第42話 精霊従技


 精霊との契約というものは、基本的には対等の状態で行われる。

 オウルが俺に従属した時のように主従を決める事は無い。

 一説には、精霊は万物の事象を司るものであるため、何者にも属し従う事が無いのだと言われている。

 つまり、俺の精霊従技で精霊を従える時も、実際は対等の条件で契約を結んでいる……そう思っていたんだが。


『はぁぁ……これが当代の精霊従技の使い手なのねぇ。自分のスキルの事を何も解ってないじゃない』

『仕方ないんだよー。精霊従技は一子相伝のスキルだからー』

『ま、それもそうね』


 俺の動揺を他所に、勝手に納得するウンディーネとシルフ。

 おいおい、どういう事かちゃんと説明してくれ。


『しょうがないわね。いい? 精霊従技(スピリットマスター)はその名前のごとく、精霊の主人となるスキルなの。やろうと思えば一方的に、主従関係を結んで、精霊を好きに扱う事が出来るスキルなのよ』

『だから、あの時アルスはボクと契約してくれたけど、契約しなくても名前を知られた時点でボクはアルスに逆らえないんだよー』


 あの時って、水竜騒動の時か。


『うん。そうー』

『精霊従技の影響を受けない精霊って言ったら、精霊王くらいなものよ。大抵の精霊は無条件で好きなように扱えるわね』


 そんなとんでもないスキルだったのか、俺のスキル。


『そうよ。ただし、このスキルは精霊の事を大事に扱える者にしか発現しないって条件があるわ。だから悪用されてないし、この事が知れたら第三者にいい様に利用される可能性があるから、今までこのスキルの事はあんまり広まってないわけよ』

『知ってるのはエルフ族くらいで、それも上の方の偉い人達くらいだねー』


 なるほど、確かにエルフなら精霊を悪く扱う事も無いだろうからな。

 ……シルフィも知ってるんだろうか。


『あの子も勿論知ってるわよ。だからあんたの事をあれだけ認めて好いてるんだし』

『シルフィの場合は、個人的にもアルスの事好きみたいだけどねー』

『みたいね。エルフとしては物好きな部類だわ』


 そうか、それは良かった。

 スキルの為だけに俺に近付いてきたって訳では無いんだな。


『あらら? あの子にちゃんと好かれてるって改めて実感して安心した? 安心した?』

『恋だねー、愛だねー』


 ……うっさい。


 というか、今はこんな悠長に話してる状況じゃなかった気が。


『あぁ、それは大丈夫。あたしの力で一時的に時間を止めてるわ』


 そんな事出来るのか、お前!?

 確かに、周りを見てみても皆動きが止まっているし、俺もこの二体と話し始めてから身体が全く動いていないし、動かそうと思っても動かせない。


『シルフは風の精霊、風は流れる物の象徴だからね。ずっとは無理だけど、ちょっとだけ時間を操作するのも訳ないわ』

『本当はかなり無理してるけどねー、シルフ』

『こら! 人が見栄はってるのにあっさりばらすんじゃないわよこの子は!』

『えへへー』


 ウンディーネが悪戯を仕掛けた子供のような声を上げる。

 こいつもこいつで割といい性格をしているような気がしてきた。


『仮でも主人であるあんたが不甲斐ないから、ちゃんと教えてあげようとこの場を設けてあげただけよ。あんたの為じゃないわ、見てられなかっただけよ』

『ツンデレさんだー』

『う、うるさいわね!』


 なるほど、シルフはツンデレ……と。


『あんたも変な事覚えない!』

『まー……そんな訳だから、存分にやっちゃってー』

『そうね。あんたの呼び掛けに応じてこいつと力を合わせてあげたんだから、あのくらいの魔法に負けたら承知しないわよ』


 あぁ……感謝するよ、ウンディーネ、シルフ。


『……じゃあ、時間を元に戻すわ。頑張るのよ』

『ふぁいとー』


 二つの声が消え、その瞬間、身体の自由が利くようになる。

 どうやらシルフが止めていた時間が、また流れだしたらしい。


 目の前には妙に落ち着いた奴と、何本もの巨大な魔槍。

 後ろには倒れているシルフィと、サディールの町。状況は何ら変わっていない。

 だが……


「ここまでされたら絶対に負ける訳にはいかないよな」


 シルフィを護り、二体の精霊達の助力に報いる為にも。サディールを守る為にも。


「さぁ、そろそろ決着をつけよう。アルス」

「望むところだ……!」


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