第7話 思わぬ再会
「いやぁ~今日も働いたなぁ!」
夜の街で赤髪の青年、ガルが伸びをしながら道を歩く。
辺りは復興作業をしていた男達が酒を片手に騒いでいる声が響き、酒場の店員も忙しなく動き回る。
「そうだな。道も大分、様になったな。」
緑髪の青年、フーシャも自身の腕を揉みながらガルの隣を歩く。
「なぁ、フー。俺達も一杯やらないか?」
ガルが手をコップのような形にして、クイッと飲む仕草をする。
「…飲むのは構わないが、昨日のような所は勘弁してくれよ?」
「アッハハ…」
ガルが乾いた笑いをする。
「だ、大丈夫だって!今から行く酒場は現場の皆がオススメだって言ってたぜ!」
ガルが焦ったように弁解する。
「昨日の所も人から聞いた所だったじゃないか。」
フーシャはガルを睨み付ける。
「いやいやいや、昨日の所は一人から聞いただろ?でも今回は何人にも聞いて良い所だって!」
「ハァー、もう良いから。また変なところだったらお前の奢りな?」
「は、はい。」
「な、なぁフー。」
「な、何だよ。」
二人は顔を近付け声を潜めて話す。
「ここ、ホントに俺達が来て良いんだよな?静かすぎないか?」
ガルは回りの人達を見る。全員、酒を飲んではいるが誰一人喋っていない。
「それに、ここの酒少し高くないか?」
メニューの値段は他の店よりも一回り程、いやかなり高い物もある。この二人は貴族と言っても貧乏だったせいか、金銭感覚は平民並であった。
「ガル……ここは僕達の知っている酒場ではない。つまり、変なところ…」
「おまっ!」
フーシャの言わんとしていることに気付いたガルは一度声を上げかける。
「静かにしたまえ。ガルくん。」
しかし、他の客の視線が途端に集まり拳を握り締める。
「分かったけど…覚えとけよぉ?」
視線から逃げるように机に顔を突っ伏し、腕の隙間からフーシャを睨む。
「あぁ、今日の酒は一段と上手くなりそうだ。」
が、フーシャには効かなかったようだ。嬉しそうに声を弾ませている。
フーシャは片手を上げ、それに気付いた店主が注文を聞きにやって来た。
「僕はモヒートで。」
「なぁっ!?……ゴホン。俺はジン·トニックで。」
「かしこまりました。」
店主は注文を聞き終え、戻る。
「おい、フー。いくらなんでも高いだろ。」
「昨日、酒場、責任。」
「…………一杯だけな。」
すぐに折れたガルであった。
「お待たせしました。ごゆっくり。」
店主が酒を運んできた。
「おぉ、ではでは早速。」
ガルは唯一、馴染みの値段だった酒を頼んだようだ。
「かぁぁ、すげぇ。一番安かったのに、今までで一番うめぇ。」
ガルは一口で半分程飲んでしまった。
「ガル…こういうところではもうちょっとゆっくり飲もうよ。」
そう言ってフーシャも酒を飲む。
「おぉ、すごいよガル。すごい爽やかで美味しい。」
フーシャも感動したように目を輝かせている。
「ったりまえだ。たけぇんだもん。」
ガルは少し拗ねるように言う。
それに我慢できずフーシャはクスリと笑う。
「おい。あれ。」
楽しく話していると、ガルが何かに気付いたようにフーシャに声を掛ける。
「どうしたんだ?」
「見てみろよ。」
ガルの言った方向には一人、酒を飲む誰かがいた。
「あの人が…何だ?」
「さっき顔が見えたんだが…」
そう言って、突然立ち上がるとその件の人の所にガルが向かう。
しばらくすると、その人を連れてガルが帰ってきた。
「ほら、フー。この人だよ。俺達にこの国の事教えてくれた人。」
「あぁ、あの時の。この国を案内してくれた子だね。」
そう言うと、ガルとフーシャは一緒に飲もうとその人を促す。その人も拒むことはせず、おとなしく座る。
「しかし、驚いた。成人してたんだな。」
ガルはその少女に笑顔で話す。
「そうだね。あの時は子ども扱いしてすまない。ええっと、そうそうファーナ。」
フーシャも記憶を探り、思い出した名前で呼ぶ。
「問題ない。私は身体が子どもっぽいから。それに、子どものままだと何かと便利だからね。」
ファーナもニコッと笑う。
「それと、すごいね二人とも。たった三人で反乱を先導して成功させるなんて。」
「なぁに、それもこれもファーナがこの国の事を教えてくれたからさ。」
フーシャはファーナに頭を下げる。
「そうそう、王妃様…いや今は王女様か。も、良い人だったし、全部ファーナのお陰だな。」
「本当?」
「あぁ。」
ガルはサムズアップをする。
「じゃあ、ガルくんの奢りね。」
「なあっ!?」
「ぶふっ!」
ファーナの提案にガルは驚き、フーシャは耐えきれず吹き出す。
「大丈夫よ。私のはファジーネーブル。高くないわ。」
ファーナはニコリとしてガルの肩をポンポンする。
「でも、俺のより高いな…」
「奢ってやれよ。」
渋るガルにフーシャが呑気に話す。
「てめぇ。」
またもやフーシャを睨むガル。
「返事をしたのはガルじゃないか。」
フーシャの言葉にガルは何も言い返せなかった。
救いを求め、ガルはファーナの方を見る。
しかし、そこにはサムズアップをして目をキリリとさせたファーナがいた。
「………はい。」
「そう言えば、王女様は元気?」
ファーナが二人に聞く。
「あぁ、元気だぞ。今もメルと一緒に何かしてんじゃないか?」
「何かって?」
「夜にちょくちょく二人で会ってるらしいな。」
それにはフーシャが答える。
その時、ほんの少しだけファーナの顔から光が消えた。
「どうした?」
違和感に気付いたガルが話しかけるが、その時にはいつも通りの顔になっていた。
「ううん。王女様は私と同じ孤児でね、王族に魔法の才能を認められて王家に入ったのよ。だから昔はよく一緒に遊んだの。だから、少し悲しくなって。もう、届かないところにいるんだって思っただけ。」
ファーナは少し悲しそうに話す。
「確かに今じゃ雲の上、だろうな。」
フーシャが上を見上げて言う。
「うーん。俺達の力で何とかならないかな?」
ガルは腕を組み、唸るように呟く。
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