第8話 独り勝ち



 コンコンコン

 扉をノックする音でルアーナは目を覚ます。

「入って。」

「失礼します。」

 ルアーナは寝ぼけた頭を覚ますためカーテンを開け、日の光を身体全身で浴びる。

「ルアーナ様、髪を整えますのでこちらに。」

「えぇ、分かった…」

 ルアーナは入ってきたメイドの方を見ると、動きがピタリと止まった。

「どうかしましたか?ルアーナ様。」

「えっ!?ファ、ファーナ…なの?」

「えへへ。」

 指摘されたメイドのファーナはニコリと笑う。





「なるほどねぇ。ガルとフーにねぇ。」

 ファーナがルアーナの髪を櫛でとかす。

「そう。二人のお陰。反乱の後からお姉ちゃんの警備が厳重になったから。もう会えないと思った。」

「そっかぁ。良かったぁ。私もファーナと会えなくなるの寂しいもの。」

「お姉ちゃんの言った通り。コネって大事。」

「昔の事、よく覚えてるわねぇ。えらい!」

「ふふん。私はえらい!」

 ファーナが言うと、途端に二人で笑い出す。

 












 ガル、フーシャ、メルモの三人が座る食卓の場にルアーナとその後ろを歩くファーナが来た。

「おっ、ファーナ。どうだった?」

 ガルがニヤニヤとした表情で話し掛ける。

「ふっ、バッチリ。」

 ファーナはサムズアップで成功を告げる。

 フーシャも少し頬を緩める。

「ちょっと、ガル、それにフーも!驚かせないでちょうだい。」

 ルアーナが反対に頬を膨らませて言う。

「でも、会えて嬉しかったでしょう?」

 フーシャにそう言われ押し黙るルアーナ。

「ふふ、それにしてもファーナちゃんもルナに似て可愛い子ですね。」

「ふふん。何たって自慢の妹分だからね!」

 ファーナはメルモのルナ呼びにピクリと反応するが、ルアーナに自慢と言われ雰囲気が緩む。

「あ、三人ともファーナも一緒に食事しても良いかしら?」

「もちろん!俺達ももっとファーナと仲良くなりたいしな。」

 ガルの言葉にフーシャとメルモも同意する。

「三人ともありがとう。ほら、ファーナも。」

「ありがとう。」



 食事を運び終え、メイドが退室する。

「それじゃ、食べましょうか。」

「は~い。」

 ルアーナとファーナが食べ始める。

「「「いただきます。」」」

 三人も手を合わせて食べ始める。

「お、……ルアーナ、様。あれは?」

「あぁ、あれはリントの国での習慣みたい。食事に感謝をするものらしいわ。」

「へぇー。」

「ファーナもやってみろよ。」

 会話を聞きガルが声をかける。

「…いただきます?」

 見様見真似で手を合わせるファーナ。

「どうかな?」

「出来てるぞ!」

 ガルがサムズアップする。

 それを聞き、ルアーナの方を見る。その目はキラキラと輝いていた。

「良くできたわねファーナ。」

「褒められた!ありがとうガル、おね……ルアーナ様。」

「ファーナ、前と同じでいいわ。」

「ホント?ありがとう、お姉ちゃん。」

 ルアーナはご褒美にファーナの頭を撫でる。


「こう見ると本当の姉妹みたいですね。」

 メルモがガルとフーシャに聞く。

「そうだな。やっぱ長い間一緒にいたからだろうな。」

「あぁ、これからはなるべく一緒にいさせて上げよう。離れてた時間を取り戻せるくらい。」

「そうね。」

 二人の仲の良さに三人は微笑ましく感じていた。








「よし!お前ら今日も気合い入れて運ぶぞぉ!!」

「「「「「おおぉぉぉ!!!!」」」」」

 ガルが片手を突き上げ声を張り上げると、作業の為に集まった男達も片手を突き上げ叫ぶ。

「昼まで、各自無理せず働けよ!

 因みに今日はルアーナ様もお越しになられる!

 働きによって褒美も出る!!

 恥ずかしいとこ見せんじゃねぇぞ!!!」

「「「「「お、おおおぉぉぉ!!!!!!」」」」」

 男達は最初こそ戸惑うも、自分達が信じる王女が来ると分かり、先程よりも声が上がる。

「よぉし!気合い十分!!解散!!」

 男達は我先にと街の外にある土が入った袋を持ち、道に広げ、空になった袋を外に持っていき用意されていた土入り袋をまた持ってくる。

 その作業を繰り返す。

 その様子を見て、ガルは満足そうに笑う。





   

「ねぇ、ガル。」

「お?どうしたんだファーナ。」

 そこにはメイド服から動きやすそうな格好になっていたファーナがいた。

「私も働くわ。」

 両手を握り、気合いの入ったポーズをする。

「そうか。じゃあ…」

 ガルがファーナに何をやらせるか悩んでいると、痺れを切らしたファーナが尋ねる。

「ガルは何してるの?」

「俺か?俺はあいつらが運んできた土をならしてるのさ。」

 ガルは土を運ぶ男達を指差す。

「皆は?」

「ここと街の外を行ったり来たりする。体力が無いとキツいぞぉ。」

「じゃあ私、土運ぶね。」

 そう言うと、ファーナは走って行ってしまった。

「ありゃりゃ。大丈夫かな。」

 ガルが頭をかきながら呟く。



 自分の心配は必要無かったとすぐに気付いたガル。

 何故ならファーナは誰よりも速く土を運んでいく。そしてまた、土を取りに外に向かう。

「おいおいファーナのやつ、やばすぎだろ。」

 ガルは口を開けたまま呟く。













「どうかしら?ファーナは。」

 一人のメイドを連れルアーナがガルに話し掛ける。

「あ、あぁ。ルアーナ様。ファーナなら…」

 ガルが指差す先を見る。

 そこには全身が汚れながらも笑顔で走るファーナがいた。

「相変わらず元気そうね。」

 ファーナの姿を見て嬉しそうになるルアーナ。

「えぇ?あれが通常なんですね。……俺、自信無くしそうです。」

「大丈夫よ!ファーナがおかしいだけだから。」

 ガルの弱気にカラカラと笑いながら励ます。

「…ルアーナ様の魔法も化け物ですけどね。」

「何?」

「いいえ!何でも!」



 なお今回のご褒美はファーナの物になった。

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