル聖王国には聖女の素質がある子供を集めて育成する機関があり、それは【聖教会】と言います。


我々は幼い頃から朝から夜遅くまで世のため人の為に働いているのです。


私には、たまたま高い素質があり今では筆頭聖女として、聖王国全体に【結界】を張る任務を賜わりました。これは魔力を多く使うので当代の1番力の強い聖女が行います。


特別な魔導具に魔力を捧ぐため、

複数の聖女で行おうとしても、真水に血が一滴入るように、魔力が混ざって濁るようで、この魔導具は結界を展開できないみたいなのです。故に、1人で魔力を注がなければなりません。


しかし、最近は聖女の仕事に疑問を持つようになったのです。


筆頭聖女となった私には、この国の王子様と婚約する権利が与えられました。国中の女の子達が憧れる立場ではありますが、少し偉い立場になって見えてきたものがあるのです。


「ルイン王子、前にお伝えした聖女達の待遇改善について各貴族達に通達して対応して頂けたでしょうか?」


「……………シオンか。聖女の待遇改善など無用だ!ただ怠けたいだけではないか?」


!?


「そんな!私も含め、朝から夜遅くまで休みなく働いているのですよ!せめて週に1度ほどは休みを頂きたいという、ささやかな要求がなぜダメなのですか!?」


力の弱い聖女候補達は、どんどん体調を崩し倒れて動けなくなっているのです。それなのに聖教会は我々を消耗品と思っているのか、最近は昔より酷い扱いになってきているのです。


「それが聖女の役割であろうが!行く当てもない孤児であるお前達に、衣食住を与えて仕事までやっているんだ!感謝してもっと働け!またどこかで野垂れ死にしたいのか!」


「確かに飢えから救って頂いた事は感謝しております。しかし、我々聖女の食事は小さなパンと具の無いスープばかりです。もう少し食事の改善をして頂けないでしょうか?」


聖女の激務に対して栄養も少ないのです。

せめてお腹一杯食べられれば、体調も崩し難くなるのですが…………



「贅沢を言うな!聖女ちは清貧を尊ぶものだ。贅沢な肉など食べれば力が衰えると大司教殿が言っていたぞ!いい加減にしろっ!」


ルイン王子は怒って行ってしまいました。


ボソッ

「ならその大司教達が贅沢な肉を毎日タップリ食べて肥えているのはどうしてなんですかね?」


残されたシオンは誰に言うでもなく呟くのでした。

それから程なくして、私は王城へと呼び出しされました。


「シオン!貴様には筆頭聖女の任を降りてもらう事になった!」


謁見の間にて、ルイン王子の父親である国王陛下、宰相、大司教など集まっている所で、ルイン王子が言いました。


「別に構いませんが、理由をお聞きしても?」


別に筆頭聖女でなくてもやることは変わりませんしね。


「フフンッ、聞いて驚け!ここにいるエリーゼ・バーンネット公爵令嬢が聖女の力に目覚めたのだ!」


「はぁ………」


シオンは気の無い返事で返した。


「エリーゼですわ。シオン元筆頭聖女様」


綺麗にカーテシーをするエリーゼ令嬢だったが、あきらかにシオンを下に見ていた。


「我が娘が聖女の力に目覚めるとは、なんともめでたい!」


大司教と同じくでっぷりと太っている男が父親みたいだ。


「…………それで、そこのエリーゼ様が聖女の力に目覚めたのが何なのですか?」


「チッ、察しが悪な。高貴な公爵令嬢が聖女の力に目覚めたのだ!貴様との婚約を破棄し、エリーゼが筆頭聖女となって、私と婚約し直すのだ!」


「はぁ、それは大司教が認めているのですか?」


「うむ、エリーゼ様の魔力もなかなかのものでな。少し訓練すればすぐに貴様以上の力を手に入れるであろう」


なるほどね。

すでに話は付いているということですか。


「では、エリーゼ様が訓練してせめて私と同等ほどの力を身に着けてから交代すると言うことですか?」


シオンの言葉に、他の者は理解できない顔をした。

いや、お前達の方が何なのよ?


「巫山戯るな!今すぐに交代に決まっているだろう!」


怒るルイン王子に、逆にシオンが理解できない顔をした。


「筆頭聖女の役目は王国の結界を張る事です。大司教が言った事ではありませんか?実力の無い者がやれば全ての力を吸われて死んでしまいます。大司教はエリーゼ様を殺す気ですか?」


!?


「そ、それは………」


酒池肉林に溺れ、重要な役目の事すら忘れてしまっていたようだ。そして、筆頭聖女が王国の結界を命を掛けて張る事で、高い発言力と王族への婚姻が認められているのは、王族にその強大な力を取込みたいのと、民衆へのご機嫌取りも兼ねている。

聖女と王子の婚姻は、十数年に1度のイベントになっているのである。


筆頭聖女であるシオンが首から下げている首飾りが、【神具】であり国全体に結界を張ることの出来る物である。


「なにを言っているのですか!その程度の事、私(わたくし)にもできますわ!」


エリーゼはシオンから無理矢理、首飾りを奪った。


「ダメです!エリーゼ様!すぐに首飾りを手放して下さい!!!」


大司教も理解して、慌てて首飾りを捨てるよう走り出したが───


首飾りが急に光り出した。


「な、何が始まったんだ!?」


「なんですの!首飾りが手から離れませんわ!ち、力が吸われる!?」


光の中でエリーゼ様は首飾りを捨てようとしているが、磁石のように張り付いて取れなかった。

そうこうしている内に、どんどん力を──魔力を吸われて、魔力が無くなると生命力を吸われて干からびていった。


ドサリッ


光が収まると全ての魔力、生命を吸われたエリーゼが干からびて死んでいた。


「ヒィィィィイイイ!!!!」


エリーゼの父親と大司教が叫び声を上げた。


( ´Д`)=3

「はぁ~だからいわんこっちゃないですね」


シオンは首飾りを拾うと自分に掛けた。


「これは大司教の仕業ですよ?こうなるとわかっていてエリーゼ様を筆頭聖女にしようとしたのですから。どうして1番力の強い聖女が神具である首飾りを着ける代わりに、色々と便宜をはかってもらえるか知らなかったのですか?」


シオンの視線に、自分の命を賭けて神具を身に着けているのだから、多少のワガママは融通しろよ!と、言っているのがわかった。


「そ、そんな事知らなかった…………」


「大司教は知っていました。つまり───」


シオンが意味深的に言葉を吐くと、大司教は慌てて待ってくれ!?と叫ぶが……………


「エリーゼ公爵令嬢の殺人犯としてこの者を捕らえよ!」


ルイン王子は自分が責められるのを防ぐ為に大司教に全ての罪を押し付けた。

エリーゼの父親である者も、泣いてはいるが、瞳の奥ではこれで王家と聖教会に借りを作れたと喜んでいるのが見て取れた。それを見たシオンは──


シオンは急激に心が冷めていった。


『もう、この国は終わっているのね』


醜い欲望が渦巻く謁見の間にて、シオンは決断する事になった。





『この国を終わらせる』【表】←←←


『この国を支配する』 【裏】


『???』



シオンは『選択』した。


大司教が連行され、公爵も娘の遺体とともに一緒に出ていくと、ルイン王子が白々しくシオンに言ってきた。


「すまなかったねシオン。大司教に騙されていたんだ。まさかあんな危険な事をしていたなんて。これからも王国の為に頑張ってくれ」


「嫌です」


シオンが何を言っているのか理解できず、少し間があってから、えっ?と声が上がった。


「今、なんて言ったんだい?」

「嫌ですと申し上げました。もうこの国に見切りをつけました。聖女達を連れて出ていきます」


!?


「ちょ、ちょっと待ってくれ!怒っているのはわかるが、そんな事を許せる訳がないだろう!?」


国王もマズイと思い口を挟んだ。


「そ、そうだ。筆頭聖女であるシオンには迷惑を掛けた。前から言っておった聖女達の待遇を良くすると約束する。だから落ち着くのだ」


宰相も国王の言葉に同意して同じような事を言ったが、シオンは手をかざすと結界を張った。


「これはなんのマネだっ!」


謁見の間の半分に結界を張り、国王、王子、宰相を閉じ込めたのだ。


「本当にもっと早く気付くべきでした。これが幼い頃から続けられてきた【洗脳】だったのかも知れませんね。我々聖女達が貴女達にこき使われる消耗品として存在していた事に。普通に考えるとあり得ないのですよ。聖女の方が強い力を持っているのだから、言いなりなる理由がありません」


シオンは結界を叩きながら叫ぶ王子達に、綺麗な礼を取ってその場を後にした。


扉を出ると外で待っていた近衛兵に、シオンは大事な会議があるのでしばらく扉を開けないよう伝えると、シオンは急いで教会へ戻った。


近衛兵は公爵令嬢が亡くなったので、それを話し合う会議だと思い、シオンの言葉を信じて1時間以上は火急の用件以外は扉を開けないように務めた。


この事によりシオンは時間を稼ぐ事に成功したのだった。


シオンは急いで教会に戻ると大司教が公爵令嬢の殺人犯として捕まった事を大声で伝え、他の司教達にも尋問の兵士がやってくると言った。


聖女のいる教会は『神殿』の様な作りの大きな建物で、多くの聖女と司教達が暮らしており、中の大聖堂には毎日多くの民衆が祈りと治療を受けに来ている場所だった。


そんな所で筆頭聖女のシオンが慌てて大司教が捕まった事を叫ぶものだから、教会はパニックになった。


すぐに今日の治療や祈りは中止となり、大聖堂を締めたのだった。シオンは事情を話すと聖女達を集めた。


「これが最初で最後のチャンスです。ここから逃げ出して、全うな人間として暮らしましょう!」


ちなみに司教達は兵士がやってくると聞いて、慌てて部屋の金銀をかき集めて逃げ出した。


聖女のみ働かせて、自分達は自堕落に暮らしていたのだ。叩けばホコリが出まくるので、没収される前に逃げ出したのだった。



このチャンスを利用してシオンは、教会にいた聖女達を全員連れ出す事に成功した。




元々、他の聖女達から信頼されていたシオンは、王城での話しを聖女達にした所、聖女達は簡単にシオンに付いていくと決めた。今まで頑張ってきたのは将来王子様など位の高い者と結婚して優雅に暮らせると夢を魅せられていたのに、簡単に免罪を掛けられて反故にされると知れば当然であった。


聖女達はシオンがどこに向かうのかも聞かずに、用意された馬車に乗るのだった。


シオンが向ったのは隣国だった。

かつて、重病を患った王族が多額の献金の見返りに治療しにきた事があった。

シオンはそういう他国の者に、コッソリと手紙を渡して、聖女達の実情を伝え、亡命できないか前々から打診していたのだ。


隣国にきた聖女達を隣国は温かく迎えて厚遇した。

今までとは違い、タップリと睡眠を取り、栄養のある食事を3食用意し、綺麗なローブも与えた。


謁見の間に張られた結界を、解かれた国王達はすぐにシオンを追わせた。しかし、何処にも見つからず、急に司教や聖女が消えた事により、市民の不安と怒りの矛先は王家や貴族に向った。


結界が消えて魔物が多く現れ、怪我や病気を癒やす聖女が居なくなった事で、今まで当然に受けていた恩恵が無くなり、民衆も聖女達のありがたみを思い知るのだった。


そして隣国に聖女がいると知ったオラクル聖王国は聖女を返還するよう使者を送ったが、聖女達が長年どんな扱いをされていたのか知った隣国の王族、貴族、民衆は断固として拒否した。


国境を封鎖しオラクル聖王国の国交も絶ったのだ。

ご丁寧に、シオンが結界を張り、物理的に行き来出来なくなった。

元々、オラクル聖王国は聖女に頼りっきりで、特産品などろくにない。国交を断切しても特に問題はなかったのだ。



そしてオラクル聖王国は数年と保たずに魔物が増え過ぎて滅んだ。聖女のお陰で魔物の出ない平和な国としていたので、自前の騎士団など弱かったからだ。


各国に支援要請を出したが、聖女が隣国に亡命していたこと。今まで怪我や病気を治すのに膨大な献金を要求され恨みを買っていたので、聖女いないオラクル聖王国を助ける国が現れなかったのだ。



「聖女様、ここでは貴女達を害する者はいません。無理はさせませんので、どうか少しでいいので怪我人や病人を見て頂けませんか?」


シオン達は恩があり、厚遇されている御礼に聖女の力を隣国の民の為に振るった。タップリ休み、栄養の食事をたくさん食べて、他の聖女達の力がメキメキと上がっていき、オラクル聖王国にいた時とは比べ物にならないくらいに強くなった。


「やっぱり環境が悪かったのね。体調が良くなれば、今まで限界まで力を使い働いていたのだから魔力総量も増えていて当然ね」



シオン達は隣国に受け入れられて、民から慕われる存在となった。聖女達も笑顔で慕ってくれる民の為に力を振るい、シオンも隣国の病気を治した王子から求婚された。


「聖女シオン、私と結婚して欲しい。君の他の聖女を思いやる優しさと気高い心に惹かれた。前の国で不当に婚約破棄されたとも聞いている。私は君を幸せにすると約束する!」


シオンは返答に困ったが、王子の根気強くシオンを求める心に打たれて承諾した。最初は戸惑う所もあったシオンだが、いつも優しくリードしてくる王子に惹かれて両想いになり、幸せに暮らすのでした。





【表】ハッピーエンド





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