第6話 初めての友人



「あぁ~~つ~か~れ~た~」

 私室にてルアーナが一人でベッドに突っ伏している。

「まさかあんなに忙しいなんて、国の統治ってこんなに大変なのねぇ。

 …あの三人がいて良かったわぁ。」

 ゴロゴロと大きいベッドを転がる。


 途中、ふと机の上にある書類に目をやる。

「うぅ…」

 小さく呻いた後、椅子に腰掛け書類を睨む。


「これは…あぁ道の修理ね。少なくともあと一週間はかかるわね。私の魔法で近くの山を崩して、土はたくさん用意出来たけど、運ぶのは人力だし。」

 続いてもう一枚を見る。

「三人の屋敷はとりあえず再利用で良いと言われたけど、まだ先だからこの城に住んでもらってるし。

 …問題は中にある金と死体なのよねぇ。

 金は復興に有り難く使わせてもらうけど、あの貴族共と商人もグルだったから外部から商人を呼ばないと金を換金出来ないし、腐っても反乱だから警戒して来てくれないのよねぇ。

 死体は"街の人達のために"野晒しにしてるけど、処理がめんどくさいわね。

 三人にとりなしてもらってリントと同盟を結べれば、武装兵を街の外に出しても問題は無いけど、死体のために人手を割くのも惜しいし、けどほっとくと虫がたかって衛生的に問題だし…

 ハァー…とりあえずリントと手を結べなければ国は終わりね。」



 

 コンコンコン


 ルアーナが椅子でだらけきっていると扉を叩く音がした。

「え!?えーー、えーー。どうぞ。」

 散らかった書類を適当に片付け、飲んでいた酒を引き出しにしまい、入室を促す。

「失礼します、ルアーナ様。お時間よろしいでしょうか?」

 人影が一つ部屋に入ってきた。

「メルモ?いいけど、一体何の用かしら?」

 メルモはルアーナのそばまで近付く。

「今日はすごく頑張っていらっしゃったので軽食をと思いまして。」

 メルモは腕に下げてあった籠の中をルアーナに見せる。

「そ…それは!クッキーじゃない!つ、作ったの?」

 ルアーナは中身を見て明らかにテンションが高くなる。

「はい、私の手作りです。どうですか?」

 メルモはクッキーを机の上に置く。

「う…でも、夜に食べると…」

 ルアーナは涎を垂らしながらも、お腹に手を当てて動きを止める。しかし、目はクッキーを見つめている。

「ふふ、私は今から食べますよ。だからもし食べるなら共犯になりますけど、どうですか?」

 この共犯という言葉に、ルアーナの頭の中の我慢の文字が消えた。

「じゃ、じゃあ!明日の作業についての話をしながら二人で食べましょう!」

「そうですね。」









「……それでね?とにかく人手が足りないのよ!リントと同盟を結べれば人手を寄越してくれるかしら?」

「ルアーナ様、そのお話三回目ですよ?」

「むぅー、言ったでしょ?敬語を止めないとずっとこの話をするって!」

 子どもの様に駄々を捏ねてルアーナは頬を膨らませる。

「うんん、ですが…」

「ですがもよすがも無いのよ!」

 メルモは悩む素振りを見せるが、

「……分かりました。では私のことはメルと呼んでください。ガルとフーはそう呼びます。」

 流石に折れたのか了承する。

「そう!それよ!私はルナでいいわ。」

 ルアーナは満足そうに頷く。

「ルナさ…ルナも親しい人にはそう呼ばれてる…の?」

「今考えたわ!」

 ルアーナの言葉にキョトンとした後、笑い出す。

「ルナは結構子どもっぽいのね。」

「なら、私を甘やかしなさい!私は子どもなのだから!」

 ルアーナは得意気にメルモに要求する。

「ふふふ、しょうがないわね。」









「それじゃあ、おやすみルナ。」













「あれ?」

 ルアーナが自分の頭を撫でるように起き上がる。

「夜に…確か……メルモが来て、話ながらクッキー食べて、その後…お互い敬語を止めて………あっ!」


 ルアーナは何かを思い出すと顔を赤くし、枕に顔を埋める。

「やっちゃったぁーー!!」

 ルアーナは昨日の事を思い出したようだ。

「酒を飲むんじゃなかったぁ!」



 この日、午前中は部屋から出ることは無かった。











「あら、ルナじゃない。部屋に籠ってたけどどうしたの?」

 午後になり、ルアーナが城の外に出る。が、偶然にも作業中のメルモに会ってしまった。

「うぅ、メルごめんなさい。夜の事なんだけど…」

 両手の人差し指を合わせてモジモジするルアーナ。

「ふふ、二人の秘密にするに決まってるじゃない。あんなに可愛いルナを他の人に見せるなんてもったいないわ。」

 当たり前だと言わんばかりにメルモが秘密を守ると約束する。

「あ、ありがとう。恥ずかしくて死にそうだったわ。」

「だから、部屋に籠ってたの?」

「……そうよ。悪いかしら?」

 目を背けてルアーナが肯定する。




 今日のルアーナは恥ずかしさを紛らわすようにいつもより大声だった。

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