第43話 決着


 奴の作り出した魔槍のうち、半分程が俺目掛けて飛んでくる。

 それを俺は、二体の精霊に協力してもらい作り出した魔剣で迎え撃つ。


「うぉっ!?」


 魔剣と魔槍がぶつかり合う瞬間、反動を覚悟していた俺は、魔剣が魔槍を、十分に熱したナイフをバターに突き刺すように抵抗なく切り裂いた事に、思わず驚愕の声を上げる。

 先程シルフィと共に作り出した魔剣よりも更に切れ味が増してる……精霊達が自発的に力を貸してくれてるからか?


「やるな! アルス!」


 奴はその様子を見て、苛立ったり驚くどころか、喜ぶかのような表情を浮かべ、感嘆を込めた台詞と共に、残りの半分の魔槍を投げつけてくる。

 こいつ、本当に性格変わり過ぎじゃないか?


「同じ事だ!」


 そんな事を考えながら、俺は再び襲い来る魔槍に向かって剣を振るう。

 宙を舞う剣は、今さっきと同様に、魔槍を掻き消すように砕き消滅させる。


「ならば、これならどうだ!」


 その様子を見てますます楽しそうな表情を浮かべ、奴は俺に向かって両手をかざす。

 するとその向けられた両の手のひらの、右からは炎、左からは岩石が生成され、それがどんどんと大きくなっていく。


「槍状にする無駄など、もうせんよ!」

「こいつ、魔力を直接ぶつける気か……!」


 魔法というのは魔力の塊だ。

 そして普段使われる魔法というのは、その魔力を扱いやすい様に、球や槍のような形にして放たれる。それは、見慣れた形にして扱いやすくしたり、指向性を持たせるためで、そうする事によって魔力を向ける先への命中率や、魔法の精度を高める意味がある。

 その分、形成する為にも魔力を消費するので、無駄な魔力を消費してしまったりもするのだが、奴が今やろうとしているのは、純粋に自身が持つ魔力をぶつけてくる事。

 魔力のロスは無いが、これは……


「お前、自爆する気か!?」

「お前を倒せるなら本望!」


 思い切りが良いな、おい。

 そう、純粋に魔力を放出するという事は、本来普通の魔法を行使する際は、自身には向かない魔力の流れを、自身でも受けると言う事。

 解りやすく説明すれば、放った魔力が全方位に広がるため、放った術者ももろにその影響を受ける……自爆に等しい行為なんだ。


「お前と私、どちらの力が勝るか……勝負だ、アルス!」


 そして奴は、自らの両手を合わせる。

 その動作に応じて、奴が精製した魔力で出来た炎と岩石も、奴の眼前で重なりまじりあい、さながら溶岩のような形状へ変化する。


「ウンディーネ、シルフ……頼んだぜ」


 俺は二体の精霊の名を呼び、ちらりと手にした剣の刀身を見る。

 その呼び掛けに答えるように、その薄青の曲刀は一瞬きらりと光る。


「おぉぉぉぉぉ!」

「うぉぉぉぉぉ!」


 互いの雄たけびが重なり、放たれた魔力の塊と、それを迎え撃つ精霊の剣が衝突する。

 その二つは威力的には拮抗しているのか、どちらも吹き飛んだり消滅する事は無く、ギィィィィィンという聞いた事も無い音を立てながら押し合う。


「この剣でも切れねぇのかよ……とんでもねぇな!」

「正真正銘、私の全身全霊だ……そう簡単に切り伏せられるとは思うな!」


 奴の語気に後押しされたのか、魔力の塊の勢いが更に増す。

 見れば奴は目や口の端から、魔族特有の紫色の血を流している。その様子から見るに、本当に全力の、まさに全身全霊を掛けた一撃なのだろう。

 そこまで本気で真正面から掛かられると、一剣士としては少しばかり尊敬の念を抱いてしまうが、現状はそんな悠長な事を言っている場合でもない。


(このままじゃ押し切られる……!?)


 明らかにパワーバランスが傾いている訳ではないが、踏み込んだ俺の足は少しずつ後に押されている。少しでも気を抜けば吹っ飛ばされ、放たれた奴の魔力に周囲の全てが吹っ飛ばされるだろう。下手をすれば町が半壊……いや、それ以上の被害が出るかもしれない。当然、そうなれば後ろに居るシルフィも……


(それだけは……それだけは避けないとな!)


 そう思い、剣を握る手に更に力を籠める。

 だがそれでも奴の魔力の勢いは留められない。


「くそっ……ダメか!?」

「私の勝ちだな! アルス! ……ぐぁっ!?」


 勝利宣言をした直後、奴が変な声を上げる。

 ……なんだ、一体どうした?


「残念だが、これ以上はさせねぇよ?」

『脇ががら空きであるぞ!』

「オウル! ブリッツ!」


 見れば、奴の両側にオウルとブリッツが居た。

 片側からオウルが噛みつき奴の身を抉り、その反対からブリッツが刀を奴に突き刺している。


「貴様ら……っ!」

「さっき吹っ飛ばされた時に、下手なタイミングじゃ攻撃が通らない事が解ったからな」

『この好機を逃す我では無いぞ』


 オウル、ブリッツ、ナイスだ!

 内心で喝采を送りながら、奴が不意の攻撃に気を取られたこの一瞬を無駄にしないため、俺は全力を込めて踏み込む。

 そして、この一連の流れが決め手となり、奴の放った溶岩のような燃え盛る岩石にはヒビが入り崩れ出していく。


「形勢逆転っ、終わりだ!」

「う……おぉぉぉ!」


 奴はオウルやブリッツから俺に意識を戻し、雄たけびを上げて迎え撃とうとするが、一度大きく傾いたバランスはもう戻らない。


「砕け散れぇぇぇぇ!」


 勢いを乗せて剣を振る。

 剣に砕かれ、霧散する魔力の塊。

 そして、勢いよく振るった剣は、そのまま奴の身を両断した。

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